猫の皮膚病、それ放っておいても大丈夫?
痒くてイライラ、毛が抜ける…猫にとっても飼い主さんにとっても厄介な皮膚病。原因は外部寄生虫から免疫疾患、腫瘍、ストレスまで様々です。原因によって治療法が違い、また、治療が長期に渡ることも珍しくありません。したがって、皮膚病に対処するには、何より原因を特定することが重要となります。
この記事では、猫で一般的に見られる皮膚病や原因、診断、治療法などについて知っておきましょう。
痒くてイライラ、毛が抜ける…猫にとっても飼い主さんにとっても厄介な皮膚病。原因は外部寄生虫から免疫疾患、腫瘍、ストレスまで様々です。原因によって治療法が違い、また、治療が長期に渡ることも珍しくありません。したがって、皮膚病に対処するには、何より原因を特定することが重要となります。
この記事では、猫で一般的に見られる皮膚病や原因、診断、治療法などについて知っておきましょう。
一口に皮膚病と言っても症状の出方にはいろいろあります。
原因によって症状の出方が違う場合もあれば、似たような症状を示す場合もありますが、まずは、皮膚病にはどんな皮膚症状があるのかを見てみましょう。
一般的に「湿疹」と言う時は、赤みやぶつぶつ、水ぶくれなどが含まれます。
また、潰瘍とは、皮膚や粘膜が傷ついた結果、患部および周辺の組織が欠損した状態を言います。
では、前出のような皮膚症状を引き起こす原因には何があるのでしょうか。
それは肉眼では見えない細菌類から精神的なもの、自己免疫を含む他の病気まで広範にわたります。
ノミ、ダニ、シラミといった小さな虫に寄生されることで皮膚に炎症が起こります。ノミの場合、寄生した宿主の血を吸う際にノミの唾液が皮膚に入り、それが刺激となって痒みが生じます。
猫を室内のみで飼育しているのでノミにはつかれないと思うかもしれませんが、意外にも人間の服や靴について侵入してくることがあるので、油断は禁物です。
ダニの寄生では、疥癬や耳疥癬、毛包虫症、ツメダニ症などがあります。
ウィルス・細菌・真菌はいずれも微生物で、それぞれ大きさや構造、増殖方法などが違います。
細菌は中間の大きさで、自力では増殖できないウィルスに対し、細菌は自己増殖が可能であり、相手の細胞内に侵入して感染を広げていくのが特徴的です。
細菌にはブドウ球菌や大腸菌、レンサ球菌などがありますが、猫で気をつけたい細菌性皮膚炎には膿皮症があります。
真菌とはいわゆる“カビ”であり、いろいろな種類がありますが、原因となる真菌に感染することで皮膚の赤みや痒み、脱毛、ふけ、かさぶたなどの症状が見られるようになります。
猫で注意を要する真菌性皮膚炎(皮膚真菌症)には、皮膚糸状菌症やマラセチア感染症などがあり、皮膚糸状菌症は別名を猫カビとも言われます。
体に入ってきた異物に対して、免疫システムが過剰に反応すると皮膚症状を起こすことがあります。これをアレルギー性皮膚炎と言い、アレルギーを引き起こす異物(物質)をアレルゲンと言います。
アレルギー性皮膚炎には、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー性皮膚炎、ノミアレルギー性皮膚炎、接触アレルギー性皮膚炎などがあり、猫ではアトピー性皮膚炎、食物アレルギー性皮膚炎、ノミアレルギー性皮膚炎がよく見られます。
意外なものでは蚊によるアレルギーもあり、専門的には蚊刺咬性過敏症(ぶんしこうせいかびんしょう)と言いますが、この場合には治療と併せて蚊を寄せつけない環境づくりも必要です。
ケガや虫刺されなどの傷から細菌感染を起こし、赤く腫れる、膿が出る、痛みなどの症状が出ることがあります。
栄養不足によって皮膚に症状が出ることがありますが、たとえば、皮膚や被毛の構成および健康には欠かせないタンパク質が不足すると、毛の艶が悪くなり、細くなって抜けやすくなる、皮膚がかさついてうろこ状になるなどの症状が見られるようになります。
自己免疫疾患やホルモン性疾患、糖尿病など、皮膚病以外の病気によって皮膚症状が出ることがあります。
自己免疫疾患は、ウィルスや細菌など体に入ってきた異物に対して、本来は防御・排除する役目を担う免疫系が正常に働かず、自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気です。
自己免疫疾患で皮膚に症状が出るものには天疱瘡(てんぽうそう)や皮膚エリテマトーデスなどいくつかありますが、天疱瘡では痒みや膿疱(のうほう/皮膚の下に白~黄色の膿が溜まるもの)、かさぶた、潰瘍などの症状が見られます。
また、皮膚エリテマトーデスでは紅斑やびらん(皮膚や粘膜表皮が欠損し、その下の組織が露出した状態)、かさぶたなどが見られるようになります。
猫が何らかの強いストレスを受けている時、自分の体を過度に舐め続けるといった転位行動を見せる場合がありますが、それによって毛が短くなる、毛が抜ける、皮膚に炎症が起きるなどの皮膚症状が出ることがあります。これを心因性皮膚炎と言います。
白系およびメラニン色素の少ない高齢猫に多く見られる日光性皮膚炎では鼻先や口の周り、目の下側、耳の先端といった毛が少なく、かつ日光があたりやすい部分に赤み、痒み、ふけなどの症状が表れます。
進行するとさらに強い痒みや潰瘍、脱毛などの症状も見られるようになります。
原因は紫外線と考えられていますが、発症に至る詳細は解明に至っていません。
中には原因がよくわからないケースもあります。
次に、猫で一般的な皮膚病について見てみましょう。
コーネル大学(アメリカ)の猫健康センターによると、猫の皮膚は体の4分の1を占め、体中で最大の器官だそうです(*1)。
また、動物病院に来る猫のうち6~15%が少なくとも一つの皮膚病をもっているという研究報告もあるとのことで、100匹中15匹と考えると、身近な病気であると言えるでしょう。
そんな皮膚病の中で、以下に挙げたようなものは猫で一般的によく見られます。
食物アレルギー性皮膚炎では、肉類や魚類、卵、乳製品、穀類(例:米、小麦、とうもろこし)などがアレルゲンになります。
特に症状が出やすいのは、目の周り、口の周り、耳、お腹、前脚・後ろ脚の付け根、指の間などで、発疹や痒み、脱毛などが見られます。
ヒトノミ、イヌノミ、ネコノミ、ネズノミなど日本に生息するノミは70種類程度と言われますが、猫につくノミの多くがネコノミです。ネコと名が付いているものの、実際は人や犬などにも寄生します。
猫の毛をかき分けて赤黒い胡椒の塊のようなものが見えたら、すでにノミに寄生されていると考えていいでしょう。特に、背中やお腹、内股、尻尾などはノミが見つかりやすい場所です。
症状としては強い痒みやふけ、かさぶた、脱毛などが見られます。
ノミはアレルギー以外に、瓜実条虫、猫ひっかき病の原因となるバルトネラ菌などを媒介することがあるので、予防と駆虫が何より大事となります。
カビの一種である糸状菌の感染によって、円形の脱毛やふけ、かさぶた、皮膚の赤みなどの症状が見られるようになります。皮膚糸状菌症は他の動物や人にもうつるため、同居ペットと接触させない、手をよく洗うなどの対処が必要になります。
ダニの一種であるヒゼンダニの寄生により、強い痒みやふけ、かさぶた、皮膚の肥厚、脱毛などの症状が見られるようになります。上記の皮膚糸状菌と同様、他のペットや人にも感染するため、感染防止対策が必要です。
ダニの一種であるミミヒゼンダニが耳に寄生することにより、強い痒みや乾燥した黒っぽい耳垢が増えるなどの症状が見られます。上記の疥癬と同様、他のペットや人にも感染するため、感染防止対策が重要となります。
健康な皮膚には常在菌というものが存在します。健康であれば常在菌は何も問題を起こすことはないのですが、免疫力が低下したり、感染を起こしやすい状況になり得る病気(例:糖尿病、副腎皮質機能亢進症)があったりする場合、常在菌が異常繁殖し、皮膚病を引き起こすことがあります。
膿皮症では主にブドウ球菌が異常繁殖し、痒み、赤み、かさぶた、発疹、脱毛などの症状が見られるようになります。
顎ニキビとは、口の周囲や顎の皮脂腺が詰まり、黒い点々のようになる皮膚病です。
これを放置すると赤みのある発疹、痒み、脱毛などの症状が見られるようになり、細菌感染を起こしてさらに重度になると出血や膿も見られます。
原因はストレス、アレルギー、口周辺の手入れ不足、ホルモンバランスの崩れ、薬品への反応、毛包虫症(ニキビダニ症)などいろいろ考えられます。
日光性皮膚炎のある猫では、室内飼育であっても日光浴の制限や窓から入り込む紫外線対策が必要になります。この皮膚病は扁平上皮癌へ移行することもあり、その場合にはできるだけ早めの摘出手術が推奨されます。
以上、猫の皮膚病にはいろいろあるわけですが、まずは問診や身体検査をし、疑わしい病気を推察していきます。
この時、猫の症状はもちろん、病歴や食事内容、他猫との接触の有無、植物や薬品に接触したか、最近変わったことはなかったかなど、診断に有用と思われる情報は獣医師に話しましょう。
その結果、必要に応じて以下のような検査が行われることがあります。
なお、便宜上、「1」~「5」に分けてご紹介していますが、実際は皮膚病の原因を突き止めるためにいくつかの検査を行い、その結果、総合的に判断されるのが一般的です。
ノミ取り櫛で全身を梳かし、ノミを始めとした視認できる寄生虫、およびその糞があるかどうかを確認します。
皮膚の表面を少し削り取ってスライドガラスに乗せ、ヒゼンダニやニキビダニなど小さな寄生虫、およびその卵があるかどうかを顕微鏡で確認します。
紫外線をあてることで真菌である皮膚糸状菌がいるかを確認する検査で、皮膚糸状菌に感染していると毛が青く光ります。
綿棒やテープを使い、ふけや膿などを採取した後、スライドガラスに乗せて特殊な染色をし、顕微鏡で細菌や真菌がいないかを確認します。
細菌を培養し、どの薬が効くかを調べ、細菌の種類を特定します。
少量の毛を抜き取り、培養をして真菌の種類を特定します。
血液を採取して、検査機関にてアレルゲンを調べます。
毛を抜き取り、顕微鏡で毛の構造や異常はないかなど確認します。
皮膚の一部を切り取り、検査機関にて細胞を調べます。皮膚を切り取るため、状況によっては局所麻酔、または全身麻酔が必要になることがあります。
この他、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や甲状腺機能低下症、糖尿病など皮膚病の原因が他の病気にあると思われる場合には、それぞれに応じた血液検査や尿検査、レントゲン検査、エコー検査などが必要になることがあります。
さて、皮膚病の原因や病名がわかったならば治療の段階に入りますが、当然、原因によって治療法が分かれます。
それぞれの寄生虫に対応した駆虫薬を処方し、状況によって薬浴も行われます。
耳疥癬の場合は外耳炎の治療が必要になることもあります。
抗生物質の投与、および抗菌性のあるシャンプーなどで治療します。
状況により、内用または外用の抗真菌薬の投与、抗菌性のあるシャンプーの使用などで治療を行います。
アレルゲンが特定できている場合、生活環境からできるだけアレルゲンを遠ざけるようにします。併せて、痒みに対しては抗ヒスタミン剤やステロイド剤などを投与する他、薬用シャンプーや保湿剤を用いることもあります。
また、状況によっては減感作療法(アレルゲンとなる物質を敢えて体内に投与することで体を徐々にアレルゲンに慣れさせていく根本治療法)が行われることもあるでしょう。
アレルゲンとなる食べ物を含まない食事を与えるようにします。
アレルゲンを見つけるにはアレルギー検査の他、除去食試験を行うこともあります。これはアレルゲン候補の食べ物を除いた食事をしばらく与えた後、再度その食べ物を与えてアレルギーが出るかどうかを見る試験です。
ノミの駆除薬の塗布を行い、痒みの程度により抗ヒスタミン剤やステロイド剤などが処方されることがあります。
原因がストレスであるなら、ストレス要因となっているものを探り、それをできるだけ排除するようにします。同時に、ストレスが溜まらないよう一緒に遊ぶ時間を増やす、心地よい寝場所を用意するなど生活環境の改善も必要になるでしょう。
その他、状況により、抗うつ剤やサプリメント、フェロモン剤などが処方されることもあります。
最後に、猫の皮膚病を予防するにはどうしたらいいのかを考えてみたいと思います。
100%皮膚病を予防するのは難しいとしても、以下のようなことは少なからず予防につながるでしょう。
室内飼育であってもノミやダニはどこから侵入するかわかりません。定期的な予防を忘れませんように。
ハウスダストは代表的なアレルゲンの一つですし、ノミやダニはマットの裏やソファの隙間などに潜んでいることがあります。こまめに掃除や洗濯をして皮膚病のリスクを減らしましょう。
炎症や痒みがあると体が温まった時に痒みが増すことがありますが、大阪大学の研究では、神経栄養因子であるアーテミンという物質が皮膚の温感を増強させて痒みを引き起こすメカニズムを発見しています(*2)。
また、ノミは気温18~27℃、湿度75~85%くらいの環境を好みますし(*3)、細菌・真菌は温度や湿度が高いと繁殖しやすくなります。このように痒み、皮膚病には温度や湿度も関係するので、季節や状況によって温度・湿度管理を行うといいでしょう。
被毛や皮膚をある程度清潔に保つことで皮膚病の予防になりますし、また、日々のお手入れをすることで異常を早めに発見することもできます。
栄養不良は皮膚・被毛の健康にも影響します。質の良い食事を与えるようにしましょう。
過剰なストレスは体の健康ばかりでなく、行動の問題にも影響を及ぼします。
余計なストレスがかかっていないか愛猫を観察し、何かストレスを感じているようであれば、その原因を探り、極力ストレスを遠ざけるよう努力しましょう。
その他、中にはヒマラヤンやアビシニアン、ペルシャなど皮膚病になりやすい傾向にあるとされる猫種もいるので、そのような猫と暮らしている場合は、より皮膚のケアを心がけたいものです。
猫だって痒いのは嫌なはずです。皮膚病は時に治療が長期にわたることもあるので、愛猫に何か気になることがある場合には、早めに動物病院へ行きましょう。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 Cornell Feline Health Center「Feline Skin Diseases」
https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/feline-skin-diseases
*2 Research at Osaka University, 研究で世界をHAPPYに, 大阪大学の研究専用ポータルサイト「アトピー性皮膚炎など“温もると痒い”メカニズム解明」
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2012/20120712_1
*3 For your LIFE, フマキラー「ノミが発生する原因とは? ノミの退治方法と予防対策」
https://fumakilla.jp/foryourlife/129/
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。