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症状から見つける猫の病気「痒がる」

症状から見つける猫の病気「痒がる」

「痒み」は強くなればなるほど辛いもので、掻き壊せば化膿したり、皮膚に色素沈着が生じたり、さらには細菌の二次感染を起こすこともあります。当の猫も見ているほうも辛くなるのが「痒み」ですが、一般的な症状ゆえに原因も様々。その原因には何があるのか、代表的な病気について知っておきましょう。

1.猫の「痒み」の原因

まずは、猫が痒がる時、どんな原因があるのかざっくりと見てみましょう。

-痒みの原因-
  • 外部寄生虫(ノミ、ダニ、シラミ)
  • アレルギー
  • 細菌・真菌
  • ストレス
  • ホルモンバランスの異常
  • 自己免疫の異常
  • 腎臓病や肝臓病、糖尿病
  • 栄養不足
  • 紫外線
  • 遺伝的背景  など

このように一口に「痒み」と言っても様々な原因があり、時にそれが複雑に絡み合っていることもあります。

したがって、それらしい原因が予測できない場合、または病気の有無を確認するためには皮膚の検査以外に血液検査や生検、レントゲン検査など複数の検査が必要になることもあるでしょう。

では、次に「痒み」の出る代表的な病気について見ていきたいと思います。

2.外部寄生虫

外部寄生虫

【ノミの寄生】

概要:

ヒトノミやイヌノミ、ネコノミなど日本には70~80種類近いノミが存在するとされる中で、現在、猫や犬につくノミの多くはネコノミと言われています。
体長2mm程度の小さな虫ながら、一時の痒みのみならず、大量に寄生された場合は貧血を起こしてしまうことがあります。

また、ノミの吸血時にその唾液に含まれるパプテンと呼ばれるタンパク質に対してアレルギー反応を起こし、「ノミアレルギー性皮膚炎」を発症してしまうこともあります。
さらには、消化管内寄生虫である「瓜実条虫(サナダムシ)」を媒介するのもノミです。

もう一つ付け加えるなら、人間が猫にひっかかれたり咬まれたりして発症する「猫ひっかき病」は、原因となるバルトネラ菌がノミによって猫から猫へと伝播していきます。

治療・対処:

このようにいくつもの病気に関係するノミは一度家の中に入り込むと心地よい環境(温度20~30℃、湿度70%以上)(*1)の中で大繁殖してしまうので、こまめな掃除とともに、ノミの予防・駆虫薬を定期的に使用して予防・駆除を心がけましょう。

【疥癬】

概要:

猫の疥癬の原因は、猫小穿孔(しょうせんこう)ヒゼンダニの寄生によります。

この極小のダニが皮膚に穴を掘って棲みつくことでアレルギー反応が起こり、激しい痒みとともに赤みのある発疹、ふけ、毛が薄くなる、脱毛、皮膚が硬く分厚くなる、痒みのために頭を振るなどの症状が見られます。

初期には耳や顔など頭部から感染が始まり、やがて全身に広がっていきます。
疥癬は他のペットや人間にも感染することがあるので注意が必要です。

治療・対処:

イベルメクチンやセラメクチンなどの駆虫剤を用いる他、痒み止めの薬が必要なこともありますし、炎症が強い場合や細菌感染を起こしている場合は抗生剤が処方されることもあります。

併せて、他のペットとの接触は避ける、生活環境をこまめに掃除するといった対処が必要です。

【耳疥癬(耳ダニ)】

概要:

猫の耳疥癬の場合は、耳ヒゼンダニの寄生が原因となります。
強い痒みの他、黒っぽい耳垢が多量に出るのが特徴的です。
耳疥癬は外耳炎の原因になる他、他のペットにも感染するので初期の対応が重要となります。

治療・対処:

駆虫剤を使用する他、痒み止めの薬や、炎症が強い場合、および細菌感染を起こしている場合は抗生剤が処方されることもあります。

【毛包虫症(ニキビダニ症)】

概要:

毛包虫症は、毛包虫(ニキビダニ、デモデックス)と呼ばれるダニが主に毛包の中(毛穴)に寄生することで発症します。

このダニは健康な猫の皮膚にも存在しますが、免疫力の低下や子猫など健康状態の良し悪しで過剰繁殖することがあり、皮膚病として発現します。
症状には局所性のものと全身性のものと2つがあり、特に後者では強い痒みとともにふけや膿疱、かさぶた、脱毛などが見られ、細菌の二次感染を起こすこともあります。

治療・対処:

イベルメクチンやモキシデクチンなどの駆虫剤を使用しますが、二次感染がある場合には抗生剤が処方されることもあります。併せて、免疫力の低下が関係するため、補助的に食事療法が取り入れられる場合もあるでしょう。

3.アレルギー性皮膚炎

アレルギー性皮膚炎は体に入ってきた、または接触した異物(アレルゲン)に対して体の免疫システムが過剰反応してしまうことで発症します。

それには以下のようなものがあります。

【食物アレルギー性皮膚炎】

概要:

特定の食物成分に対してアレルギー反応が起き、皮膚症状が出るものを食物アレルギー性皮膚炎と言いますが、犬に比べて猫では少ないようです。

それは犬ほど食べられるものが多くはないからかもしれません。
いずれにしても食物アレルギーが出た場合には、痒みの他、皮膚の赤み、発疹、むくみ、毛艶が悪くなる、嘔吐、下痢、くしゃみ、咳などの他、場合によっては発熱や脱毛の症状が見られることがあります。

治療・対処:

アレルゲンとなり得る食べ物には牛肉、豚肉、鶏肉、魚、卵、牛乳などの動物性食品や、大豆や小麦といった穀物などがありますが、アレルゲンが特定できるのであれば、アレルゲンを含まない食事を与えることで対処することになります。

また、症状が強い場合には、それに合わせた薬が処方されることもあるでしょう。

【アトピー性皮膚炎】

概要:

猫のアトピー性皮膚炎は、遺伝的素因が関係した慢性的な炎症と痒みを伴う皮膚疾患です。

皮膚のバリア機能が低下していたり、もともとアレルギー体質であったり、または免疫の異常があるなど、いくつかの要因が複雑に絡み合うことでアトピー性皮膚炎を発症するのではないかと考えられています。

アレルゲンになり得るものはいろいろですが、主に以下のようなものがあります。

  • ハウスダスト
  • ダニ(埃や塵に潜むコナヒョウヒダニの類)
  • 花粉
  • カビ
  • 昆虫の死骸
  • 他の動物のふけ  など

症状としては、強い痒みの他、皮膚の赤み、湿疹、脱毛、皮膚の色素沈着、ふけ、かさぶた、皮膚の皺が多くなって分厚くなる、異臭などが見られます。
なお、アトピー性皮膚炎においては、ヒマラヤンやアビシニアンなどは発症しやすい傾向にあると言われています。

治療・対処:

アトピー性皮膚炎の治療ではアレルゲンを極力遠ざけることを目的とした環境改善、およびスキンケアが重要となりますが、併せて抗ヒスタミン剤や免疫抑制剤、ステロイド剤、インターフェロン、分子標的薬(JAK阻害薬)などの薬が猫の状態に合わせて処方されます。

その他、減感作療法や再生医療(幹細胞療法)、サプリメントの使用などが選択肢になる場合もあります。

減感作療法とは、アレルゲンを敢えて猫の体内に少しずつ入れていくことでアレルゲンに慣らし、症状を緩和させる療法のことです。

一方、再生医療(幹細胞療法)は、健康体の動物から脂肪組織を採取し、体外で細胞培養をした後、治療を必要とする動物の体内に投与する療法のことで、自然治癒力や自己修復能力の活性化により、主に炎症の抑制を期待した新しい療法です(*2)

【ノミアレルギー性皮膚炎】

概要:

前出のとおりノミアレルギー性皮膚炎はノミの唾液に含まれるパプテンと呼ばれるタンパク質に対してアレルギー反応を起こし、皮膚症状が発現します。
強い痒みの他、皮膚の赤みや脱毛などが見られますが、特に背中や尻尾の付け根、後肢などは症状が出やすいと言われます。

治療・対処:

ノミの駆虫剤を使用するのと併せ、炎症を抑えるステロイド剤や二次感染に対する抗菌薬などが処方されることもあります。

【蚊刺咬性過敏症(ぶんしこうせいかびんしょう)】

概要:

病名のとおり、蚊に吸血されることで蚊の唾液に含まれるタンパク質に対してアレルギー反応を起こし、皮膚症状が発現する病気です。
特に蚊に刺されやすい耳や鼻筋、場合によっては肉球に痒みや小さな発疹、脱毛などが見られます。

治療・対処:

痒み止めの外用薬の他、炎症を抑えるステロイド剤が処方されることもあります。
蚊はフィラリアを媒介するため、猫用のフィラリア予防薬を定期的に投与する、蚊避けグッズを使用するなどして予防しましょう。

4.細菌・真菌

細菌・真菌

【皮膚糸状菌症(猫カビ)】

概要:

皮膚糸状菌は、皮膚糸状菌と呼ばれる真菌(カビ)に感染することで発症します。

特に免疫力の低い子猫や高齢猫、基礎疾患のある猫に好発し、顔や耳、足先、尻尾などに皮膚の赤み、ふけ、かさぶた、円形の脱毛、痒み(やや弱い)などの症状が見られます。

皮膚糸状菌は他のペットや人間にも感染するので注意が必要です。

治療・対処:

症状が出ている部位が少ない場合は抗真菌薬の塗り薬やローション、および抗真菌効果のあるシャンプーなどで治療が可能ですが、全身の感染、または重度の場合は抗真菌薬の内服が必要になることがあります。

併せて、感染猫の抜けたやふけも感染源となるため、生活環境の消毒やこまめな掃除、同居ペットがいるのであれば隔離なども必要になります。

【膿皮症】

概要:

人間でも猫でも皮膚には常在菌というものが存在し、健康体であれば何も問題がないのですが、感染を起こしやすい基礎疾患があったり、免疫力や皮膚のバリア機能が下がったりすると常在菌が異常繁殖して皮膚病を引き起こすことがあります。

膿皮症では主にブドウ球菌が異常繁殖し、痒み、皮膚の赤み、ふけ、膿疱、かさぶた、脱毛などの症状が見られるようになります。
特に、子猫や、糖尿病、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、アトピー性皮膚炎などの病気がある猫はリスクがあるとされます。

治療・対処:

抗菌剤の塗り薬や内服薬、抗菌性のあるシャンプーなどによって治療を行いますが、膿皮症は再発しやすいため、初期の段階で治療を始めることが大事となります。

5.ストレス

【心因性皮膚炎】

概要:

猫でも何らかのストレスを受けると、その転位行動の一つとして自分の体を過剰に舐め続ける、また噛み続けることがあります。
その結果、毛が切れる、脱毛、皮膚の炎症などが見られるようになり、慢性化すると痒みや膿疱なども見られるようになります。

治療・対処:

ストレスの原因を探り、そのストレスを可能な限り生活環境から遠ざけることが何より重要となりますが、猫の状況によって痒み止めの薬や抗生剤、抗不安薬などが処方されることもあります。

6.自己免疫の異常

【天疱瘡(てんぽうそう)】

概要:

天疱瘡は自己免疫疾患で、皮膚の細胞同士をつなぎ止めるデスモグレインと呼ばれるタンパク質に対し、自分自身の免疫がそれを異物ととらえて攻撃してしまい、細胞同士のつながりがなくなってしまう皮膚疾患です。

天疱瘡には落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、紅斑性天疱瘡などのタイプがあり、猫で多いのは落葉状天疱瘡と言われています。

痒みは軽度のものから重度のものまであり、その他、膿疱や痂皮(かさぶた、またはかさぶたができるまでに血液成分が固まったもの)が見られます。
症状は顔や耳に出やすいですが、重度になると全身に広がることがあります。

治療・対処:

治療には抗生剤やステロイド剤、免疫抑制剤などが用いられますが、完治は難しく、生涯にわたって治療が必要になることも珍しくありません。

7.他の病気の症状としての皮膚炎

他の病気の症状としての皮膚炎

一見して皮膚病とは関係がないと思われる病気の中にも、実は皮膚に症状が出るものもあります。

たとえば、糖尿病は免疫力が低下するため感染を起こしやすいのに加え、高血糖は多尿を呼び、体の水分が足りなくなることから皮膚が乾燥しがちになります。これが慢性的になると痒みが生じることもあります。

また、腎臓病では体の中の老廃物がうまく排出されずに血中や皮膚に溜まってしまい、皮膚の乾燥や痒みにつながることも。
その他、稀に肝臓病でも皮膚に痒みが生じることもあります。

8.紫外線

【日光過敏症】

概要:

日向ぼっこをしている猫の姿はどこかほっとして可愛らしいものですが、時に紫外線は体に大きな影響を及ぼします。たとえば、皮膚の老化やがんの発生など。

日光過敏症は強い紫外線を浴びることで眼や口の周囲、鼻先、耳の先などに皮膚の赤みや腫れ、痒み、かさつき、脱毛などが見られるようになります。注意を要するのは、扁平上皮癌につながることもあるという点です。

遺伝的素因も考えられていますが、原因は不明で、特に白毛の猫、白毛がある猫、色素の薄い猫は発症しやすい傾向にあると言われています。

治療・対処:

紫外線を避ける生活環境の改善が何より重要となります。
皮膚症状に対しては、状況に合わせて抗炎症剤や抗生剤などが処方されます。

9.動物病院を受診するかの判断

以上、猫に「痒み」が出る代表的な病気について見てきましたが、最後に動物病院を受診するかどうか迷う際の判断基準をいくつか挙げておきましょう。

以下のような様子が見られる時には、迷わず動物病院に行くことをお勧めします。

  • 掻き方が激しい、始終掻いている
  • 掻き壊して出血している、化膿している、皮膚が分厚くなっている
  • 明らかな皮膚病変がある
  • ノミやノミの糞が確認できる
  • 同居の家族やペットにも痒みがある
  • 普段とは違う食事や薬を与えた
  • 中毒を起こす可能性のある薬品や洗剤、植物などに接触した
  • 元気、食事量、飲水量、排泄などに変化がある
  • 特定の季節や環境、食べ物などで痒みが出る
  • 強いストレスがあるように思える

(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)

【参照資料】
*1 アース製薬 害虫なるほど知恵袋「ペットにつくノミに御用心!1匹でもいたらすぐ駆除すべき理由とは?」
https://www.earth.jp/gaichu/wisdom/nomi/article_001.html

*2 動物再生医療技術研究組合「飼い主様向け – 再生医療(幹細胞療法)とは」
https://parmcip.jp/owner/

監修いただいたのは…

2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生

数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。

成城こばやし動物病院 獣医師 高柳 かれん先生

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