犬種グループ別に見る気をつけたい病気①
一つの種でありながら数百という種類がある「犬」は、原産地や働く分野、歴史、ビジュアル、サイズ、特徴などによっていくつかのグループに分けることができます。そして、その犬種グループによって比較的見られがちな病気もあるので、愛犬の健康を守るために予め知っておくといいでしょう。
一つの種でありながら数百という種類がある「犬」は、原産地や働く分野、歴史、ビジュアル、サイズ、特徴などによっていくつかのグループに分けることができます。そして、その犬種グループによって比較的見られがちな病気もあるので、愛犬の健康を守るために予め知っておくといいでしょう。
犬種:
秋田犬、北海道犬、紀州犬、四国犬、甲斐犬、柴犬など
日本犬では次のような病気が見られる傾向にあります。
(注:同グループに含まれる犬種のすべてが以下に挙げる病気にかかりやすいというわけでもありません。あくまでも平均的なものです)
体に入ってきた、または接触した異物(アレルゲン)に対して体の免疫システムが過剰反応してしまうことでアレルギーを発症します。
たとえば、アレルゲンの存在によって、免疫システムの中でもっとも重要な働きをするT細胞(Tリンパ球)のバランスが崩れてしまうことが過剰反応の一因となります。
アレルギーでは主に皮膚に症状が出るものをアレルギー性皮膚炎と言いますが、これにはアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー、接触性アレルギーなどがあり、犬では慢性のアレルギー性皮膚炎としてアトピー性皮膚炎や食物アレルギーが多く見られます。
特にアトピー性皮膚炎においては、「皮膚のバリア機能の低下」「アレルギー体質」「免疫の異常」「アレルゲンの存在」が大きく関係していると言われており、これらの条件が複雑に絡み合うことで病気が発現するようです。
初期には皮膚の赤みや湿疹などが見られないこともありますが、一般的に以下のような症状が見られます。
また、症状が出やすい体の部位もあります。
アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの場合 | ノミアレルギーの場合 |
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アトピー性皮膚炎の治療には、
1. 生活環境の改善(環境からアレルゲンを極力遠ざける)
2. 薬物療法
3. スキンケア
といった複合的な対処が必要であり、その他、
4. 減感作療法
5. 再生療法(幹細胞療法)
6. 治療補助(乳酸菌、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸などのサプリメントの使用)
が選択肢となる場合もあります。
薬には抗ヒスタミン剤や免疫抑制剤、分子標的薬(JAK阻害薬)、インターフェロン、ステロイド剤などがあり、犬の状況に合わせて処方されます。
減感作療法とは、アレルゲンが特定できている場合に、そのアレルゲンを敢えて犬の体内に少しずつ入れていくことでアレルゲンに慣らし、症状を緩和させる療法のことです。
一方、再生療法(幹細胞療法)は臨床研究の段階にある新しい治療法で、健康体の犬から脂肪組織を採取し、体外で細胞培養をした後、治療を必要とする犬の体内に投与することで自然治癒力や自己修復能力を活性化させ、主に炎症を抑える効果を期待した療法です(*1)。
その他、食物アレルギーではアレルゲンを含まない食事を与える食事療法がメインとなり、ノミアレルギーではノミを駆除するための駆虫薬が必要になります。
ノミアレルギーの場合、ノミ予防・駆除をするとともに、定期的なシャンプー、生活環境をこまめに掃除するなどはアレルギーの予防につながるでしょう。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの場合は予防が難しいですが、腸内環境の良し悪しはアレルギー発症と関連すると考えられているので、腸内環境を整える食事を与えることは予防につながるかもしれません。
白内障は、眼の水晶体が白濁することで視力障害が起きる眼疾患です。
本来、眼の水晶体は透明なのですが、水晶体を構成するタンパク質に異常が生じて白濁が起こり、それに伴って網膜まで光が届きにくくなり、視力が低下します。
原因としては、
などが考えられます。
犬の白内障は状態によって4つのステージに分けられますが、初期には見えづらい程度なので飼い主さんでも気づきにくいかもしれません。
徐々に物や家具などにぶつかるなど視力の低下が見られ、重度になると痛みが見られたり、ブドウ膜炎や水晶体脱臼など他の眼疾患を併発したりすることも。放置すると最終的には失明に至ります。
軽度であれば進行を遅らせ、合併症を予防するための点眼薬や内服薬を用いた内科的治療が可能ですが、視力の回復が見込まれる場合には、白濁した水晶体を摘出して眼内レンズを挿入する外科的治療が選択肢となることもあります。
白内障の直接的な予防法はありませんが、抗酸化効果のある食品の摂取や強い紫外線を避ける、ケガ防止をこころがけるなどは予防につながると言われています。
すでに白内障を発症した初期段階の場合は、それ以上の進行を防止する目的の点眼薬が予防的に処方されることがあります。
また、白内障には先天性白内障と後天性白内障があり、前者では遺伝的素因が考えられているため、特にリスクがあるとされる柴犬では、若いうちから眼の検査を受けておくといいでしょう。
犬の認知症の原因について詳しく解明されてはいませんが、人間のアルツハイマー型認知症と似ており、脳細胞の酸素代謝の悪化や、アミロイドβと呼ばれる有害なタンパク質が神経細胞に蓄積すること、脳(前葉、側頭葉)の萎縮などが病因なのではないかと考えられています。
犬の認知症の症状は主に次の6つに分けることができます。
1.見当識障害 |
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2.社会的交流の変化 |
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3.睡眠・覚醒サイクルの変化 |
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4.学習・記憶の変化 |
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5.活動性の変化 |
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6.不安の増大 |
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ただし、老犬はストレスに弱く、不安になりがちであり、こうした様子が見られたからといって必ずしも認知症であるとは限りません。
犬の認知症は完治を望めるものではなく、いかに進行を遅らせ、少しでも改善をしつつつきあっていくかに重点が置かれます。
犬の状況によっては鎮静剤や抗不安薬、催眠効果のある薬、漢方薬、サプリメントなどが用いられる他、食事療法や心身に刺激を与えるアクティビティなどが取り入れられています。
日本犬は認知症のリスクが高いと言われることが多いですが、ある調査研究では日本犬と洋犬を比較した時、認知機能障害と思われる行動が一つ以上ある犬の割合は14~18歳では日本犬のほうが高いものの、10~13歳の犬では洋犬のほうが高かったとの報告もあり(*2)、研究によって結果には差が見られるようです。
それは調査対象となった犬の数や、どの程度の認識機能障害を前提とするのかなど調査方法の条件が影響している部分もあるのかもしれません。
いずれにしても認知症は加齢が大きな要因となり、どんな犬種にもリスクがありますが、日本犬、とりわけ柴犬は長寿傾向にあるので、予防を心がけるに越したことはないでしょう。
その予防としては以下のようなことが考えられます。
認知症リスクを軽減させる効果が期待されているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサぺンタエン酸) などのオメガ3脂肪酸を含む食事やサプリメントなどを与えるといいでしょう。
軽い運動は筋肉の維持やストレス発散などの他、心身に刺激を与えて脳の活性化が期待できます。散歩コースを時々変える、知育玩具を取り入れるなどもお勧めです。
また、犬の五感のうち最後まで残ると言われる嗅覚を使ったゲームも脳の活性化を期待でき、老犬でも遊べるので認知症対策に取り入れてみてはいかがでしょうか。
飼い主さんとのコミュニケーションは心身に刺激を与えます。その一つとして、お手入れのついでにマッサージを取り入れるのもいいでしょう。
特に朝の太陽を浴びることは体内時計をリセットし、睡眠の改善にも良いとされています。
犬種:
シェットランド・シープドッグ、ボーダー・コリー、コリー、
ジャーマン・シェパード・ドッグ、オーストラリアン・シェパードなど
シープドッグ系の犬種では次のような病気が見られる傾向にあります。
(注:同グループに含まれる犬種のすべてが以下に挙げる病気にかかりやすいというわけでもありません。あくまでも平均的なものです)
シープドッグ系の犬に好発するコリーアイは遺伝性(常染色体劣性遺伝)の眼疾患で、眼の形成に関係する遺伝子に異常が生じ、眼の組織(網膜や脈絡膜、強膜など)の形成不全や構造上の欠損が起こります。
コリーアイは生後4ヶ月~1年くらいでの発症が多く、軽度であれば症状らしいものはないことがありますが、視力障害が出ると物にぶつかる、歩くことを不安がるなどの様子が見られるようになります。
眼底出血や網膜剥離を起こした重度の場合には、失明に至ることがあります。
残念ながら確立された治療法はなく、軽度であれば治療を行わないことも多いですが、治療が必要な場合は犬の状態に合わせた対症療法となり、他の眼疾患を併発している犬ではその治療が重要となります。
遺伝性であるため予防法らしいものはありませんが、現在では遺伝子検査ができるようになっているので、この病気の遺伝子をもつ犬は繁殖に使わないようにすることが一つの予防策にはなるでしょう。
進行性網膜萎縮症も遺伝性の眼疾患で、原因について詳細は解明されていませんが、網膜の視細胞に変性が生じて進行性の視力障害が起こり、その変性が網膜全体に広がることから最終的には失明に至ります。
シェットランド・シープドッグの進行性網膜萎縮症(シェットランド・シープドッグ・タイプ)の場合は、CNGA1遺伝子の突然変異がこの病気を引き起こすことがわかっています(*3, 4)。
初期には暗い場所でものが見えづらいといった夜盲症の症状から始まり、次第に明るい場所でも見えづらい、光に過敏になる、視野が狭くなる、網膜の萎縮などの症状が見られるようになります。
残念ながら有効な治療法はなく、進行を遅らせることを目的とした抗酸化剤やサプリメントなどが用いられています。
遺伝性であるため予防は難しいですが、現在では遺伝子検査ができるようになっているので、この病気の遺伝子をもつ犬は繁殖に使わないようにすることが一つの予防策にはなるでしょう。
一般的に股関節形成不全は大型・超大型犬に多く発症が見られますが、小型犬でも発症することがあります。
遺伝的要因が70%、環境的要因(肥満や滑りやすい床など)が30%と言われ(*5)、股関節の緩みや骨の変形などが生じ、股関節の形成に異常が出る運動器疾患です。
ジャパン ケネル クラブでは股関節形成不全と肘関節異形成症についてリスクが高いと考えられる犬種を公開していますが、股関節形成不全においてはボーダー・コリー、ビアデッド・コリー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ブリアードなどが含まれています(*6)。
症状としては股関節の緩みによって痛みが出ることから以下のような様子が見られるようになります。
進行すると関節が変形する変形性関節炎を伴うことがあります。
なお、この病気は生後1年未満での発症が多いのですが、股関節に異常はあるものの、数年経っても症状らしいものが見られない場合もあります。
治療には内科的治療と外科的治療があり、内科的治療では鎮痛剤や抗炎症剤、軟骨を保護する薬、サプリメントなどが処方され、併せて温熱湿布やレーザー、マッサージ、運動療法などのリハビリテーションが取り入れられます。
同時に、体重管理や運動制限が必要になります。
一方、外科的治療では、股関節はそのままに温存しながら問題となる股関節の部分を切るなどして矯正をする「予防的治療法」と、人工股関節と置き換える、障害を起こしている関節部分を切除してしまうなどの「救済的治療法」があります。
股関節形成不全は肥満や生活環境も関係するため、
などは予防の一環となるでしょう。
脳の大脳皮質の神経回路は、興奮に関わる「興奮性神経細胞」と、それを抑制する「抑制性神経細胞」とで構成されており、通常はそれぞれの間に微弱な電流が流れて情報をやり取りしながらバランスを保って働いています。
ところが、何らかのきっかけでそのバランスが崩れると異常な放電状態となり、いわゆる発作を引き起こします。つまり、てんかんを一言で言うなら、「異常な神経活動」となります。
そのてんかんは大きく2つに分けられますが、それぞれ以下のような原因が考えられています。
タイプ | 特発性てんかん | 構造的てんかん (旧呼び方:症候性てんかん、続発性てんかん、二次性てんかん) |
---|---|---|
原因 |
|
脳の炎症や腫瘍、水頭症、頭部の外傷、脳の奇形など明らかな原因がある上で、脳の構造に問題があって発作が出るもの |
また、発作が起きるには何らかの引き金(トリガー)が存在することがあり、それには次のようなものが考えられます。
てんかんの発作の様子も大きく2つに分けられ、それぞれ次のような症状が見られます。
タイプ | 局限性発作 (旧呼び方:部分発作、焦点発作) |
全般性発作 |
---|---|---|
特徴 |
|
|
症状例 | (体の変化)
|
|
また、てんかんの発作は、「発作前」「発作後」にも普段と違う様子が見られますが、これには個体差があります。
発作前 | 発作 | 発作後 | |
---|---|---|---|
時間 | 数時間~数日 | 数秒~数分程度 | 短時間~数時間~数日 |
様子 |
|
|
|
構造的てんかんの場合は原因となる病気やケガの治療が何より重要となります。
一方、特発性てんかんでは、軽度の場合には経過観察のみになることもありますが、多くの場合は臭化カリウムやフェノバルビタール、ジアゼパムなどの抗てんかん薬を使って発作をコントロールしていくことになり、犬の状況に合わせた薬剤が選択されます。
てんかんは遺伝的背景が関係する部分もあり、予防は難しいと言わざるを得ませんが、一つには定期的に健康診断を受けるなどして病気予防を心がけるしかないでしょう。
すでにてんかんを患っている場合には、愛犬にとってのトリガーになるものや、発作の前兆を把握しておくと多少は発作を予防・軽減できるかもしれません。
薬物不耐性とは特定の薬剤に対する体の耐性がなく、過剰な副作用が出てしまうことを言いますが、これは病気と言うより、体質と考えたほうがいいかもしれません。
人間や犬の脳には脳組織の活動に必要な酸素や栄養を血液から吸収するとともに、有害な物質が脳組織に入り込まないようバリアのような役目を果たす「血液脳関門」と呼ばれるシステムがあります。
血液脳関門で大きな働きをするのがP糖タンパク質(P-gp)で、その合成にはMDR1( Multiple drug resistance 1)と呼ばれる遺伝子が必要です。
通常は薬剤を使用してもこのシステムによって守られ、脳が影響を受けることはありません。
しかし、MDR1遺伝子の変異により、P糖タンパク質がうまく合成されず、血液脳関門が機能しなくなることで有害物質が脳組織に入り込み、蓄積してしまうのがこの薬物不耐性です。また、P糖タンパク質は脳のみならず、肝臓や腎臓、腸にも存在するため、有害物質の吸収や排出にも影響してしまいます。
何らかの薬剤を使用することで薬物不耐性が出た場合は、以下のような症状が見られることがあります(*7)。
最悪の場合、死に至ることもあります。
MDR1遺伝子変異自体に対する治療法はありません。
薬物不耐性を引き起こす可能性のある薬剤にはフィラリア予防薬、抗菌剤、抗真菌剤、鎮痛剤、免疫抑制剤、抗がん剤などがあり、特にフィラリア予防薬のイベルメクチンはよく知られています。
予防薬として使用する際には少量であるためそれほど心配はないとする考え方もありますが、リスクのある犬種の飼い主さんは使用を避け、他のフィラリア予防薬を使いたいと思うのが一般的でしょう。
イベルメクチンを殺ダニ剤として使用する場合や、他の薬物不耐性を起こす可能性のある薬剤を使用する場合は、用量やリスクなどについて獣医師とよく相談してください。
MDR1の研究および遺伝子検査を行っているワシントン州立大学のProgram in Individualized Medicine(PrIMe研究所)によると、ハーディング・ドッグ(牧羊犬&牧畜犬)での発生率は高く、多くの犬(一部の犬種では最大75%)がこの遺伝子変異をもっており、特にコリーにおいては世界中のほとんどの犬が変異をもっている可能性があるといいます(*8)。
遺伝的なもののため予防は難しいですが、現在では日本国内でもMDR1変異の遺伝子検査ができるので、気になる場合、またはリスクのある薬剤を使用する場合には、その検査を受けてみるといいでしょう。
犬種:
シベリアン・ハスキー、アラスカン・マラミュート、サモエド、
ノルウェジアン・エルクハウンド、グリーンランド・ドッグなど
北方犬種では以下のような病気が懸念されます。
(注:同グループに含まれる犬種のすべてが以下に挙げる病気にかかりやすいというわけでもありません。あくまでも平均的なものです)
犬は人間と違い、汗腺であるアポクリン腺(脇汗のような汗)とエクリン線(さらっとした汗)の分布が逆で、人間のように汗をかいて体温調節を行うことはできず、ひたすらハァハァと口で呼吸をすることにより、気化熱を利用して体温調節を行っています。
その分、暑さが苦手であり、高温多湿の環境で水分も摂れずにいると、うまく体温調節ができず、高体温となる上に脱水状態に陥り、果ては体の細胞が破壊されて多臓器不全を起こす危険にさらされてしまいます。
決して甘く見てはいけないのが熱中症ですが、それを引き起こすリスク要因には以下のようなものがあります。
犬の熱中症の症状としては以下のようなものが見られます。
さらに進行すると、
などの様子が見られるようになり、たいへん危険な状態なので、犬の体を冷やしながらすぐに動物病院へ向かってください。
犬の体を冷やすとともに、酸素吸入や点滴が基本となります。
その他、低血糖や脱水による急性腎不全などを起こしている場合には、それぞれに合わせた治療が行われます。
次のようなことは熱中症の予防対策になるでしょう。熱中症は夏のみではなく、春や秋に、また、室内であっても発症することがあるので注意が必要です。
白内障は、眼の水晶体が白濁することで視力障害が起きる眼疾患です。
本来、眼の水晶体は透明なのですが、水晶体を構成するタンパク質に異常が生じて白濁が起こり、それに伴って網膜まで光が届きにくくなり、視力が低下します。
原因としては、
などが考えられます。
犬の白内障は状態によって4つのステージに分けられますが、初期には見えづらい程度なので飼い主さんでも気づきにくいかもしれません。
徐々に物や家具などにぶつかるなど視力の低下が見られ、重度になると痛みが見られたり、ブドウ膜炎や水晶体脱臼など他の眼疾患を併発したりすることも。放置すると最終的には失明に至ります。
軽度であれば進行を遅らせ、合併症を予防するための点眼薬や内服薬を用いた内科的治療が可能ですが、視力の回復が見込まれる場合には、白濁した水晶体を摘出して眼内レンズを挿入する外科的治療が選択肢となることもあります。
白内障の直接的な予防法はありませんが、抗酸化効果のある食品の摂取や強い紫外線を避ける、ケガ防止をこころがけるなどは予防につながると言われています。
すでに白内障を発症した初期段階の場合は、それ以上の進行を防止する目的の点眼薬が予防的に処方されることがあります。
また、白内障には先天性白内障と後天性白内障があり、前者では遺伝的素因が考えられているため、特にリスクがあるとされる柴犬では、若いうちから眼の検査を受けておくといいでしょう。
眼の中には眼房水と呼ばれる水分が含まれており、眼にとって大事な酸素や栄養を供給しています。
通常、眼房水の生成と排出はバランスが保たれているところ、何らかの原因によって眼房水が滞ることで眼圧が上がり、視力障害を生じるのが緑内障です。
緑内障は「原発性」と「続発性」に大別でき、原発性では遺伝が、続発性では水晶体脱臼やぶどう膜炎など他の眼疾患、腫瘍、外傷などが原因となり、眼房水の排出が妨げられることで発症します。
緑内障では主に以下のような症状が見られます。
犬の状態により、眼圧を下げるための点眼薬や内服薬、鎮痛剤などが処方される他、手術が選択肢となる場合もあります。
遺伝が関係する場合は予防が難しいですが、続発性の場合は他の眼疾患や腫瘍、ケガの予防を心がける他ないでしょう。
犬の喉の下部には甲状腺と呼ばれる一対の腺組織があり、代謝に関わるホルモンを分泌していますが、そのホルモン分泌が低下してしまうことで甲状腺機能低下症を発症します。
原因としては、2つに大別できます。
これには、自己免疫性の機序が疑われているリンパ球性甲状腺炎、原因不明ながらリンパ球性甲状腺炎の末期と考えられている特発性甲状腺縮、甲状腺腫瘍による甲状腺の破壊、先天性の甲状腺機能低下症などがあります。
腫瘍や外傷などによって下垂体や視床下部に異常が生じた状態です。
甲状腺ホルモンは甲状腺、下垂体、視床下部の3つの作用によって分泌されているのですが、甲状腺ホルモンには全身の代謝を活性化する作用があるため、それが欠乏することによって代謝の低下が起こり、様々な症状を引き起こします。
甲状腺機能低下症では、主に以下のような症状が見られますが、稀に昏睡状態に陥ったり、合併症を起こしたりして命に関わることもあります。
甲状腺ホルモンを補充する内科的治療が主となりますが、通常、薬は生涯にわたって服用することとなります。
そして、その効果を確認するために都度血液検査を含む検査が必要になります。
また、原因が甲状腺の腫瘍にある場合は、手術が必要になることがあります。
これといった予防法はなく、定期的に健康診断を受けて早期発見に努めるのが一番でしょう。
一般的に股関節形成不全は大型・超大型犬に多く発症が見られますが、小型犬でも発症することがあります。
遺伝的要因が70%、環境的要因(肥満や滑りやすい床など)が30%と言われ(*5)、股関節の緩みや骨の変形などが生じ、股関節の形成に異常が出る運動器疾患です。
ジャパン ケネル クラブでは股関節形成不全と肘関節異形成症についてリスクが高いと考えられる犬種を公開していますが、股関節形成不全においてはボーダー・コリー、ビアデッド・コリー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ブリアードなどが含まれています(*6)。
症状としては股関節の緩みによって痛みが出ることから以下のような様子が見られるようになります。
進行すると関節が変形する変形性関節炎を伴うことがあります。
なお、この病気は生後1年未満での発症が多いのですが、股関節に異常はあるものの、数年経っても症状らしいものが見られない場合もあります。
治療には内科的治療と外科的治療があり、内科的治療では鎮痛剤や抗炎症剤、軟骨を保護する薬、サプリメントなどが処方され、併せて温熱湿布やレーザー、マッサージ、運動療法などのリハビリテーションが取り入れられます。
同時に、体重管理や運動制限が必要になります。
一方、外科的治療では、股関節はそのままに温存しながら問題となる股関節の部分を切るなどして矯正をする「予防的治療法」と、人工股関節と置き換える、障害を起こしている関節部分を切除してしまうなどの「救済的治療法」があります。
股関節形成不全は肥満や生活環境も関係するため、
などは予防の一環となるでしょう。
犬種:
ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、フラットコーテッド・レトリーバー、カーリーコーテッド・レトリーバー、チェサピーク・ベイ・レトリーバー、ノヴァ・スコシア・ダック・トーリング・レトリーバーなど
レトリーバー種の場合は次のような病気には気をつけましょう。
(注:同グループに含まれる犬種のすべてが以下に挙げる病気にかかりやすいというわけでもありません。あくまでも平均的なものです)
腫瘍・がんを一言で簡単に言うと、一部の細胞の遺伝子が傷つき、異常な細胞が増殖していく病気です。
ちなみに、一般的には悪性腫瘍のことを「がん」と言っています。
なぜ細胞が傷ついてしまうのか、その誘因には次のようなものが考えられています。
腫瘍・がんは体のいたるところにできるため、それぞれ症状には違いがありますが、一般的に以下のような様子が見られた時には何らかの腫瘍・がんの兆候である可能性が考えられます。
犬の腫瘍・がんの治療では次の3つが基本となりますが、
1. 手術(腫瘍部分を切除)
2. 化学療法(抗がん剤やその他治療薬を使用)
3. 放射線療法(放射線の照射によってがん細胞の抑制や縮小を狙う療法)
この他に、
4. 免疫療法(免疫細胞を活性化してがんの縮小を狙う副作用の少ない療法)(*10)
5. 光線力学療法(光感受性物質を投与した後、レーザーをあてることでがん細胞の死滅を狙う体への負担が少ない療法)(*11)
などがあり、腫瘍・がんの種類や進行速度、ステージなどを考慮し、いくつかの治療法を組み合わせたりして犬の状況や飼い主さんの希望に合わせた治療が行われます。
腫瘍・がんの直接的な予防法はありませんが、バランスの良い健康的な食事を与え、適度な運動をして肥満を予防する、汚染物質を可能な限り避ける、負の強いストレスは与えないよう心がける、などは多少なりとも予防につながるでしょう。
胃拡張とは、胃にガス(飲み込んだ空気や発酵したガス)や液体、食べた食事などが充満し、大きく膨れてしまう状態のことを言います。
これがさらに進行すると胃の入り口と出口が捻じれてしまう胃捻転へと転化しますが、これはたいへん危険な状態です。
原因についてはっきりとはわかっておらず、胃の運動異常なのではないかと考えられています。
ただ、胃拡張を起こす誘因としては、次のようなものが指摘されています。
症状には次のようなものが見られます。
胃捻転へと進行すると血液循環が悪くなることでショック状態になるのに加え、胃壁や脾臓が壊死を起こすこともあり、緊急の処置が必要になります。
治療には内科的治療と外科的治療がありますが、内科的治療では胃にチューブを挿入する、または胃に針を刺すなどして胃の中のガスを排出し、同時にショック状態に対する点滴やステロイド剤、抗生剤の投与、不整脈がある場合には抗不整脈薬の投与などを行います。
すでに捻転を起こしている場合には外科的治療が必要で緊急手術となり、捻じれた胃を元に戻して固定する、胃壁が壊死しているならばその部分を切除する、脾臓の壊死では脾臓の摘出などの処置が行われます。
以上のようなことは予防につながるでしょう。
一般的に股関節形成不全は大型・超大型犬に多く発症が見られますが、小型犬でも発症することがあります。
遺伝的要因が70%、環境的要因(肥満や滑りやすい床など)が30%と言われ(*5)、股関節の緩みや骨の変形などが生じ、股関節の形成に異常が出る運動器疾患です。
ジャパン ケネル クラブでは股関節形成不全と肘関節異形成症についてリスクが高いと考えられる犬種を公開していますが、股関節形成不全においてはボーダー・コリー、ビアデッド・コリー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ブリアードなどが含まれています(*6)。
症状としては股関節の緩みによって痛みが出ることから以下のような様子が見られるようになります。
進行すると関節が変形する変形性関節炎を伴うことがあります。
なお、この病気は生後1年未満での発症が多いのですが、股関節に異常はあるものの、数年経っても症状らしいものが見られない場合もあります。
治療には内科的治療と外科的治療があり、内科的治療では鎮痛剤や抗炎症剤、軟骨を保護する薬、サプリメントなどが処方され、併せて温熱湿布やレーザー、マッサージ、運動療法などのリハビリテーションが取り入れられます。
同時に、体重管理や運動制限が必要になります。
一方、外科的治療では、股関節はそのままに温存しながら問題となる股関節の部分を切るなどして矯正をする「予防的治療法」と、人工股関節と置き換える、障害を起こしている関節部分を切除してしまうなどの「救済的治療法」があります。
股関節形成不全は肥満や生活環境も関係するため、
などは予防の一環となるでしょう。
進行性網膜萎縮症も遺伝性の眼疾患で、原因について詳細は解明されていませんが、網膜の視細胞に変性が生じて進行性の視力障害が起こり、その変性が網膜全体に広がることから最終的には失明に至ります。
シェットランド・シープドッグの進行性網膜萎縮症(シェットランド・シープドッグ・タイプ)の場合は、CNGA1遺伝子の突然変異がこの病気を引き起こすことがわかっています(*3, 4)。
初期には暗い場所でものが見えづらいといった夜盲症の症状から始まり、次第に明るい場所でも見えづらい、光に過敏になる、視野が狭くなる、網膜の萎縮などの症状が見られるようになります。
残念ながら有効な治療法はなく、進行を遅らせることを目的とした抗酸化剤やサプリメントなどが用いられています。
遺伝性であるため予防は難しいですが、現在では遺伝子検査ができるようになっているので、この病気の遺伝子をもつ犬は繁殖に使わないようにすることが一つの予防策にはなるでしょう。
白内障は、眼の水晶体が白濁することで視力障害が起きる眼疾患です。
本来、眼の水晶体は透明なのですが、水晶体を構成するタンパク質に異常が生じて白濁が起こり、それに伴って網膜まで光が届きにくくなり、視力が低下します。
原因としては、
などが考えられます。
犬の白内障は状態によって4つのステージに分けられますが、初期には見えづらい程度なので飼い主さんでも気づきにくいかもしれません。
徐々に物や家具などにぶつかるなど視力の低下が見られ、重度になると痛みが見られたり、ブドウ膜炎や水晶体脱臼など他の眼疾患を併発したりすることも。放置すると最終的には失明に至ります。
軽度であれば進行を遅らせ、合併症を予防するための点眼薬や内服薬を用いた内科的治療が可能ですが、視力の回復が見込まれる場合には、白濁した水晶体を摘出して眼内レンズを挿入する外科的治療が選択肢となることもあります。
白内障の直接的な予防法はありませんが、抗酸化効果のある食品の摂取や強い紫外線を避ける、ケガ防止をこころがけるなどは予防につながると言われています。
すでに白内障を発症した初期段階の場合は、それ以上の進行を防止する目的の点眼薬が予防的に処方されることがあります。
また、白内障には先天性白内障と後天性白内障があり、前者では遺伝的素因が考えられているため、特にリスクがあるとされる柴犬では、若いうちから眼の検査を受けておくといいでしょう。
犬種:
アフガン・ハウンド、ウィペット、グレーハウンド、
イタリアン・グレーハウンド、サルーキ、ボルゾイなど
サイトハウンドとは、人間に比べて視力が弱いとされる犬の中にあって動体視力に優れ、主にその視力を駆使して猟をする犬種群を指します。
サイトハウンドには以下のような気をつけたい病気があります。
(注:同グループに含まれる犬種のすべてが以下に挙げる病気にかかりやすいというわけでもありません。あくまでも平均的なものです)
胃拡張とは、胃にガス(飲み込んだ空気や発酵したガス)や液体、食べた食事などが充満し、大きく膨れてしまう状態のことを言います。
これがさらに進行すると胃の入り口と出口が捻じれてしまう胃捻転へと転化しますが、これはたいへん危険な状態です。
原因についてはっきりとはわかっておらず、胃の運動異常なのではないかと考えられています。
ただ、胃拡張を起こす誘因としては、次のようなものが指摘されています。
症状には次のようなものが見られます。
胃捻転へと進行すると血液循環が悪くなることでショック状態になるのに加え、胃壁や脾臓が壊死を起こすこともあり、緊急の処置が必要になります。
治療には内科的治療と外科的治療がありますが、内科的治療では胃にチューブを挿入する、または胃に針を刺すなどして胃の中のガスを排出し、同時にショック状態に対する点滴やステロイド剤、抗生剤の投与、不整脈がある場合には抗不整脈薬の投与などを行います。
すでに捻転を起こしている場合には外科的治療が必要で緊急手術となり、捻じれた胃を元に戻して固定する、胃壁が壊死しているならばその部分を切除する、脾臓の壊死では脾臓の摘出などの処置が行われます。
以上のようなことは予防につながるでしょう。
心筋とは心臓の筋肉のことで、心臓がリズミカルに収縮・拡張するのはこの心筋の働きによります。
ところが、心筋が薄くなり、機能に障害が生じると心臓が肥大し、収縮率が弱まって血液をうまく送り出せなくなります。これを拡張型心筋症と言います。
原因について解明されてはいませんが、次のようなものが考えられています。
拡張型心筋症の初期の主な症状には、
などが見られ、やがて進行し、重篤化すると以下のような症状も見られるようになります。
最悪の場合は突然死に至ることがあります。
残念ながら完治を目指すことはできず、強心剤や血管拡張剤、利尿剤などの投薬とともに、運動制限や低ナトリウム食の食事療法による管理をしつつ生活することになります。
その他、呼吸困難の症状がある場合には酸素吸入が、腹水や胸水が見られる場合にはその水を抜くなどの処置が必要になります。
拡張型心筋症は遺伝的素因が関係するため予防は難しいですが、早期発見には定期的に健康診断を受けるのが一番でしょう。
サイトハウンドは俊足であるのに加え、動くものに対する反応が速く、獲物と思えるようなものを見つけると飼い主さんの呼び戻しの声も耳に入らず、瞬時に走り出してしまうようなところがあります。
その特性ゆえにケガをしやすい傾向にあり、特に小型のイタリアン・グレーハウンドは骨が細く、骨折しやすいので注意が必要です。
ケガ・骨折をしやすいシチュエーションには、
などが考えられます。
どんなケガなのか、骨折の部位や程度などによって症状には違いがありますが、一般的にケガと言った場合、以下のような様子が見られることがあります。
これもケガの種類や程度によって治療法は違ってきます。これまで傷には消毒が一般的でしたが、近年では湿潤療法を取り入れている動物病院もあります。
湿潤療法とは、消毒液を使用せず、傷を水道水で洗い流した後、ドレッシング材(被覆材ひふくざい:傷を乾かさず、ある程度の潤いを保った状態にするためのシートやフィルムなど)で覆って細胞の再生を促す療法のことです。
ただし、傷が感染を起こしておらず、異物や壊死した部分が取り除かれていることが条件となります。
一方、骨折の場合にはギプスや装具を用いた外固定法、プレートやピン、ワイヤーなどを用いて骨を固定する内固定法が状況によって選択されます。
ケガの予防はなかなか難しい面もありますが、次のようなことは少なくとも予防にはつながるでしょう。
進行性網膜萎縮症も遺伝性の眼疾患で、原因について詳細は解明されていませんが、網膜の視細胞に変性が生じて進行性の視力障害が起こり、その変性が網膜全体に広がることから最終的には失明に至ります。
シェットランド・シープドッグの進行性網膜萎縮症(シェットランド・シープドッグ・タイプ)の場合は、CNGA1遺伝子の突然変異がこの病気を引き起こすことがわかっています(*3, 4)。
初期には暗い場所でものが見えづらいといった夜盲症の症状から始まり、次第に明るい場所でも見えづらい、光に過敏になる、視野が狭くなる、網膜の萎縮などの症状が見られるようになります。
残念ながら有効な治療法はなく、進行を遅らせることを目的とした抗酸化剤やサプリメントなどが用いられています。
遺伝性であるため予防は難しいですが、現在では遺伝子検査ができるようになっているので、この病気の遺伝子をもつ犬は繁殖に使わないようにすることが一つの予防策にはなるでしょう。
白内障は、眼の水晶体が白濁することで視力障害が起きる眼疾患です。
本来、眼の水晶体は透明なのですが、水晶体を構成するタンパク質に異常が生じて白濁が起こり、それに伴って網膜まで光が届きにくくなり、視力が低下します。
原因としては、
などが考えられます。
犬の白内障は状態によって4つのステージに分けられますが、初期には見えづらい程度なので飼い主さんでも気づきにくいかもしれません。
徐々に物や家具などにぶつかるなど視力の低下が見られ、重度になると痛みが見られたり、ブドウ膜炎や水晶体脱臼など他の眼疾患を併発したりすることも。放置すると最終的には失明に至ります。
軽度であれば進行を遅らせ、合併症を予防するための点眼薬や内服薬を用いた内科的治療が可能ですが、視力の回復が見込まれる場合には、白濁した水晶体を摘出して眼内レンズを挿入する外科的治療が選択肢となることもあります。
白内障の直接的な予防法はありませんが、抗酸化効果のある食品の摂取や強い紫外線を避ける、ケガ防止をこころがけるなどは予防につながると言われています。
すでに白内障を発症した初期段階の場合は、それ以上の進行を防止する目的の点眼薬が予防的に処方されることがあります。
また、白内障には先天性白内障と後天性白内障があり、前者では遺伝的素因が考えられているため、特にリスクがあるとされる柴犬では、若いうちから眼の検査を受けておくといいでしょう。
犬種:
バセット・ハウンド、ビーグル、ブラッドハウンド、ダルメシアン、プチ・バセット・グリフォン・バンデーンなど
セントハウンドは嗅覚に優れ、主にその嗅覚を活かして猟をするタイプの犬種群を指します。
セントハウンドでは次のような病気が見られる傾向にあります。
(注:同グループに含まれる犬種のすべてが以下に挙げる病気にかかりやすいというわけでもありません。あくまでも平均的なものです)
外耳炎は外耳道(鼓膜に至るまでの部分)に炎症が起きた状態を言います。
犬は人間と違って外耳道がLの字型をしており、その分、通気性が悪い上に、垂れ耳や耳の内側に毛が生えている犬ではなお通気性が悪くなることから外耳炎になりやすく、一般的によく見られる病気です。
原因としては、以下のようなものがあります。
外耳炎では主に次のような症状が見られます。
生理食塩水で耳を洗浄した後、抗炎症や寄生虫駆除、細菌感染の防止などを目的とした点耳薬が状況によって処方されます。場合によっては内服薬を用いることもあります。
また、腫瘍が原因であったり、重症化していたりする場合には外科的処置が必要になることもあります。
以上のようなことは予防につながるでしょう。
一般的に股関節形成不全は大型・超大型犬に多く発症が見られますが、小型犬でも発症することがあります。
遺伝的要因が70%、環境的要因(肥満や滑りやすい床など)が30%と言われ(*5)、股関節の緩みや骨の変形などが生じ、股関節の形成に異常が出る運動器疾患です。
ジャパン ケネル クラブでは股関節形成不全と肘関節異形成症についてリスクが高いと考えられる犬種を公開していますが、股関節形成不全においてはボーダー・コリー、ビアデッド・コリー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ブリアードなどが含まれています(*6)。
症状としては股関節の緩みによって痛みが出ることから以下のような様子が見られるようになります。
進行すると関節が変形する変形性関節炎を伴うことがあります。
なお、この病気は生後1年未満での発症が多いのですが、股関節に異常はあるものの、数年経っても症状らしいものが見られない場合もあります。
治療には内科的治療と外科的治療があり、内科的治療では鎮痛剤や抗炎症剤、軟骨を保護する薬、サプリメントなどが処方され、併せて温熱湿布やレーザー、マッサージ、運動療法などのリハビリテーションが取り入れられます。
同時に、体重管理や運動制限が必要になります。
一方、外科的治療では、股関節はそのままに温存しながら問題となる股関節の部分を切るなどして矯正をする「予防的治療法」と、人工股関節と置き換える、障害を起こしている関節部分を切除してしまうなどの「救済的治療法」があります。
股関節形成不全は肥満や生活環境も関係するため、
などは予防の一環となるでしょう。
脳の大脳皮質の神経回路は、興奮に関わる「興奮性神経細胞」と、それを抑制する「抑制性神経細胞」とで構成されており、通常はそれぞれの間に微弱な電流が流れて情報をやり取りしながらバランスを保って働いています。
ところが、何らかのきっかけでそのバランスが崩れると異常な放電状態となり、いわゆる発作を引き起こします。つまり、てんかんを一言で言うなら、「異常な神経活動」となります。
そのてんかんは大きく2つに分けられますが、それぞれ以下のような原因が考えられています。
タイプ | 特発性てんかん | 構造的てんかん (旧呼び方:症候性てんかん、続発性てんかん、二次性てんかん) |
---|---|---|
原因 |
|
脳の炎症や腫瘍、水頭症、頭部の外傷、脳の奇形など明らかな原因がある上で、脳の構造に問題があって発作が出るもの |
また、発作が起きるには何らかの引き金(トリガー)が存在することがあり、それには次のようなものが考えられます。
てんかんの発作の様子も大きく2つに分けられ、それぞれ次のような症状が見られます。
タイプ | 局限性発作 (旧呼び方:部分発作、焦点発作) |
全般性発作 |
---|---|---|
特徴 |
|
|
症状例 | (体の変化)
|
|
また、てんかんの発作は、「発作前」「発作後」にも普段と違う様子が見られますが、これには個体差があります。
発作前 | 発作 | 発作後 | |
---|---|---|---|
時間 | 数時間~数日 | 数秒~数分程度 | 短時間~数時間~数日 |
様子 |
|
|
|
構造的てんかんの場合は原因となる病気やケガの治療が何より重要となります。
一方、特発性てんかんでは、軽度の場合には経過観察のみになることもありますが、多くの場合は臭化カリウムやフェノバルビタール、ジアゼパムなどの抗てんかん薬を使って発作をコントロールしていくことになり、犬の状況に合わせた薬剤が選択されます。
てんかんは遺伝的背景が関係する部分もあり、予防は難しいと言わざるを得ませんが、一つには定期的に健康診断を受けるなどして病気予防を心がけるしかないでしょう。
すでにてんかんを患っている場合には、愛犬にとってのトリガーになるものや、発作の前兆を把握しておくと多少は発作を予防・軽減できるかもしれません。
体に入ってきた、または接触した異物(アレルゲン)に対して体の免疫システムが過剰反応してしまうことでアレルギーを発症します。
たとえば、アレルゲンの存在によって、免疫システムの中でもっとも重要な働きをするT細胞(Tリンパ球)のバランスが崩れてしまうことが過剰反応の一因となります。
アレルギーでは主に皮膚に症状が出るものをアレルギー性皮膚炎と言いますが、これにはアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー、接触性アレルギーなどがあり、犬では慢性のアレルギー性皮膚炎としてアトピー性皮膚炎や食物アレルギーが多く見られます。
特にアトピー性皮膚炎においては、「皮膚のバリア機能の低下」「アレルギー体質」「免疫の異常」「アレルゲンの存在」が大きく関係していると言われており、これらの条件が複雑に絡み合うことで病気が発現するようです。
初期には皮膚の赤みや湿疹などが見られないこともありますが、一般的に以下のような症状が見られます。
また、症状が出やすい体の部位もあります。
アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの場合 | ノミアレルギーの場合 |
---|---|
|
|
アトピー性皮膚炎の治療には、
1. 生活環境の改善(環境からアレルゲンを極力遠ざける)
2. 薬物療法
3. スキンケア
といった複合的な対処が必要であり、その他、
4. 減感作療法
5. 再生療法(幹細胞療法)
6. 治療補助(乳酸菌、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸などのサプリメントの使用)
が選択肢となる場合もあります。
薬には抗ヒスタミン剤や免疫抑制剤、分子標的薬(JAK阻害薬)、インターフェロン、ステロイド剤などがあり、犬の状況に合わせて処方されます。
減感作療法とは、アレルゲンが特定できている場合に、そのアレルゲンを敢えて犬の体内に少しずつ入れていくことでアレルゲンに慣らし、症状を緩和させる療法のことです。
一方、再生療法(幹細胞療法)は臨床研究の段階にある新しい治療法で、健康体の犬から脂肪組織を採取し、体外で細胞培養をした後、治療を必要とする犬の体内に投与することで自然治癒力や自己修復能力を活性化させ、主に炎症を抑える効果を期待した療法です(*1)。
その他、食物アレルギーではアレルゲンを含まない食事を与える食事療法がメインとなり、ノミアレルギーではノミを駆除するための駆虫薬が必要になります。
ノミアレルギーの場合、ノミ予防・駆除をするとともに、定期的なシャンプー、生活環境をこまめに掃除するなどはアレルギーの予防につながるでしょう。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの場合は予防が難しいですが、腸内環境の良し悪しはアレルギー発症と関連すると考えられているので、腸内環境を整える食事を与えることは予防につながるかもしれません。
眼の中には眼房水と呼ばれる水分が含まれており、眼にとって大事な酸素や栄養を供給しています。
通常、眼房水の生成と排出はバランスが保たれているところ、何らかの原因によって眼房水が滞ることで眼圧が上がり、視力障害を生じるのが緑内障です。
緑内障は「原発性」と「続発性」に大別でき、原発性では遺伝が、続発性では水晶体脱臼やぶどう膜炎など他の眼疾患、腫瘍、外傷などが原因となり、眼房水の排出が妨げられることで発症します。
緑内障では主に以下のような症状が見られます。
犬の状態により、眼圧を下げるための点眼薬や内服薬、鎮痛剤などが処方される他、手術が選択肢となる場合もあります。
遺伝が関係する場合は予防が難しいですが、続発性の場合は他の眼疾患や腫瘍、ケガの予防を心がける他ないでしょう。
以上、犬種グループ別に見られがちな病気を見てきましたが、一つの犬種グループに多く見られる病気もあれば、いろいろな犬種に共通してなりやすい病気もあります。つまり、気をつけたい病気はたくさんあるということです。
100%と言わずともワクチンのようにそうした病気を予防できるものがあればいいですが、多くの病気は予防が難しいのが現実です。
一番避けたいのは、発見が遅れて治療も難しく、最悪の状態になること。それは飼い主さんならば誰しもが思うことではないでしょうか。
そのためには、やはり定期的に健康診断を受けるのが最良なのでしょう。成犬なら年に1回、老犬では半年に1回程度。愛犬の健康を守るために、まずはできることから始めてみましょう。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 動物再生医療技術研究組合「飼い主様向け – 再生医療(幹細胞療法)とは」
https://parmcip.jp/owner/
*2 水越美奈、松本千穂、脇坂真美「高齢犬の行動の変化に対するアンケート調査」動物臨床医学2017年26巻3号p.119-125、doi
https://doi.org/10.11252/dobutsurinshoigaku.26.119
*3 Wiik AC, Ropstad EO, Ekesten B, Karlstam L, Wade CM, Lingaas F. Progressive retinal atrophy in Shetland sheepdog is associated with a mutation in the CNGA1 gene. Anim Genet. 2015 Oct;46(5):515-21. doi: 10.1111/age.12323. Epub 2015 Jul 22. PMID: 26202106.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26202106/ *4 UC DAVIS VETERINARY MEDICINE Veterinary Genetics Laboratory「Progressive Retinal Atrophy (Shetland Sheepdog type)」
https://vgl.ucdavis.edu/test/sheltie-pra *5 日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD)「股関節形成不全とは」
http://www.jahd.org/disease/d_hipjoint *6 一般社団法人 ジャパン ケネル クラブ「発生リスクが高いと考えられている犬種リスト」
https://www.jkc.or.jp/certificates_and_breeding/hereditary_disease/typelist
*7 COLLIE HEALTH FOUNDATION「COLLIE HEALTH, MDR1」
https://www.colliehealth.org/collie-health-101/mdr1-mutation/
*8 Program in Individualized Medicine, WSU College of Veterinary Medicine「Dog breeds commonly affected by MDR1 mutation」
https://prime.vetmed.wsu.edu/2021/10/19/breeds-commonly-affected-by-mdr1-mutation/ *9 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)「春の車内温度(JAFユーザーテスト)」
https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/user-test/temperature/spring *10 The University of Tokyo「FEATURES, 新たな免疫療法で犬のがんを治療する|中川貴之犬にまつわる東大の研究(1)」
詳しくはこちらから *11 鳥取大学農学部附属 動物医療センター「先端医療による治療例/光線力学療法」
https://vth-tottori-u.jp/case/1173
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。