症状から見つける猫の病気「しこりがある」
「しこり」とは、皮膚や皮下組織にできた腫瘤(こぶ、塊のこと)を指します。できもの、腫れものと言われたりもしますが、今までなかった膨らみがぽっこりとできるわけですから気になって当然です。その「しこり」には心配のないものから命の危険にかかわるものまであります。そんな「しこり」をつくる病気にはどんなものがあるのか知っておきましょう。
「しこり」とは、皮膚や皮下組織にできた腫瘤(こぶ、塊のこと)を指します。できもの、腫れものと言われたりもしますが、今までなかった膨らみがぽっこりとできるわけですから気になって当然です。その「しこり」には心配のないものから命の危険にかかわるものまであります。そんな「しこり」をつくる病気にはどんなものがあるのか知っておきましょう。
「しこり」とは、皮膚や皮下組織にできた腫瘤(こぶ、塊のこと)を言いますが、それには非腫瘍性のものと腫瘍性のものがあり、腫瘍性はさらに良性腫瘍と悪性腫瘍(=がん)に分かれます。ちなみに、「腫瘍・がん」は、一部の細胞の遺伝子が傷つき、異常増殖していく病気です。
非腫瘍性のしこりは文字どおり腫瘍にはあたらないもので、内科的治療で済むこともあれば、状況によっては切除が適用になることもあります。
一方、腫瘍性はしこりの多くを占め、周囲組織との境がはっきりしていて、比較的切除が容易で、多くの場合は再発せず、転移も見られない良性腫瘍に対し、悪性腫瘍では周囲組織に浸潤するように増殖するため、その境がわかりにくく、腫瘍が大きくなるスピードが速い上に、血液やリンパの流れに乗って体の他の部位へ転移することがあるという特徴があります。
前置きはこのくらいにして、次はしこりができる病気について見ていきましょう。
非腫瘍性のしこりの場合は次のようなものが考えられます。
免疫異常や感染などによって炎症を起こした結果、しこり状になることがあります。
たとえば、炎症性肉芽腫では皮膚や口の中に赤みを帯びたただれや潰瘍ができます。
また、炎症性ポリープでは耳に腫瘤ができ、放置すると大きくなって耳内を塞ぎ、鼓膜破裂や中耳炎、外耳炎などを引き起こすことがあります。
体の一部分の細胞が過剰に増殖してしこり状になることがあり、それを過形成と呼びます。
これには妊娠の兆候はないのに乳腺が硬く膨れる維腺腫様過形成や、歯周病に起因して口の中や歯肉にしこり状のものができる過形成などがあります。
場合によっては膿や血液、リンパ液などが体の一部分に溜まってしこり状に見えることもあります。
ケガをしたり、虫に刺されたりすることで患部が盛り上がって硬くなり、しこり状になることがあります。
虫刺されの場合は、虫の唾液成分に対するアレルギー反応が一因と考えられます。
腫瘍性のしこりの場合は、以下に挙げるような病気があります。
脂肪腫は脂肪細胞が増殖した良性の腫瘍です。
体のあらゆる場所にできますが、胸やお腹、脇の下、内股など比較的軟らかい部分にできやすい傾向にあり、皮下に多く発現します。
中年期~高齢期での発症が多く、オスに対してメスの発症率はおよそ2倍と言われます。
脂肪腫は犬ではよく見られますが、猫の場合は少ない腫瘍です。
脂肪腫には皮下にできる「皮下脂肪腫」と、筋肉の間にできる「筋間脂肪腫」、本来は良性の腫瘍でありながら浸潤性を示す「浸潤性脂肪腫」の3つのタイプがあります。
通常はほとんど症状らしいものがありませんが、特に筋間脂肪腫や浸潤性脂肪腫ではしこりの大きさやできた部位などによって動きや歩行に障害が出ることもあります。
皮下脂肪腫では経過観察となることがありますが、しこりが大きく支障が出る、また筋間脂肪腫や浸潤性脂肪腫などの場合はしこりの切除手術が適用となります。
猫の瞼にはマイボーム腺(皮脂腺)と呼ばれる器官があり、眼が乾燥しないよう、眼球の表面を覆う角膜に涙を十分行きわたるために油分を運んでいます。
このマイボーム腺が腫瘍化したものをマイボーム腺腫と言います。
中年期~高齢期に発症しやすく、良性腫瘍とされているものの、猫では悪性であることが多いようです。
症状には次のようなものが見られます。
基本的には外科的に、またはレーザーを使用してしこり部分を切除します。
しこりが大きくなって角膜を傷つけている、しこりが瞼の内側にできているなどの場合は早めの手術が望まれます。
肥満細胞腫とは、肥満細胞(アレルギー反応に大きく関係する免疫細胞)が腫瘍化したものを言います。
皮膚に発現する場合と内臓に発現する場合とがあり、前者は全身にしこりができる可能性がある中で特に頭部や耳、頸部などにできやすい傾向があり、後者は脾臓や肝臓、腸などいろいろな臓器に発生します。
肥満細胞腫は悪性腫瘍として知られますが、内臓型の肥満細胞腫のほうが転移しやすく、悪性度が高いとされます。猫においては比較的よく見られる悪性腫瘍です。
症状は皮膚型と内臓型で少々違ってきますが、内蔵型は体の表面にしこりらしいものが出ないことが多いため、他の症状に早めに気づけるかがカギとなります。
皮膚や粘膜を形成する扁平上皮細胞と呼ばれる細胞が腫瘍化したものを扁平上皮癌と言います。
皮膚や口腔内、鼻腔、喉、眼底(後眼球)、肺、足先など体のいろいろな部位に発現しますが、特に口腔内にできることが多く、口腔内腫瘍としては一般的です。
浸潤性が高いため、早期の治療が望まれる病気でもあります。
扁平上皮癌は猫でよく見られ、毛色が白い猫はなりやすい傾向にあると言われます。
症状はがんができた部位によって多少違いがありますが、主に以下のようなものが見られます。
その他、一般的な症状としては次のようなものもあります。
リンパ腫は白血球の一つであるリンパ球が腫瘍化したものを言い、猫では多く見られる悪性腫瘍の一つです。
リンパ球は体のいろいろなところに分布しているので、腫瘍も皮膚や胸腔、肝臓、腎臓、腸など様々な部位で発現します。
そのため腫瘍化した部位によって以下のような型に分類されています。
消化器型 | 肝臓や膵臓、腸など消化器系の臓器に腫瘍ができるタイプで、高齢期の猫に多い |
---|---|
縦隔型 | 胸腔内のリンパ組織(胸腺、縦隔リンパ節など)に腫瘍ができるタイプで、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の感染がリスクを高めるとされており、比較的若い猫に多い |
多中心型 | 顎の下や脇の下など体中のリンパ節が腫れるタイプ |
皮膚型 | 皮膚の表面に腫瘍ができるタイプで、比較的高齢期の猫に多い |
節外型 | 眼や鼻腔、中枢神経など上記以外の部位に腫瘍ができるタイプ |
リンパ腫の症状は型によって違いがありますが、主に以下のような症状が見られます。
乳腺腫瘍は乳腺に腫瘍ができるもので、猫の場合は8~9割が悪性、つまり乳腺がんであると言われます。
猫には左右に4個ずつ、両方で8個の乳腺があり、それぞれがリンパ管でつながっている上に、脇の下にある腋窩(えきか)リンパ節と内股にある鼠経(そけい)リンパ節にもつながっているため、他に転移するリスクが高い腫瘍です。
乳腺と言うとメス猫のみの腫瘍と思われるかもしれませんが、稀にオス猫で発症することもあります。
発症は10~12歳程度の高齢期に多いものの、若い猫でも発症することがあり、生後6ヶ月以前に避妊去勢手術を受けた猫は乳腺がん発症のリスクが91%減少し、1歳未満で手術を受けた場合は86%リスクが減少したとの研究報告もあります(*1)。
乳腺腫瘍ではお乳の近くにしこりができますが、初期には症状らしいものはあまり見られません。
しかし、進行すると次のような症状が見られるようになります。
腫瘍が皮膚にできているのか、内臓にできているのか、局所性か、全身性か、また、腫瘍がある部位や進行度、他に転移しているかなどによって治療には違いが出てきますが、主に以下のような治療法があり、必要があればいくつかの治療法を組み合わせて治療が行われます。
しこり・腫瘍を外科的に切除しますが、浸潤性のある腫瘍ではなるべく広範囲に切除する必要があります。
抗がん剤を注射や点滴、内服などの形で体内に入れることでがん細胞を攻撃する治療法で、手術が難しい場合や全身性の場合などに選択されます。
治療期間が長いことや副作用が出やすいことはデメリットとなります。
薬物療法の一つで、がん細胞の増殖に関係する特定のタンパク質や酵素のみを攻撃する薬剤を用いた治療法となり、副作用が少ないとされています。
手術では対応しきれない場合や手術後の転移を抑制する目的で選択されます。
放射線の照射によってがん細胞の抑制や縮小を狙う治療法で、正常な細胞を傷つけないよう照射範囲には気をつける必要があります。
免疫細胞療法は、がんのある個体の血液からリンパ球を分離した後、特定の薬剤を加えて培養することでリンパ球の活性化および増殖を図り、それを再び当該の個体に戻すことでがんの進行や抑制を狙った治療法です。
白血球の一部であるリンパ球(B細胞、T細胞、ナチュラルキラー細胞)は免疫に大きく作用するため、自己の免疫力を高めることでがんを退治しようというわけです。
免疫細胞療法には、「活性化リンパ球(CAT)療法」や「樹状細胞・活性化リンパ球(DC-CAT)療法」があります。
前者は前述のとおり取り出したリンパ球の活性化・増殖を図るのに対し、後者は樹状細胞(リンパ球ががん細胞を攻撃するよう誘導する目印をもつ)とすり潰したがん細胞を培養し、樹状細胞にそのがん細胞を“記憶”させた上に、活性化を図ったリンパ球を加えて投与します。
このように免疫細胞療法は自分の血液を使用するため副作用が少ない療法とされています。
光感受性物質を投与した後、レーザーをあてることで正常細胞は傷つけずにがん細胞の死滅を狙う治療法で、体への負担が少ないとされています。
腫瘍は熱に弱いという特性を利用し、腫瘍に熱を与えることでがん細胞の死滅を狙う治療法です。
犬猫の腫瘍の発生状況を調査したある報告では、猫において「リンパ腫」「悪性乳腺腫」瘍」「扁平上皮癌」が上位を占めたそうです(*3)。
できればしこり・腫瘍は予防したいものですが、100%は難しいとしても、以下のようなことは多少なりとも予防につながるかもしれません。
非腫瘍性であれ、腫瘍性であれ、しこり・腫瘍は早めに対処するのが一番です。特に被毛が密な猫はしこりに気づきにくいことがあるので、体のどこを触っても大丈夫なようにトレーニングするとともに、日々の健康管理としてしこりがないかチェックすることも忘れないようにしましょう。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 Overley B, Shofer FS, Goldschmidt MH, Sherer D, Sorenmo KU. Association between ovarihysterectomy and feline mammary carcinoma. J Vet Intern Med. 2005 Jul-Aug;19(4):560-3. doi: 10.1892/0891-6640(2005)19[560:aboafm]2.0.co;2. PMID: 16095174.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16095174/
*2 鳥取大学農学部附属 動物医療センター「先端医療による治療例/光線力学療法」
https://vth-tottori-u.jp/case/1173
*3 入江充洋、 来田千晶、石田卓夫「国内1次診療動物病院26施設における犬と猫の腫瘍発生状況調査」日本獣医師会雑誌、69巻(2016)8号、p.468-473 doi:
https://doi.org/10.12935/jvma.69.468
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvma/69/8/69_468/_article/-char/ja/
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。