歯みがきをしようとしても、思うようにみがかせてくれないわんちゃんは少なくありません。犬は虫歯になりにくいかわりに、歯周病になりやすく、3歳以上の犬の80%は歯周病といわれ、人よりも歯周病になりやすいことで知られています。
歯周病予防のためにも歯みがきがはとても大切です。
そこで今回は、犬の歯みがき方法についてご紹介します。いきなり歯をみがくと激しく抵抗してしまう場合もありますが、少しずつ慣らしていくことで、歯磨きを受け入れてくれるようになります。いきなり押さえつけて歯を磨くのではなく、わんちゃんが歯磨きを楽しいと思えるように根気よく練習しましょう。
(監修:もみの木動物病院・獣医師 村田香織先生)
1.犬の歯みがきにおける6つのステップとコツ
歯みがきの習慣をつけるには、歯ブラシに良い印象を持ってもらうことが大切です。歯みがきを練習する時に、愛犬に歯ブラシを見せて表情を観察してください。顔をそむけたり、逃げようとしたりする場合は、練習方法を改善する必要があります。追いかけたり、押さえつけたりするのはNG。ステップを踏んで、歯ブラシを見せたら喜んで寄ってくるようにしていきましょう。
- ステップ1.口元にタッチする
- ステップ2.口唇をめくる
- ステップ3.歯ブラシを好きにさせる
- ステップ4.歯ブラシを見せながら、口唇をめくる
- ステップ5.歯ブラシを口に入れる
- ステップ6.歯ブラシでやさしくみがく
ステップ1.口元にタッチする
いきなりマテをさせて口元にさわるのは難しいので、ハンドコングでフードを食べさせながら少しずつ口をさわることに慣らしていきましょう。口元をさわられることに抵抗がなくなったらごほうびを見せながらマテやオスワリをさせて、口元にタッチ。さわらせてくれたらごほうびをあげてください。ステップ1に十分慣れてから、ステップ2に進みましょう。
<ハンドコングって…?>
ドライフードなどのごほうびを片手で握り、手をコングの形のようにします。中にフードを詰める感じで。
(コング:フードを詰めて遊ばせるおもちゃ。)
<ステップ1の手順>
①ごほうびを食べさせる
手にフードを握り込み、コングの形をつくって親指側から手の中のごほうびを食べさせます。ごほうびは喜んで食べるのであればドライフードで大丈夫です。
②歯や口をさわる
ごほうびに夢中になっている隙にもう一方の手でやさしく口をさわりましょう。
ステップ2.口唇をめくる
<ステップ2の手順>
①マテをさせる
食べながらさわられることに慣れたら、ごほうびを手の中に握って「マテ」と言います。
②口唇をめくる
「マテ」の状態のまま、反対の手で口唇をそっとめくります。
③ほめてごほうびを与える
「おりこう!」とほめてごほうびを与えます。
1~2秒から始め、少しずつめくる時間を長くしてください。抵抗なく自由にさわらせてくれるようになってから、ステップ3に進みましょう。
★練習を何度か繰り返し、すべての歯を見られるようにしましょう!
ステップ3.歯ブラシを好きにさせる
ごほうびは、最初は特別に好きなものを用意しましょう。片方の手に歯ブラシを持ち、同じ手にごほうびを握ります。まず歯ブラシを見せ、犬が見たらすぐごほうびをあげます。このごほうびを歯ブラシの時だけあげるようにすると、歯ブラシが大好きになるでしょう。歯ブラシを見せた時、犬が喜んで来ればステップ3は完了です。
ステップ4.歯ブラシを見せながら、口唇をめくる
歯ブラシを持った手にごほうびを握り、歯ブラシを見せながらマテをさせます。反対側の手で口唇を一瞬めくり、すぐにほめてごほうびをあげます。少しずつ時間をのばし、すべての歯を抵抗なく見ることができるまで練習します。
ステップ5.歯ブラシを口に入れる
犬専用の歯みがきペーストを歯ブラシに塗っておきましょう。ステップ4と同様に、ごほうびを握っている手に歯ブラシを持ちます。歯と歯ぐきの間に歯ブラシをそっと当て、すぐごほうびをあげます。当てる場所を変えて繰り返しましょう。
ステップ6.歯ブラシでやさしくみがく
歯と歯ぐきの間をやさしくみがきましょう。最初は1ヵ所みがくたびにごほうびをあげます。少しずつ時間をのばし、全体をみがけるようになるまで練習します。
★犬は虫歯になりにくいため、ごほうびを与えながらみがいても大丈夫です。最初は1ヵ所みがくごとに、ごほうびをあげましょう。
2.犬の歯みがきにおける5つのポイント
歯みがきで大切なのは、ごほうびを使って楽しく練習すること、ステップを踏んで慣らしていくこと、歯みがきを毎日の習慣にすることの3つです。犬に歯みがきの意味を教えることはできません。しかし、犬の歯周病はとても多く、不快感や口臭の原因になるばかりでなく、細菌が腎臓、肝臓、心臓など全身に運ばれて悪影響を及ぼします。毎日のリラックスタイムとして愛犬と触れ合い、おだやかに歯みがきする習慣ができるのが理想です。
- ポイント1.ごほうびを使って楽しく練習する
- ポイント2.落ち着いている時に練習する
- ポイント3.嫌がるまで続けない
- ポイント4.暴れた時にごほうびを与えない
- ポイント5.痛みがある時には行わない
ポイント1.ごほうびを使って楽しく練習する
歯みがきトレーニングの目的は歯をみがくことではありません。犬に歯みがきを受け入れてもらうことが目的です。歯みがきを試練の時間ではなく、ごほうびをもらえる楽しい時間にしていきましょう。ステップを踏んで慣れさせていけば、ほとんどの犬は問題なく受け入れてくれるようになります。
ポイント2.落ち着いている時に練習する
遊びたい気持ちは散歩や遊びで発散させ、落ち着いてから歯みがきをしてください。歯ブラシを噛みそうになった時は「あっ」と言ってすぐに取り上げ、ブラシを噛む癖をつけないようにしましょう。歯ブラシを噛むことでたまたま歯ブラシが当たった部分の歯垢は取れますが、歯ブラシが当たらない大部分の歯は歯磨きが必要です。歯磨きの際に歯ブラシを噛もうとするようになると、必要な部分の歯磨きが難しくなります。
ポイント3.嫌がるまで続けない
無理に押さえつけたりせず、嫌がる前にストップ。嫌がるまで続けると歯ブラシを見ると逃げるようになります。また嫌がってから止めた場合は「暴れると止めてもらえる」と学習します。深追いせずに「明日みがけばいいか」と気長に構えてください。ゆっくり慣れさせていくのがコツです。歯みがきを嫌がる場合は、①普段からマズルをつかんで叱っている、②いきなり歯ブラシを口の中に入れている、③飼い主さんが怒っている、④乾いた歯ブラシが痛い、⑤歯ブラシの当て方が痛い、という理由も。当てはまることがあれば改善していきましょう。
ポイント4.暴れた時にごほうびを与えない
犬が暴れた時は「ごめんね」と言って、嫌がらずにできたところまで戻り、成功させてからごほうびをあげましょう。どうしても嫌がるようなら、最初はコングにクリームチーズなど塗ってなめさせながら歯みがきしても良いでしょう。
ポイント5.痛みがある時には行わない
歯ブラシを軽く当てるだけで痛がったり、出血したりする場合は、歯周病の可能性があります。動物病院に相談しましょう。また、歯が抜け変わる時期は敏感になっていますので注意してください。
3.犬の歯みがきでよくある5つの質問
- 質問1.犬が歯みがきを嫌がる時はどうする?
- 質問2.犬の歯はどのくらいの頻度でみがくの?
- 質問3.老犬や子犬にも必要?
- 質問4.犬用のデンタルグッズだけでもいいの?
- 質問5.汚れやすい歯はあるの?
質問1.犬が歯みがきを嫌がる時はどうする?
今回ご紹介したように、口をさわることから徐々に始めてみてください。また、最初のうちは歯を磨くことより、歯磨きタイムを楽しくすることを意識してみましょう。
質問2.犬の歯はどのくらいの頻度でみがくの?
毎日歯みがきする気持ちでいてください。人と同じで、2、3日に1度だと習慣になりません。1日で全部の歯をみがかなくても良いので、短時間でもできるだけ毎日の習慣にしてください。
質問3.老犬や子犬にも必要?
高齢の子はもちろん、口臭が気になったり嫌がったりする子は、事前に動物病院でチェックしてもらいましょう。子犬は、永久歯に生え変わる生後半年まで無理をしないで。子犬の時期に口をさわる練習をしておくことをおすすめします。
質問4.犬用のデンタルグッズだけでもいいの?
デンタルグッズだけですべての歯を健康に保つのは難しいので、歯みがきしながら併用しましょう。デンタルグッズを噛むことで、ストレス発散、破壊行動の予防にもなります。
質問5.汚れやすい歯はあるの?
上下の犬歯、上顎の第四前臼歯および下顎の第一後臼歯と、それより奥の歯が特に汚れやすいので、ていねいにみがきましょう。歯と歯ぐきの間をやさしくみがくことを心がけましょう。
6.まとめ
歯みがきをすることで愛犬とより良い関係を作りながら、楽しく触れ合う時間にしてください。口の中を見る習慣をつけることで、病気の早期発見、予防にもなります。時間をかけて少しずつ慣らしていきましょう。
お話を伺ったのは…
もみの木動物病院
獣医師 村田 香織先生
同病院でパピークラスの監修、問題行動を持つ犬猫のカウンセリングも担当。おうちでは犬2頭、猫4頭に愛される素敵な飼い主さん。著書に『こころのワクチン~子犬に教える、人としあわせに暮らす方法~』など。