1.犬の認知症(痴呆)とは
脳神経系の病気のなかで、とくに注目したいのが「認知症」です。人と同様、長寿化に伴って、近年、増加しています。
愛犬の歩き方がおかしい、体が傾く、けいれんする…など、愛犬の仕草や行動がおかしいときは、脳神経系の病気が疑われます。なかでも、長寿化に伴って増加しているのが「認知症」です。
早期発見が大切なので、愛犬がまだ若いうちから知識をもっておきましょう。
目次
脳神経系の病気のなかで、とくに注目したいのが「認知症」です。人と同様、長寿化に伴って、近年、増加しています。
認知症の症状としては、以下のようなものが挙げられます。
方向感覚や人物に対する認知が低下することで、飼い主さんやなじみのある人などが認識できなくなったり、家の中の障害物が避けられない、フードが見つけられないなどの症状があらわれます。
周囲の人や動物などに対する反応が低下することで、飼い主さんや周りの人・動物を過度に怖がったり攻撃する様子が見られます。
それまでの睡眠サイクルが乱れ、あまり眠らない、夜間にウロウロとする、夜鳴きをするなどの症状があらわれます。
上手にできていたはずの排泄ができなくなり粗相が増える他、新しいことが覚えられなくなるといった様子が見られることがあります。
活動全般における様子に変化が見られ、飼い主さんや他の犬と一緒に遊ばなくなったり、ぼんやりとする、徘徊するなどの症状があらわれます。
さまざまな状況に対する不安感が増し、飼い主さんから離れたときの不安感や、新しい環境や音などに対して怖がることが増えるようになります。
愛犬が寝てばかりいる、目や耳が衰えてきた、反応が鈍い…。
こうした様子も単なる老化と見過ごすことなく、認知症特有の行動が目立ってきていないかを日々確認しておきましょう。
犬の認知症にも、人の「アルツハイマー型認知症」に似た症状が出てきます。
「アルツハイマー型認知症」の原因は、脳にβ-アミロイドというタンパク質が蓄積し「老人斑」を作り、脳の機能を低下させると考えられていますが、詳しいことはわかっていません。
人のアルツハイマー型認知症の場合、β-アミロイドの蓄積による老人斑以外に、リン酸タウという異常タンパク質の蓄積や脳の萎縮が見られますが、犬の脳にはそれらの症状が見られず、アルツハイマー型の前段階と考えられています。
愛犬が認知症にならないよう、できるだけ早期の段階で変化に気づいてあげたいものですね。
かつては、認知症は老化によるもので、治療や予防はできないと思われていましたが、最近はある程度の対策が有効であると考えられています。
ここでは認知症にならないための4つの対策をまとめました。
DHAやEPAなどの青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸が、夜鳴きや夜中の徘徊などの認知症の改善に効果があるとされています。サプリメントや週に数回の青魚を使った食事などで、認知症の予防や症状緩和の対策をしましょう。
体内で発生する活性酸素は、神経細胞を傷つけ、脳の機能を低下させる原因になります。
そのため、抗酸化物質を与えると、認知症の予防になるといわれています。β―カロチン、ビタミンC、ビタミンEなどを含んだ野菜や果物を食生活に取り入れたり、サプリメントで補ってあげましょう。
愛犬に声をかけたりスキンシップをしたり、「おすわり」や「待て」などの訓練を続けたりなど、毎日の生活に刺激を与えてあげましょう。知育トイを使って遊ぶこともおすすめです。
体を動かさなくなると認知症が進行しやすくなるため、日頃から意識して筋力を維持することも大切です。老犬だからと運動をやめてしまわず、かかりつけの獣医師に相談しながら、適度なお散歩を欠かさずにしましょう。
気をつけてあげたい、認知症になりやすい犬の特徴を3つご紹介します。
13歳頃から症状が出始め、15~16歳でピークを迎えます。寿命の短い大型犬では、7~8歳から注意してあげてください。
洋犬もなりますが、柴犬や日本犬系雑種に多く発症します。
日本犬系の認知症の犬を調べたところ、血中の不飽和脂肪酸量が著しく低下していることが判明しました。
日本犬は元来、魚主体の食生活を送ってきたため、魚由来の不飽和脂肪酸を多く必要とする体のしくみになっているのに、肉主体のドッグフード食になって、摂取量が減ったのが原因ではないかと考えられています。
飼育状況や生活環境も影響します。つねに飼い主とスキンシップがある室内飼育犬に比べ、屋外飼育犬は刺激が少なく、脳の老化が進みやすいようです。
異常なしぐさが見られる脳神経系の病気は、認知症だけではありません。ここでは犬に多い症状を3つまとめています。認知症ではないため、若い犬でも発症する可能性があり、油断はできません。
首が片方に傾いたままになるのが「斜頸(しゃけい)」で、立っていられず横転したり、嘔吐や眼球が勝手に揺れ動く振動が見られることも。内耳の前庭部(半規管と蝸牛の間)の障害によって起こる症状で、内耳炎、脳炎、脳腫瘍などが原因として考えられます。老齢期に発症するものは原因不明のことも多いです。
体が突然けいれんしたり、硬直したり、意識がもうろうとしたりする「てんかん」発作。脳炎などの病気や外傷によるものと原因不明のものがあります。
脳に腫瘍ができてしまうと、患部の部位によって症状が異なります。てんかん様発作や斜頸、旋回運動、運動失調、眼振、顔面まひなどが見られることもあれば、目立った症状が現れないこともあります。
愛犬も長寿化に伴い、さまざまな身体疾患が出てきます。まだうちの子は若いから…と思わず、若いうちから知識を持って対処などを行っておくと安心です。また、変化を感じたら症状が進行しないうちに、早めに気づいてあげられるよう、日頃から愛犬の様子をしっかり見てあげたいですね。
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。