人と動物の共通感染症
人にも動物にも感染する共通の感染症があることをご存知ですか?
ペットを飼うにあたっては、その知識や理解、予防に対する努力は必要不可欠なものです。ここでは、人と動物の共通感染症について、その症例や予防策などをくわしくご紹介します。
人にも動物にも感染する共通の感染症があることをご存知ですか?
ペットを飼うにあたっては、その知識や理解、予防に対する努力は必要不可欠なものです。ここでは、人と動物の共通感染症について、その症例や予防策などをくわしくご紹介します。
人と動物の共通感染症とは、その名の通り、人間にも動物にも感染する可能性のある感染症のことを言います。
「人獣共通感染症」や「ズーノーシス」とも呼ばれ、 WHO (世界保健機関)では「人と人以外の脊椎動物の間で自然に移行する病気又は感染」と定義されています。
世界では200種類以上の感染症が重要視される中、近年のペットブームや交通網の発達などにより、日本でも注視するべきその種類は増加傾向に。
共通感染症に対する理解とその対策はますます求められるようになり、環境省もペットの飼い主の「守ってほしい5か条」の1つとして、「動物と人の双方に感染する病気(人と動物の共通感染症)について、正しい知識を持ち、自分や他の人への感染を防ぎましょう。」と、提唱しています。
人と動物の共通感染症の伝播経路は「直接伝播」と「間接伝播」に分けられます。
<ベクター媒介>
<食品媒介>
<環境媒介>
人と動物の共通感染症にはさまざまなものがありますが、ここでは予防接種の義務化がされている狂犬病をはじめ、日本において動物病院での外来頻度や発症事例の高い代表的なものをご紹介します。
狂犬病ウイルスによる感染症で、万一感染すると死に至ってしまう非常に恐ろしい病気です。現在、日本では発生しないものとされていますが、これまでは海外で犬に嚙まれ帰国後に感染した輸入感染例もあり、犬の飼い主さんには狂犬病のワクチン接種が義務付けられています。
噛まれる、なめられるなど、唾液によって感染します。
初期では目的もなく動き回ったり、吠えるなどの前駆症状があらわれます。その後、わずかな刺激にも反応して攻撃する興奮期に入り、食事をとらない、咽頭部のけいれんや麻痺によって水分摂取ができない、唾液が飲み込めなくなりよだれを流す、などの症状が見られます。やがてけいれん発作がおこり、呼吸が停止して死に至ります。
初期は風邪に似た症状で、咬まれた部位に知覚異常が見られます。不安感や興奮・麻痺・錯乱などの神経症状が現れ、数日後に呼吸麻痺で死亡します。
レプトスピラ菌(レプトスピラ・インテロガンス)という細菌によって、体内のさまざまな臓器に影響を与える感染症で、特に肝臓や腎臓に重大な症状が見られるのが特徴です。動物への感染予防にはワクチンが有効で、日本では混合ワクチンの中にも入っていることも多いです。
レプトスピラ菌に感染した動物の尿や、尿に汚染された水・土壌から経皮的に感染します。レプトスピラ菌を持つ食物から経口的に感染する可能性もあります。
発熱・筋肉痛・口腔粘膜の出血・血便・黄疸・急性の肝不全や腎炎などが起こります。
38~40℃の発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・結膜充血などが見られ、重症の場合は、発病後5~8日目に黄疸や出血・腎機能障害があらわれます。
糸状菌という真菌(カビ)に感染し皮膚に症状を起こす病気です。人と動物の共通感染症の中でも、動物病院での受診は多く見られます。
感染した動物 との接触や、土壌や空気中に生息している菌から感染します。また、人から人へも伝染します。
頭部や顔などの皮膚に、赤みやフケ・かさぶたを伴う円形脱毛などが見られます。
症状が出ない場合もありますが皮膚症状が急速に広がることもあり、重症になると皮膚がただれたり、化膿するケースもあります。
頭部白癬(しらくも)、体部白癬(ゼニタムシ)、ケルスス禿瘡(とくそう)など、頭部や体にさまざまな皮膚症状があらわれます。
環境中での抵抗力が非常に強く、砂や土の中に混じって長期間生き続ける回虫卵による感染症で、ペットには定期的な駆虫薬の投与が有効です。
犬や猫の排泄物の中にある回虫卵を経口摂取することにより感染します。
犬は母犬の妊娠時に胎盤を経由して。猫は母猫の母乳から感染することが多いため、どちらも子犬や子猫に多く見られ、栄養状態の悪化・下痢・腸閉塞・肺炎・気管支炎などを引き起こします。
回虫の幼虫が眼に移行する眼移行型と、肝臓や肺などの臓器に移行する内臓移行型があります。眼移行型では視力障害や視野障害などが起こり、内臓移行型では肝臓が異常に大きくなる肝腫大や肺炎・関節痛・ 筋肉痛などの症状が見られます。
バルトネラ・ ヘンセレという細菌を持つ猫から感染するものですが、ごくまれに犬から感染することもあると言われています。飼い主さんや周囲の人が猫に噛まれたり、ひっかかれる事故は多いため、日常的に十分な注意が必要と言えるでしょう。
口や爪にバルトネラ・ヘンセレを持つ猫が、人に噛みついたりひっかい たりすることによって皮膚から直接感染します。猫同士ではケンカによる直接感染や、ネコノミの吸血が媒介し伝染していき、まれに保菌したネコノミから感染することもあります。
猫や犬の場合は無症状です。
傷を負った数日~2週間後に傷口付近におできや膿庖ができ、さらに数日~数週間後にはリンパ節の腫れや、発熱・頭痛・倦怠感が見られます。また、脳症や髄膜炎などの合併症が起こることもあります。
ペットのためにも私たち人間のためにも、人と動物の共通感染症予防に飼い主さんができることはたくさんあります。
今一度日常生活を振り返り、感染予防に努めましょう。
世界的にも多くの感染症があり、中には命の危険を脅かすものもあるのが、人と動物の共通感染症です。まずは飼い主さんの正しい理解と、日常生活における予防意識の徹底を心がけましょう。
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。