【獣医師監修】ネコに認知症はある?疑われる行動や飼い主の対応方法を解説
以前は7〜8歳が平均寿命と言われていた室内飼いの猫ですが、最近はキャットフードの栄養バランスの向上や医学の進歩などにより、15歳を超えても元気に過ごすシニア猫が増えてきました。
愛猫に認知症が疑われる行動や、そのような行動が見られた際に飼い主にできることとは? 詳しく解説します。
以前は7〜8歳が平均寿命と言われていた室内飼いの猫ですが、最近はキャットフードの栄養バランスの向上や医学の進歩などにより、15歳を超えても元気に過ごすシニア猫が増えてきました。
愛猫に認知症が疑われる行動や、そのような行動が見られた際に飼い主にできることとは? 詳しく解説します。
目次
人間と同様に、猫も年齢を重ねるとともに認知症になることがあります。まずはその原因を見ていきましょう。
原因1
猫の認知症の原因として多くを占めるのが、老化による脳の衰えです。
猫は、10歳~15歳くらいになると脳の衰えの兆候が見られる傾向にあり、その後徐々に進行していくことで、さまざまな物事に対する認知機能が低下していきます。
原因2
人間の認知症では「アルツハイマー病」が多く見られますが、実は猫もこのアルツハイマー病と同様の脳変化を起こすと言われています。
脳に老廃物がたまることで神経細胞が損傷し、脳全体が萎縮。それによって、記憶をつかさどる「海馬」をはじめ、さまざまな認知機能の低下を引き起こしていきます。
原因3
脳梗塞や脳出血など、何らかの脳疾患が影響し認知症になることもあります。
飼い猫の様子がいつもと違う、変わった行動をしている場合には、認知症であることも疑われます。
具体的にはどのような行動が見られるようになるか、いくつかのケースを紹介します。
行動1
隙間に挟まるようになったり、物をうまくよけることができなくなったりします。
その他、壁や床、空中など、何もないところをぼんやり見つめる、今まで名前を呼べば反応していた飼い猫が全く反応しなくなった、好きなおもちゃを見せても興味を示さなくなったなどの変化が見られる場合もあります。
行動2
穏やかだった猫が急に攻撃的になった、イライラして物を壊すようになった、可愛がられたり、撫でられたりすることへの興味が減ったなど、これまでの反応や性格に変化が見える場合もあります。
行動3
夜中にウロウロと歩く、落ち着きがないといった様子が見られる他、今まで鳴くことがほとんどなかった飼い猫が、急に大きな声で鳴く、夜泣きをするようになるなどといった変化が見られる場合があります。多くの場合、年を重ねるに従い、鳴き声は大きくなっていきます。
行動4
トイレではない場所で粗相をするなど、トイレまわりの失敗が増えるケースがあります。
行動5
無目的な歩行や徘徊行動が見られるようになるほか、注意散漫になり、これまでのように愛猫の気を惹くことが難しくなったり、飼い主さんや家族、おもちゃと遊ぶ頻度が減ったりする場合があります。
行動6
飼い主さんが離れた際の不安が増えたり、例えば救急車の音などの聴覚刺激、部屋から見える外の風景などの視覚刺激に敏感になり怖がるようになったりする場合があります。
飼い猫の様子や行動に変化が見られたとき、「高齢だし、認知症かな」などといった自己判断で、飼い猫の変化を故意に見逃さないようにしましょう。様子や行動の変化には、重大な病気が隠れている可能性もあるためです。
例えば、異常な食欲が見られる場合、甲状腺機能亢進症や糖尿病などの病気が隠れていることがありますし、トイレの失敗がつづく場合には、膀胱炎や運動器疾患の可能性も。
そのほか、夜泣きがつづく場合や性格の変化が見られる場合にも、別の病気が隠れていることがあります。
飼い猫に様子の変化が見られたときには、まずかかりつけの動物病院に相談してみることをお勧めします。
動物病院では、まず症状に応じて甲状腺や腎臓などを検査し異状が認められない場合に認知症の可能性が出てきます。
猫の認知症については、まだ詳しいことが分かっておらず、直接「認知症」と診断するための検査方法や判断基準は確立されていないのが現状です。
症状から疑われる病気が隠れていないかどうか、すべての可能性をつぶしていった結果、異状が見られなかった場合に「認知症」が疑われます。
脳腫瘍が疑われる場合などには、全身麻酔を用いたMRI検査やCT検査を獣医師から提案されることもあります。この場合には、全身麻酔のリスクや費用面などの説明を受けた上で、よく相談してから実施するか判断しましょう。
検査の結果、飼い猫が認知症の可能性が高いと診断された場合、どのような対応をとれば良いのかと不安に思う飼い主さんは少なくないと思います。
まずできることは、飼い猫の様子をよく観察することです。どのような症状が出ていて、それにより生活にどのような支障が起きているのか、それらをよく観察し獣医師に共有、相談するとよいでしょう。家庭での適切なサポートの仕方などのアドバイスを獣医師からもらい、飼い猫の状況に合わせた環境を整えていけると良いですね。
例えば認知症に多く見られる行動に対する対応策としては、以下のようなことが挙げられます。
→トイレのふちが高い場合、運動機能の低下から今までのトイレが上手くまたげず、粗相につながっている可能性もあります。そのような場合には、ふちの低いトイレに替えてみるのもひとつの手でしょう。
また、家の複数個所にトイレを設置し、猫が行きたいときにトイレがすぐ近くにあるという環境をつくるのが効果的な場合もあります。
ただ、夜泣きなどは飼い主さんの対応だけではなかなか改善しないこともあります。その場合には、病院で症状を軽減させる薬や抗不安薬などを処方してもらうことも。
ペットの認知症に関連するサプリメント(DHAやEPA)を市販で購入することもできますが、サプリメントの効果についてもまだまだ研究途中で分かっていないことが多いのが現状です。こちらもかかりつけ医に相談した上で、与えるかどうかの判断をするようにしましょう。
猫の認知症の予防策としては、次のようなものが挙げられます。
方法1
飼い主さんが頻繁に話しかけたり、おもちゃで遊んであげたりすることは、猫の脳を活性化させ認知症の予防につながります。話しかけるときはしっかりと目線を合わせたり、おもちゃを日替わりで変えたりといった工夫をすると、より良い刺激となるでしょう。
方法2
ストレスは脳の血流の悪化や脳内の酸化物質の蓄積を招くため、認知症の引き金となりかねません。適度な運動をはじめ、しっかりと本能を満たすことのできる住環境や衛生面など、猫にとってのストレスフリーな生活を心がけましょう。
また、適度な日光浴も脳内の「セロトニン」の分泌を促し、認知症予防に有効であるとされています。
方法3
人間の認知症予防では、バランスの取れた栄養摂取が非常に大切であると考えられています。そしてそれは猫も同様で、中でも認知機能に大きく関わるとされているDHAやEPA、中鎖脂肪酸、フラボノイドなどの摂取は、認知症予防に効果があるかもしれません。
シニア向けのキャットフードやサプリメントなどで摂取ができますが、獣医師に相談のうえ与えることをおすすめします。
15歳をすぎると「長生きですね!」などと言われることも増えてきますが、飼い主さんは「このままずっと健康に、一日でも長く生きてほしい」と願うものですよね。
少しでも長く、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を維持しながら共に暮らしていくために飼い主さんにできることはどんなことがあるでしょうか?
押さえるべきポイントを紹介します。
秘訣1
平均寿命が長くなった室内飼いの猫に対し、野良猫の平均寿命は今でも5年ほどと言われます。理由としては、外では交通事故にあったり、他の猫から病気をうつされたり、というリスクが多くあるからです。飼い猫も外出することで、それらの危険に遭う可能性は充分にあります。中でもウイルス感染する確率は高いと言われており、猫エイズなどはワクチンでも防ぐことができません。
ときに命にもかかわるウイルス感染を予防する一番の対策は、外出させないことです。
秘訣2
外出させない場合でも、野良猫が遊びに来るなど、飼い主さんの知らないところで飼い猫がウイルスに感染してしまう経路はいくつも考えられます。ウイルス感染を防ぐには、ワクチン接種も重要です。
秘訣3
飼い猫の様子がいつもと違うときはもちろん、一見して問題がなさそうな場合にも病気が進行している場合はあります。猫は不調や痛みが出ても、そのことを隠そうとする習性があるためです。 定期的な検診で健康状態をチェックすることは、病気の早期発見に役立ちます。
猫にも認知症はあります。飼い猫が認知症かどうか、早期発見するためのキーワードは“様子、行動の変化”です。
普段から飼い猫の様子をよく観察し、定期的に病院で検診を受けるなど、猫の変化に気づける習慣、環境づくりを普段から行うことが、愛猫との穏やかな日々を一日でも長く続けられる土台づくりとなります。
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監修いただいたのは…
猫専門病院 Tokyo Cat Specialists 院長
獣医師 山本 宗伸先生
猫専門病院 Tokyo Cat Specialists(https://tokyocatspecialists.jp/clinic/) 院長。
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫に魅了され、獣医学の道へ。
都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。国際猫医学会ISFM、日本猫医学会JSFM所属。