老犬の介護「寝る」「睡眠」:実体験談を交えた気をつけたいポイント
老犬ともなると睡眠時間が増えるのに加え、床ずれや夜鳴き…などいろいろ問題も出てきます。こと初めての老犬の介護では不安や疲労もつきもの。飼い主さん、愛犬ともに少しでも楽に介護生活を送るために、先輩飼い主さんたちの実体験も交え、「寝る」「睡眠」をテーマに気をつけたいポイントをご紹介します。
老犬ともなると睡眠時間が増えるのに加え、床ずれや夜鳴き…などいろいろ問題も出てきます。こと初めての老犬の介護では不安や疲労もつきもの。飼い主さん、愛犬ともに少しでも楽に介護生活を送るために、先輩飼い主さんたちの実体験も交え、「寝る」「睡眠」をテーマに気をつけたいポイントをご紹介します。
愛犬の眠る姿を見ると愛しさを感じるばかりですが、介護を必要とする老犬ではなかなか落ち着かず、眠らないこともあります。
それには何らかの理由があるはずで、たとえば次のようなものが考えられます。
老犬が落ち着かずに寝ない時には、まず観察と想像力をもって理由を推理し、愛犬の“訴え”に対処するしかありません。それによって落ち着くことがありますが、そのためには何より愛犬の状況を把握しておくことが大事でしょう。
少しでもおかしいと思った時には、迷わず動物病院に相談してください。
・関節炎 ・床ずれ ・癌 ・尿毒症 など
前段で述べたように老犬では何らかの持病がある犬や、歩行にふらつきのある犬、寝たきりの犬も多くなります。だからこそ、少しでも心地よく睡眠がとれるようベッドやマット類を選びたいものですが、それには以下のような点を考慮するといいでしょう。
体圧分散効果が低いと肩や腰など体の数ヶ所のみに体圧がかかり、関節痛につながったり、床ずれができやすくなったりするので、適度な体圧分散効果があるベッドやマットがおすすめです。
体の沈み込みが浅いタイプで、寝返りがうちやすく、床ずれ予防効果も高いのが特徴。一方で、体の包み込み感は低いため、冬には寒さを感じやすいかもしれません。
体の沈み込みが深いタイプで、その分、寝返りは打ちにくいものの、包み込み感はあるのが特徴。
体の形にフィットしやすく、ベッド代わりというより、体の一部分を保定するのに向いています。
空気の入れ具合により、好みの硬さにできますが、通気性に劣るため蒸れやすく、素材によっては滑りやすいのは難点。
マットが薄いと体が沈み込み過ぎて床についてしまったり、マットがへたれてしまったりすることがあるので、十分な厚みがあるものを選びましょう。
老犬はおもらしや食べこぼし、嘔吐などなどでベッドを汚してしまうことがあるので、洗いやすく、かつ乾きやすい素材のものがベストです。
汚れ防止には、マットの上に防水シートを敷き、さらにその上にシーツやブランケットなどを敷くといいでしょう。
マットの通気性が悪いと蒸れることあるので、少しでも通気性の良いものを。
体を思ったように動かせなくなるともがいたり、バタついたりして体の一部がマットから落ちてしまうことがあるので、サイズは犬より少し大きめのほうがベターです。
次に、少しでも落ち着いて寝るためには睡眠環境も大事ですが、主に配慮したいのは次の2点です。
老犬になると気力や体力が低下するのに加え、不安感が増すこともあります。
それまでとは違い、一人静かな場所にいることを好むようになることもあれば、逆に家族のそばにいたがる場合もあり、犬それぞれです。いずれであっても愛犬の性格や状況を把握した上で、少しでも落ち着ける場所を用意してあげましょう。
老犬は体温調節がしづらくなり、熱中症になりやすいのに加え、寒さも感じやすくなります。
犬種やサイズ、年齢などにもよりますが、一般的に、犬にとって快適な温度は21~25℃、湿度50~60%程度と言われます。老犬の場合、エアコンを使用するのであれば、冬場には1~2℃高めの温度設定にするといいかもしれません。
また、人間の目線と犬の目線では室内温度に1~3℃程度の差があり、人間にはちょうどいい温度でも犬にとっては寒いということもあり得ます。
ご存知のように、冷えた空気は密度が高いため下に停滞し、密度の軽い温かい空気は上に上がります。この点を踏まえ、時々は愛犬の目線で寝場所の温度をチェックするとともに、エアコン使用時などはなるべく空気を撹拌して部屋全体が同じ温度になるようにするといいでしょう。
さて、ベッドや環境を整え、よく寝てくれるようになったので、そのまま寝かせっぱなしでいいというわけでもありません。
ずっと同じ姿勢で寝続けると体の一部分に圧力がかかることで血流が妨げられ、その結果、血行障害、体の痛みや関節の拘縮(こうしゅく/関節が固まって動かしにくくなること)、感覚麻痺、床ずれなどが生じることがあります。人間ではその他、呼吸困難や誤嚥が起こることも(仰向けの場合)。
また、老犬では筋肉量が低下しますが、筋肉には身体を動かすのはもちろん、姿勢を保持する、心臓・内臓・血管を動かす、体内の熱を発生させるなどの他、免疫力にも関わる働きがあります。
以上のことから、歩行補助が必要な犬や寝たきりの犬では、軽い運動や体位変換が重要であることがおわかりいただけるでしょう。
対策1
認知症による徘徊がある犬も含め、補助すればまだ歩ける犬では、犬用の歩行補助具や車椅子などを用いて歩かせるようにします。要は体を動かすことが目的なので、室内や庭先など短い距離でかまいません。
車椅子の場合、後肢のみが弱っているなら二輪タイプ、前後肢が弱っている犬では四輪タイプがいいでしょう。
歩行補助具は胴全体を支えたほうが楽なのか、腰を吊り上げたほうが楽なのかなど、犬の状況によって違ってくるので、いくつか試してみるといいと思います。
対策2
どのような状況になっても、動物には「立ちたい」「歩きたい」という本能があるはずです。一方、介護の面からは、1日に何回か、犬が起きている姿に少しでも近い姿勢をとらせるのがよいとされます。
近年では、“ふせ”の姿勢を保持できるような介護用のクッションも市販されているので、そうしたグッズを利用するのもいいでしょう。
もちろん、ビーズクッションや丸めたバスタオルなどを用いて姿勢を保持することも可能です。中には、小型犬の場合、深みのある段ボールの中に犬を入れ、体の周囲にクッションを置くことで“ふせ”に近い姿勢を保てるよう工夫している飼い主さんもいます。
ポイントは顎を乗せるクッションもあると犬にとっては少し楽だということ。四輪の車椅子で姿勢を保持する場合でも、車椅子のつくりにもよりますが、顎の下にクッション状のものを置いてあげるといいでしょう。
対策3
寝たきりの犬では2~3時間に1回程度、寝返りを打たせるのが理想的です。
その際、犬の背中をマットにつけたまま一旦仰向けの状態にして反転させるやり方は内臓がずれる可能性があり、NGとされます。
寝返りを打たせる時には、犬のお腹が下側、つまり起きているのに近い姿勢にして反転させるようにしましょう。両脚をこすり合わせることで床ずれができやすいような犬では、脚の間にクッションを挟むなどして対策を。
ただ、実際には一日に何回も寝返りを打たせるのは難しい場合もあります。そのような時は、なるべく体圧分散効果の高いマットを選ぶことで多少間隔を延ばすことが可能かもしれません。
対策4
老犬は、熱を作り出す作用のある筋肉量が低下すること、また血行不良にもなりやすいことから体が冷えがちです。特に寝たきりの犬では四肢が冷えることがあり、血行を促すためのマッサージや、保温のために靴下を履かせるのもいいと思います。
老犬の介護は準備もないまま、ある日突然に始まることがありますし、病気やケガをきっかけに寝たきりになることもあります。できれば避けたい介護生活ですが、いつかは来るかもしれない日のために情報や知識を得ておくことは有用でしょう。
20年前にはグッズはおろか、情報さえあまりありませんでしたが、今では先輩飼い主さんたちが試行錯誤した中で残してくれた工夫や情報があれこれあります。そして、動物病院における高齢動物の診療も進歩し、介護分野のサービスも増えてきました。
そうしたものを活用し、一生懸命になり過ぎず、飼い主さんご自身のお体も労りつつ介護の日々をお過ごしください。どうぞ少しでも穏やかな日々が続きますようにと願います。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。