老犬の負担が少ないシャンプーのやり方とは?適切な頻度まで解説
体が思うように動かなくなり、我慢もきかなくなってくる老犬では、お手入れやシャンプーが難しくなってきます。
しかし、少しでも健康を保つために、無理のない範囲で最低限のお手入れはしたいものですが、それには「時短」と「部分ケア」がキーワードになります。この記事では、そのポイントをご紹介しましょう。
体が思うように動かなくなり、我慢もきかなくなってくる老犬では、お手入れやシャンプーが難しくなってきます。
しかし、少しでも健康を保つために、無理のない範囲で最低限のお手入れはしたいものですが、それには「時短」と「部分ケア」がキーワードになります。この記事では、そのポイントをご紹介しましょう。
目次
犬も加齢するにしたがい、徐々に体が思うようには動かなくなってくるのに加え、疲れやすくもなり、我慢もきかなくなってきます。また、多くの老犬が関節炎を患っており、多少なりとも痛みを感じていることもあるでしょう。
つまりは、お手入れすること自体が老犬にとっては負担になってしまうのです。しかし一方で、食事時の食べ汚しや排泄の粗相など汚れがちなのが老犬でもあります。
汚れをそのままにすれば、やがては皮膚炎のような病気につながるリスクもあり、できるだけ清潔を保ちたいものの、なるべく負担はかけたくない。この狭間で悩むのが老犬のお手入れ・日常のケアです。
そこで、このような老犬のお手入れを考える時は、「時短」と「部分ケア」が大きなキーワードになるというわけです。
老犬のお手入れで配慮したい4つのポイント
では、続けて具体的に見ていきましょう。
たとえば、老犬になるとブラッシングやシャンプーの間、立っていられずに座り込んだり、伏せてしまったりすることがあります。こうなると無理にずっと立たせているのは酷です。
愛犬が寝ているほうが楽なら、それでもかまいません。寝たままブラッシングをする、できるところだけブラッシングをする、座ったままでもシャンプーをするなど負担を軽減してあげましょう。
特に長毛犬は被毛が長い分、手間もかかり、汚れやすくもあるので、場合によっては必要な個所を短めにカットするのもいいでしょう。カット犬種であるなら、シニア期になってからは短めのペットカットがおすすめです。
また、お尻周りの毛が密な犬では、肛門の周囲やしっぽの付け根の下側、内股などの毛を短く刈ることで排泄による汚れ防止にもなり、ケアの手間が軽減できます。
シャンプーはドライングまで時間がかかり、なかなか疲れる作業です。こと介助が必要な老犬や寝たきりの老犬ではシャンプーをするだけでもたいへんで、体力を奪ってしまうことも。必然的に、シャンプーの頻度は減っていくでしょう。
洗うことが難しなるからこそ、汚れは早めに、こまめに落としましょう。
たとえば、
■毎日、蒸しタオルで全身を拭く
■食事後の口周りや胸の毛の汚れは、すぐにタオルやウェットティッシュで拭く
などして清潔を保つことをおすすめします。
特に老犬では涙の分泌量も減ることから目やにが出やすいのに加え、犬歯があたる下唇の部分の毛が赤くやけてくることもあるので、取りにくくなる前にさっと拭いてしまいましょう。
しかし、どうしても汚れを落としたい状況になることがあります。そんな時には、
■水のいらないシャンプー
■洗浄成分がしみ込んだペット用シャンプータオル
などを使用して、汚れた部分だけを綺麗にするのがもっとも負担のかからない方法です。ただし、シャンプー剤が皮膚に残った場合、肌の弱い犬ではかぶれたりすることもあるので、泡は落とし残しがないようにし、使用後は皮膚の様子を観察してください。
そうは言ってもしっかり洗いたいという時もあるでしょう。
特に、寝たきりの老犬ではお尻周りが尿や便で汚れることはよくあります。
そのような時は、まず、愛犬のお尻周りを中心に大きめのトイレシートを敷き、念のため、その上にもう一枚、通常のトイレシートを重ねて敷きます。
用意するのは、次のどちらか。
■先の細い空のドレッシングボトルにぬるま湯を入れ、シャンプー液を極少量溶かした
もの
■ペット用のお尻周り専用洗浄液
上記のいずれかを汚れた部分に少しずつかけながら汚れを落としていきます。
その後、タオルで水分を取った後、ドライヤーで乾かします。
さらにもう少し本格的に洗いたい場合は、すのこを利用して洗う方法もあります(特に中型~大型犬)。
すのこの上に愛犬を横たわらせ、頭部にあたるほうのすのこの下にレンガや厚めのお風呂マットのようなものを置き、少し斜めになるようにします。この時、あまり角度があり過ぎると犬がずり落ちそうになることがあるので、角度は調整してください。
この状態で洗いたい部分を手早くシャンプーします。余分なお湯や洗い落とした泡はすのこの隙間から流れ落ちますが、それでも体の下に入り込んでしまった場合は体を浮かせたり、反転させたりする必要があり、いずれにしても手助けしてくれる人がもう一人必要になるでしょう。
犬は寝ている状態なわけですから、耳や目、口の中などにシャンプーやお湯が入らないようにお気をつけください。
洗い終わった後はタオルで水分をしっかり拭き取り、ドライヤーで手早く乾かします。
しかし、愛犬の体調をよく観察し、くれぐれも無理はしませんようご注意ください。
なお、同製品にはマットタイプもあります
⇒クイックドライマット(犬猫用吸水マット)|シャンプー・バス用品
寝たきりではなく、介助があれば歩ける老犬でもやはり部分洗いがおすすめです。
脚がふらつく分、深めのバスタブのような中で洗うほうが多少なりとも落ち着くかもしれません。もちろん、時短を心がける他、以下のような点にも気をつけたいものです。
■洗い場の床が滑らないように対策を
シャンプーの泡で浴室の床やバスタブの中、洗面台の底など滑りやすくなります。足腰が弱っている老犬では余計に滑りやすく、負担がかかってしまうので、お風呂マットや滑り止めマットを敷くといいでしょう。
■気温と、洗い場の換気に注意
喘息のある方はおわかりかと思いますが、温度や湿度の急な変化で咳が止まらなくなったり、呼吸が苦しくなったりすることがあります。それはすなわち心臓にも負担をかけます。特に、呼吸器疾患や心臓疾患をもっている老犬では、シャンプーする時の気温やお風呂場の温度・湿度、お湯の温度などにも気を配りましょう。
中にはシャンプーを泡立ててごしごし洗うのは難しい、関節痛があるので脚を温めてあげたいといった老犬もいることでしょう。
そのような時は、ペット用の入浴剤を入れたお湯に浸からせる方法もあります。
バスタブやタライなどにぬるめのお湯を入れて入浴剤を適量溶かし、犬をその中に浸からせます。手でお湯をすくって犬の体にかけながら数分浸からせた後、シャワーで軽くすすぎ、ドライヤーで乾かします。
全身が濡れるとそれだけドライヤーにも時間がかかりますし、その辺は適宜調整してください。
さて、ここまで主にブラッシングやシャンプーに着目して見てきましたが、もちろんその他のグルーミングも無視できません。
特に、寝たきりの老犬では体の下側になるほうの耳はマットやベッドと接触しやすいため通気が悪くなりがちなので、時々は耳のチェックをするとともにお手入れをしましょう。また、歩くことが少なくなった(歩かなくなった)老犬は爪も伸びやすいので、様子を見て爪切りもお忘れなく。
さらに忘れたくないのが歯やお口のお手入れです。犬も高齢になると代謝機能が低下し、唾液の分泌量が減ってきます。唾液には自浄作用もあり、それが減ることで歯垢・歯石がよりつきやすくなるのです。
加えて、老犬は飲水量が減り、口の中が渇きやすくもあります。また、飲み込む力も低下しており、つまりは口の機能全体が低下しているわけです。こうなると誤嚥のリスクも高まってきます。
このような老犬ではついてしまった歯石を落とすのは難しいとしても、せめてそれ以上の歯石がつかないよう、かつ少しでも潤いのある口腔環境を維持できるよう歯やお口のケアもしたいものですが、それには以下のような方法があります。
■寝たきりの老犬の場合、まず、口の下にペットシーツを敷き、先の細い空のドレッシ ングボトルにぬるま湯を入れて、少しずつ歯や口の中にかけて汚れを落としていく
■人間の介護用でも使われるスポンジ歯ブラシを濡らし、軽く絞ってから、歯や口の中
を優しく吹いていく
■指に巻いたガーゼ濡らし、歯や口の中を拭く
もちろん犬用の歯ブラシやペーストを使うのでもかまいませんが、いずれであっても水分やペーストなどで誤嚥を起こさないよう注意してください。また、老犬では口を開けること自体が難しいケースもあるので、決して無理はしませんように。
*歯周病菌は血流に乗って心臓病や腎臓病など他の病気に悪影響を与えることが知られています。老犬ではこのような持病のある犬が多くなるため、若い頃から歯のケアをしておくことがシニア期の健康維持につながります。
最後に。介助が必要になったり、寝たきりになったりすれば、お手入れ・ケアに手間がかかり、忙しい時や疲れた時などついイラつくこともあるかもしれません。
しかし、それは自然な反応です。きっちりやらなければと思わず、2日に1回でいいものは数を減らすなど、良い意味での手抜きをし、どうぞ飼い主さんご自身の体や気持ちにもご自愛ください。
1つおすすめしたいことがあるとすれば、お手入れの時々に思いに任せ、愛犬の毛やヒゲ、爪などを取っておくこと。
中には、何も残しておかなかったと後悔する飼い主さんも少なからずいます。たった数本の毛であっても、いつかそれを手にとった時、愛犬への愛おしさとともに、一緒に暮らせた数々の想い出が蘇ることでしょう。
老犬との暮らしは、そんなことも考える濃密な時間の積み重ねです。どうぞご愛犬と少しでも穏やかな日々が過ごせますようにと願います。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。