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シニア猫だからこそ、元気でいて欲しい
健康寿命を延ばすために気をつけたいポイント:①室内環境編

シニア猫だからこそ、元気でいて欲しい健康寿命を延ばすために気をつけたいポイント:①室内環境編

猫の場合、一見して老化には気づきにくく、いつまでも若いように思いがちですが、13歳を目安にシニア期と理解して生活環境を整えることも大事です。生き物である以上、老化が進むのは仕方のないことだとしても、できれば少しでも元気でいて欲しいもの。そのためには居住空間や運動、食事、睡眠、病気…など気をつけたいことがあります。「シニア猫シリーズ」の第1回目となるこの記事では、室内環境にスポットをあてて、シニア猫と暮らす際の気をつけたいポイントをご紹介します。

目次

  1. 高い所や段差に配慮を

    • シニア猫の足腰が弱る主な理由
    • シニア猫にとっての運動の必要性
    • 高さや段差の調整
  2. シニア猫は体温調節が苦手、温度調節も忘れずに

  3. 滑りやすい床には滑り止め対策を

  4. シニア猫なりの爪とぎ

    • シニア猫だからこそ必要になる爪切り
    • シニア猫の爪とぎ
  5. 健康寿命に関係する室内環境

1.高い所や段差に配慮を

高い所や段差に配慮を

猫は高い所を好み、“縦運動”に長けた運動能力の高い動物ですが、やはりシニアになると足腰が弱ってきます。今までは上れた高さでも難しくなってくることがあるでしょう。

シニア猫の足腰が弱る主な理由

そもそも、足腰が弱る原因はどこにあるのでしょう? それには主に以下を挙げることができます。

①運動量の低下

シニアになると寝ていることが多くなり、若い頃に比べて運動量が減ることから筋肉量や関節の動きが低下しがちです。

②肥満

品種にもよりますが、シニア猫は肥満になる傾向があると言われます。重過ぎる体は関節に負担をかけ、益々動きにくくなってしまいます。

③関節炎をはじめとした病気・ケガによる痛みや不調

関節は軟骨や結合組織で構成されていますが、それらが加齢とともに変性し、スムーズな動きができなくなったり、損傷しやすくなったりします。

猫でも関節炎になるケースは多く、ある研究では6歳以上の猫の61%に少なくとも一つの関節炎(変形性関節症/osteoarthritis)があり、48%には一つ以上の関節炎があることを報告しています。同時に、加齢に伴い関節炎の有病率が増加するとしています(*1)

シニア猫にとっての運動の必要性

以上のように、シニアになるほど体を動かしづらくなるなら、なるべく足腰に負担をかけたくないと思うのが正直なところです。

しかし一方で、関節は使わずにいれば関節を支える筋肉も落ち、スムーズな動きができなくなってしまいます。また、肥満は関節のみならず、心臓病や糖尿病など他の病気にも影響を与えてしまうことがあるのはみなさんもご存知でしょう。

つまりは、シニア猫であっても少しでも良い状態を維持するためには、適度な運動が必要なのです。もう一つ、猫の習性として、体に痛みや不調がない限りはシニア猫であっても高い所に上りたがることがあると思います。おそらく彼らにとって安心できる場所でもあるのでしょう。

動物との暮らしは、可能な範囲で、その動物としての欲求を満たしてあげることも大事となります。要は、この「運動」と「欲求」を満たしながらも、体になるべく負担をかけないためには、猫が得意とする縦運動における高さや段差に配慮する必要があるというわけです。

高さや段差の調整

では、飼育(室内)環境の中で、シニア猫にとっての高さや段差を調整するには?

  • ソファのような段差のある場所にはペット用のスロープやステップ(階段)を置く
  • (猫にストレスでなければ)トイレの入り口はフラットなものに変える
  • キャットタワーは高さや段が低めのものに変える
  • タンスの上や梁に上っていたのであれば、上れないようにする   など

ただし、すでに関節炎があって症状が出ているシニア猫の場合は、負担がかかり過ぎると症状が悪化することがあるので、動物病院でご相談ください。

2.シニア猫は体温調節が苦手、温度調節も忘れずに

シニア猫は体温調節が苦手、温度調節も忘れずに

次に、猫の歴史を紐解けば中東に生息していたリビアヤマネコが祖先と言われ、猫は暑さに強いとイメージする人が多いかもしれませんが、シニアともなれば体温調節がしづらくなり、室内温度にも気配りが必要になります。

エアコンを使用する場合、夏は26~28℃、冬は24~26℃程度で大丈夫でしょう。湿度は夏冬ともに60%程度が目安です。夏はエアコンの風が直接猫にあたらないよう、扇風機を併用して空気を撹拌するといいでしょう(猫が扇風機をいたずらしないよう注意)。

ただし、当の猫にとっては暑過ぎる、寒過ぎるということもあるので、袋状のベッドや隣の部屋などどこか逃げられるスペースを作っておくことをおすすめします。
特に関節炎を患っているようなシニア猫では、冷えによって痛みが出たり、症状が悪化したりすることもあるので、冷え過ぎにはお気をつけください。

また、シニア猫は熱中症になりやすい傾向にありますが、暑くても動くのが億劫で同じ場所にい続けることがあるかもしれません。こたつや電気カーペットも同じ場所で寝続ければ低温火傷の危険性があります。時々は猫の様子を観察し、温度調整をするなり、場所を移動させるなり対処しましょう。

こと心臓病や呼吸器疾患などの持病があるシニア猫や、短吻種、長毛種、肥満の猫などはよりリスクが高くなるのでご注意ください。

3.滑りやすい床には滑り止め対策を

次は床のお話をしましょう。
いくら運動能力の高い猫であっても床が滑りやすいと関節に負担をかけてしまいます。

特に、足裏の毛が長い猫や足裏が乾燥している猫、足裏保護用クリームを塗った直後などは滑りやすくなります。若い頃は対処できていたとしても、関節への負担は年を重ねるごとに積み重なり、シニア期になって関節炎を発症することも珍しくありません。

すでに関節炎があるシニア猫では症状が悪化するリスクがあります。
したがって、シニア猫に限らず、床が滑りやすいのであれば、滑り止め対策することをお勧めします。たとえば…、

ジョイント式のマットを敷く

汚れたところのみ交換ができるのはメリットですが、部分的に敷いた場合、多少なりとも端には段差ができます。

部屋全体にカーペットを敷く

統一感は出ますが、部分洗いはしにくく、費用もやや高め。毛足の長いカーペットでは猫の爪が引っかかることがあるので、短めのものがお勧めです。

ペットに安全な滑り止めワックスを塗る

定期的に塗り直す手間はかかります。

滑りにくい床にリフォームする

効果が高い反面、もっとも費用がかかります。近年では滑り止め効果のみならず、汚れやひっかき傷を防止する機能も併せもつペットに適した床材も販売されています。中には、今ある床に貼り付けるタイプの床材もあります。

いずれも一長一短ありますが、自分の生活環境と経済状況に応じて選ぶといいでしょう。

4.シニア猫なりの爪とぎ

シニア猫なりの爪とぎ

最後に、室内環境と直接的には関係ありませんが、爪とぎのお話をしておきましょう。

シニア猫だからこそ必要になる爪切り

通常、猫は習性的に爪とぎをしますが、シニア猫の場合、動くのが面倒になったり、身体機能が低下したり、または関節炎をはじめとした病気などのために爪とぎをすることが少なくなってきます。

そのままにしておくと爪は伸び続け、肉球にめり込んでしまうことも…。そうなると猫は不快どころか痛みを感じることになるでしょう。加えて、シニア猫の爪は分厚くなりがちです。

そのため、飼い主さんがこまめに爪切りをしてあげなければなりません。目安として2週間に1回程度は爪を確認するようにし、伸びているなら切るようにしましょう。
猫が暴れてうまく切れない場合には、無理せずに動物病院で切ってもらってください。

シニア猫の爪とぎ

併せて、爪とぎのタイプを見直すことも必要になるかもしれません。
通常、猫の爪とぎを選ぶには、

  • 猫が爪とぎしやすい素材か
  • 安定性はあるか
  • サイズは猫に合うか
  • 耐久性はどうか
  • 猫が興味をもちやすいデザインか
  • 猫が好む場所に設置できるか、猫の好みに合うか

などがチェックポイントになります。

しかし、たとえば、ポール型や壁に貼り付けるタイプの爪とぎを使っており、かつ、当の猫には関節炎があった場合、爪とぎをする姿勢をとることが難しくなっていることも考えられます。 

そのような場合は、体にかかる負担を少しでも軽減し、爪とぎがしやすくなるよう、寝たままでも爪とぎできるタイプに変えるなどしてみるのも一つの考え方でしょう。
ただ、猫によって好みもあるでしょうから、愛猫の性格や好みを考慮してご判断ください。

5.健康寿命に関係する室内環境

人間の場合、室内環境(特に温度・湿度)は健康寿命に関係すると言われますが、それは猫でも同じでしょう。可愛い愛猫にいつまでも元気でいて欲しいと願うのであれば、今一度室内環境を見直してみることも必要です。

国内においては室内飼育が主となり、外の世界を自由に闊歩できない猫が多いわけですから、その分、室内の環境は整えてあげたいですね。

(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)

監修いただいたのは…

2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生

数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。

成城こばやし動物病院 獣医師 高柳 かれん先生

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