シニア猫だからこそ、元気でいて欲しい 健康寿命を延ばすために気をつけたいポイント:
②運動・遊び編
平均的に、猫は10歳を過ぎるとシニア期に入ると言われ、その頃から徐々にあまり運動しなくなり、遊びにも興味を示さなくなってきます。そのままでは運動不足になってしまいますが、体を動かさずにいると関節機能の低下や肥満、ストレスの蓄積などの問題につながることがあります。つまり、シニア猫であっても適度な運動や遊びは大切だということ。それには多少の工夫や気配りも必要になります。
平均的に、猫は10歳を過ぎるとシニア期に入ると言われ、その頃から徐々にあまり運動しなくなり、遊びにも興味を示さなくなってきます。そのままでは運動不足になってしまいますが、体を動かさずにいると関節機能の低下や肥満、ストレスの蓄積などの問題につながることがあります。つまり、シニア猫であっても適度な運動や遊びは大切だということ。それには多少の工夫や気配りも必要になります。
目次
猫の年齢を人間の年齢に換算すると、10歳は人間の53~56歳、13歳は人間の65~68歳、15歳では人間の73~76歳程度と考えられています。
人間では60代後半ともなると体のあちこちに健康トラブルが目立つようになる年代であり、体力の低下とともに体を動かす機会が減る傾向にあります。それを踏まえると、猫の13歳以降はシニアとしての配慮が必要であることをイメージしやすいのではないでしょうか。
猫でもだんだん年をとると無駄な動きをしなくなり、老いゆく貫禄を見せるが如く、じっと丸まって寝ていることが多くなります。その姿は、それはそれで可愛いものですが、肉体的・精神的刺激がない生活では、いろいろ支障が出てくることがあります。たとえば、以下のようなもの。
猫はしなやかで俊敏な動きに長けた動物です。そんな動きができるのも体の各関節がスムーズに動くからこそ。
しかし、運動不足になると関節の新陳代謝が鈍くなり、関節が硬くなってスムーズな動きができなくなってしまいます。結果的には関節の可動域も狭くなりがちです。場合によっては、関節が硬化することで痛みが生じることもあります。
関節を支えているのが筋肉です。十分な筋肉があることによって関節が動くわけですが、運動不足によって筋肉が落ちると、関節をうまく支えきれず、柔軟な動きがしづらくなってしまいます。
筋肉は体を動かす他、姿勢の維持や体温調整、血液の循環などにも関わるので、特にシニア猫では筋肉を維持することが重要となります。
シニア期になって運動量が少なくなったのに加え、これまでと同じ食事を与えていると肥満になるおそれがあります。
肥満は関節への負担の他、心臓病や呼吸器疾患、糖尿病、肝臓疾患などいろいろな病気に影響を与えてしまうことがあり、軽く見過ごすことはできません。
ことシニア猫は持病をもっていることが多いので、愛猫がシニア期に入ったなら、食事内容を見直す必要があるでしょう。
人間の高齢者の場合、身体機能の低下はストレス要因の一つになると言われます。猫も同じと言えるかはわかりませんが、若い頃に比べて体を動かしにくくなったことをストレスに感じているシニア猫もいるかもしれません。
また、若い頃とは違い、老齢になった猫はストレス耐性が低下しがちで、いろいろなことにストレスを感じやすくもなります。
できれば強いストレスを感じることなく穏やかなシニア期を過ごさせてあげたいものですが、それには運動が一役買いそうです。
プリンストン大学(アメリカ)のマウスを用いた研究では、身体活動をすることで脳が“再編成”され、ストレスから生じた不安による脳の正常な機能への阻害が起こりにくくなり、つまりはストレスに対する反応が低下するとしています(*1)。
そうであるならば、ストレスに対処するためにも運動は大事と言えるでしょう。
猫においても認知症は珍しいことではありません。
コーネル大学のコーネル猫健康センターによれば、認知症の行動兆候は10歳以上の猫ではっきり目立つ傾向にあるといいます(*2)。
たとえば、トイレ以外で排尿排便する、食べ物や遊びに対する関心の欠如、睡眠サイクルの変化、夜鳴き、ぼ~っとどこかを見つめ続ける、など。
認知症になるリスク因子としては、加齢や慢性疾患、肥満、遺伝などが挙げられますが、その他、運動不足や精神的刺激不足も認知症のリスクを高めると言われています。
運動量が減り、遊ぶことが少なくなるシニア猫だからこそ、認知症予防のためには体を動かせるような環境を作るとともに、1日に1回程度は遊ばせるようにしたいものです。
以上のことから、シニア猫であっても適度な運動や遊びといった肉体的刺激、そして精神的刺激が大切であることがおわかりいただけるでしょう。
次に、その具体例をいくつかご紹介します。
高いところに上りづらくなったシニア猫には、高さが低めのキャットタワーを使用することで体への負担を軽減しつつ、軽い運動を促すことができます。
たとえば、ごはんを食べさせる時、
など、猫が自然と体を動かすように仕向けるのも一つのアイデアです。
猫は隠れられるような狭いところや、そういう場所を探索するのが好きですが、高いところに上るのが難しくなったシニア猫には、トンネル状の遊び場を用意してあげるのもよいのではないでしょうか。
猫としての欲求を満たしつつ、穏やかな運動が可能になります。
トンネルの途中におもちゃや爪とぎがセットされているとなおよいでしょう。
猫が獲物を捕まえたかの如く、細長いおもちゃを前足で抱え込み、後ろ足でキックする姿はよく見ることができますが、シニア猫にとってはこれが後肢のよい運動になります。
積極的にこうしたおもちゃを取り入れるのもよいと思います。
一点、猫用のおもちゃの中にはマタタビ入りのものがありますが、マタタビは過剰摂取および心臓や神経系の病気がある場合など注意を要することもあるため、持病がある猫、シニア猫には与えないほうがよいでしょう。
中には、老化が進んでいたり、認知症があったりなど、知育玩具や一般的なおもちゃには反応しない猫もいると思います。
その場合は、マッサージやストレッチをして少しでも体を動かすようにするとよいでしょう。
手の平でゆっくりと首の後ろから背筋に沿って、肩から足先にかけてなど、猫の体全体を撫でるだけでもかまいません。
また、足先を優しくくるくる回す、前肢後肢をゆっくり伸ばしたり縮めたりする、指先で小さな円を描きながら猫の体を撫でるように指をずらしていく、などもおすすめです。
最後に、シニア猫の運動・遊びを考える時の注意点について一言。
以前よりあまり遊ばなくなった、高さのあるところ上れなくなった、寝ていることが多いなどシニア猫にありがちな様子が見られたとしても、それは加齢によるものとは限りません。
シニア猫によく見られる関節炎や心臓病、腎臓病、甲状腺機能亢進症、糖尿病、腫瘍など他の病気に起因する可能性もあるので、気になる場合には動物病院で診察を受けることをおすすめします。
また、シニア猫にとって長い時間の運動や遊びは負担になるため、1回の時間は短めにしましょう。
中には20歳近くまで遊びを楽しんでいた猫もいます。若い頃とは違う、おっとりした遊び方であってもシニア猫らしい可愛らしさがありますが、猫の健康とQOLに直結する運動・遊び。どうぞ愛猫らしい運動の仕方、遊び方を見つけてみてください。
【参照資料】
*1 PRINCETON UNIVERSITY, Exercise reorganizes the brain to be more resilient to stress *2 Cornell Feline Health Center, Cognitive Dysfunction
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。