シニア猫だからこそ、元気でいて欲しい 健康寿命を延ばすために気をつけたいポイント:
③睡眠編
睡眠には、一日体が働いた後の臓器および細胞の修復、脳の修復と機能維持、エネルギーの温存などの役目があり、動物が生きていくにはとても大切な体内システムです。それは人間でも猫でも同じこと。つまりは、睡眠の質が健康寿命に関係すると言っても過言ではないでしょう。シニア猫では寝る時間が長くなる傾向にあり、睡眠に変化が見られるようになります。そこでこの記事では、シニア猫の睡眠について知っておきたいポイントをお伝えします。
1.シニア猫の睡眠が変化する原因
もともと猫は「よく寝る」というイメージがありますが、高齢になるにつれ、寝ている時間がより長くなる傾向にあります。(寝る=ここでは寝ている状態、眠っている状態の両方を含みます)
その原因としては、主に以下のようなものが考えられます。
- 加齢
- シニアになると筋力や体力の低下とともに物事に対する興味も薄れ、活動量が減ることから、自ずと寝ていることが多くなります。
- 痛み
- シニア猫では関節炎がよく見られますが、このような痛みを伴う運動器疾患や歯周病などの病気、ケガによって寝ている時間が長くなることもあります。
- 体調不良
- 痛みと同様、腎臓疾患や心臓疾患、癌など何らかの病気によって体調不良となり、寝ている時間が増える場合もあります。
参考までに。イギリスの11歳以上の猫を対象にした加齢に伴う行動変化と病気の有病率に関する研究では、高齢の猫の行動変化として、「飼い主への愛情の増加」「鳴き声の増加(特に夜間)」「家を汚す」が多く、一方、病気では「歯科疾患」「慢性腎臓病」「関節炎」「甲状腺機能亢進症」が多かったそうです(*1)。
歯の病気では痛みが出ることがありますし、腎臓疾患では飲水量や飲む回数の増加、嘔吐、下痢、元気がなくなるなどの症状が見られます。また、関節炎は重度になるほど痛みを伴い、甲状腺機能亢進症の場合は症状の一つとして夜鳴きが出ることも。
このようにシニア猫に睡眠時間の増加をはじめ、行動に何らかの変化が見られたとしても、それは加齢に伴うものばかりでなく、病気やケガなど他の原因が隠れている場合もあることは考慮すべき点です。
2.猫の睡眠スタイル
さて、「高齢になって寝ている時間が増えた」とは言っても、そもそも猫はどのくらい寝るものなのでしょうか?
ここで猫の睡眠スタイルを見てみましょう。
猫にも24時間の周期性がある
人間は一日24時間を基本に生活をしていますが、猫でも行動や摂食のリズムに24時間の周期性があることがわかっています(*2)。
これは他の多くの生き物と同様、地球の自転や太陽の存在に合わせた自然なサイクルなのでしょう。
猫の活動が活発になるのは明け方と夕方
一般的に猫は夜行性と言われますが、中でも明け方と夕方に活動性が高まり、実際は薄明薄暮性の動物です(*2)。
こうした活動スタイルは、おそらく獲物となる動物(例:ネズミ、鳥)の活動時間と関係するのではないかと考えられています。
ただ、個体によっては日中に活発になる猫や、夜間に活発になる猫もおり、イエネコにおいては飼い主となる人間の生活サイクルが大きく影響しているようです。
シニア猫は一日20時間近く寝ることも
猫の睡眠時間は12~18時間程度で、平均的には15時間前後。
シニア猫では子猫並みに20時間近く寝ることもあります。
猫にもレム睡眠とノンレム睡眠がある
哺乳類や鳥類の睡眠(眠っている状態)には、レム睡眠(Rapid Eye Movement Sleep / REM Sleep)とノンレム睡眠(Non- Rapid Eye Movement Sleep / Non- REM Sleep)があることが知られています。
レム睡眠は急速眼球運動(眼球がくるくる動くこと)を伴い、言ってみれば体は眠っていても脳は起きている状態で、夢を見るのがこのレム睡眠のステージとされます。
一方、ノンレム睡眠は急速眼球運動を伴わず、脳も休息に入り、深く眠った状態を指します。このノンレム睡眠は眠りの深さにより、いくつかのステージに分かれ、それぞれを徐波睡眠と呼びます。
猫でも、レム睡眠、ノンレム睡眠、および徐波睡眠があることがわかっています(*4)。ということは、猫も夢を見ることがあるのかもしれません。
猫はおよそ104分ごとに睡眠を繰り返す
睡眠と言っても猫はずっと眠っているわけではなく、実際は睡眠と覚醒を何回か繰り返しながら眠り続けています。
猫の睡眠・覚醒サイクルの研究によると、猫は平均的に104分のサイクルで睡眠を繰り返し、このうち79分が睡眠にあたり、残りは覚醒状態だったそうです(*5)。
本来、ハンターである猫にとって、いち早く獲物に気づき、かつ自分の身を守るためには必要な睡眠サイクルだったのでしょう。
シニア猫ではノンレム睡眠(深い眠り)が長くなる
シニア猫では寝る時間が増えますが、若猫(2~4歳)とシニア猫(10~11歳)の睡眠を比較した研究では、シニア猫は束の間目覚めることが多く、レム睡眠が少なくなる一方で、ノンレム睡眠は増えたそうです(*6)。
つまり、ぐっすり眠っている時間が増えるわけです。
3.シニア猫の睡眠の質を整えるには
以上、ざっと猫の睡眠スタイルについて見てきましたが、では、シニア猫の睡眠の質を整え、健康寿命にもプラスになるようにするにはどんなところに気をつけたらいいのでしょうか?
猫にとって心地よいベッドを
寝る時間が長くなるシニア猫ですから、ベッドは保温性(冬)や通気性(夏)に優れた快適なものを用意しましょう。
基本的に猫はふわふわで柔らかいものや、狭いところに入ることを好むので、体がすっぽり収まるようなベッドは理想的ですが、関節炎があって痛みが出ている、多少の介護が必要というようなシニア猫では、高さがなく、かつ体圧分散ができるマット状のベッドがおすすめです。
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顎を乗せられるベーグル型、潜る込める布団型、そしてマット型と季節や猫の好みで形を変えることが可能。丸洗いができるので、清潔を保てます。
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このクッションはU字型、片側を枕のように高くする、中央を凹ませるなど猫が寝やすい形に調整することが可能です。内側は特殊チップとポリエステル綿の二層構造。特殊チップが柔らかく絡まり合うことで形状を保持します。
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体圧を分散して床ずれを予防。低反発と高反発の二層構造になっており、沈み過ぎによる底つきを防止します。
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猫が寝る場所には安全対策を
中にはベッドよりもソファの上や出窓の床板などを好んで寝るシニア猫もいることでしょう。
このような場合、シニア猫では体力・筋力が低下し、反応も鈍くなっていることから落下の恐れもあるので、猫が寝る場所はできるだけ広さを確保するとともに、寝場所は低めに設定し、ステップやマット、クッションなどを用いてケガの防止をするといいでしょう。
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各ステップには十分な広さを確保して降りる時にも安心な設計となっており、表面には滑りにくいワッフル生地を採用しています。
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表面には滑り止めとなるPVC(ポリ塩化ビニル)製メッシュ付き。スロープとステップがセットになっており、スロープはトイレの入り口に設置することも可能です。
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人間の足腰疲労軽減マットを猫向けに転用。弾力があり、ジャンプや落下の衝撃を吸収します。完全防水加工で水洗いが可能です。
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温度・湿度管理も忘れずに
シニア猫は体温調節がしづらくなってきます。
たとえば、狭いところに入り込んで眠っている場合、エアコンの死角となって暑くなり過ぎている、逆に冷え過ぎているということも考えられます。
また、猫が暑い、もしくは寒いと感じた時に逃げられる場所があるかも忘れたくないポイントです。
要注意なのは冬季に炬燵の中で寝る猫です。ずっと入りっぱなしであると熱中症になる危険もあるので、時々様子を確認して、長く入っているようなら炬燵から出したほうが無難でしょう。
参考までに、人間の場合、室内気温が低過ぎると寝つきが悪く、睡眠の途中で目を覚ましやすくなる他、湿度が低過ぎれば呼吸器疾患の症状が出て眠りにくくなると言われます(*7)。このように室内の温度や湿度は睡眠に影響するので、猫でもより穏やかな睡眠がとれるよう温度・湿度にも配慮しましょう。
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素材は厚手のフェルト。猫が好むドーム型で使用する他、天井を押し込んでかご型にすることもできます。
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猫が安心できる環境を
猫も高齢になるとストレスに対して弱くなりがちです。
来客や大きな音、初めての物、新しい仲間、リホーム、引っ越しなどストレスの要因となり得るものはいろいろありますが、来客とは接しない場所に寝場所を作るなど、極力余計なストレスがかからないよう、静かで安心できる環境を整えることも睡眠には大事です。
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1階部分は適度な暗さのある隠れ家仕様になっており、2階はふわふわのハンモックベッドになっています。座面は爪とぎができる麻生地を使用。使わない時にはコンパクトに折りたたみが可能です。
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光の調整
寝る時に部屋があまり明る過ぎるとなかなか寝つけないのは多くの人が経験することではないでしょうか。
基本的に、猫は薄明薄暮性の動物であり、暗い場所でものがよく見える眼の構造をしていますが、逆に言えば、それだけ光に敏感であるということ。
もしかしたら、猫も明る過ぎて眠れないということもあるかもしれません。そのような時は部屋の灯りを消し、暗くしてみるのも一案です。
また、日光を浴びることで神経伝達物質であるセロトニンが分泌され、さらにセロトニンの分泌によって別名“睡眠ホルモン”と呼ばれるメラトニンが作り出されます。
メラトニンの作用によって夜の眠りも深くなると言われているので、日向ぼっこが好きな猫のこと、積極的に日光浴をさせるのもいいでしょう。
ただし、日光は場合によって皮膚癌や白内障などの問題を引き起こすこともあるため、長時間の日光浴は避ける、ガラス越しに日光浴をするなどしたほうがよさそうです。
よく寝ているのは加齢のせいと短絡的に考えない
冒頭でも述べましたが、シニア猫の寝ている時間が増える原因には病気やケガなどが隠れている場合もあります。
口臭が強い、よだれが多い、トイレを失敗する、睡眠時の呼吸が速い、飲水量に変化がある、歩き方がおかしい、怒りっぽくなった、隠れたように寝ているなど、少しでも気になる様子が見られた場合には、早めに動物病院に行くことをおすすめします。
加齢とは違う原因があるならば、それを少しでも改善または取り除くことで、より穏やかな睡眠がとれるようになるはずですから。
4.最後に、猫の睡眠を邪魔しないことも大切
さて、最後に一言。誰しも眠っている時に邪魔をされるのは嫌なものです。
フランスには『余計なことをして、むしろ災いが起きる』を意味する「眠っている猫を起こすな(ne re´veille pas le chat endormi ⁄ don’t wake up the sleeping cat)』という諺があるそうです。
災いとは言わずとも、猫でも気持ちよく眠っていたところを起こされては猫パンチくらい出したくなるでしょう。そんな冗談はともかく、睡眠には脳や体の休息・修復、エネルギー温存など大事な役割があるので、理由がない限りは無理に起こさず、そっと眠らせてあげたいものです。
いろいろ変化が起こるシニア期だからこそ、ご愛猫が少しでも穏やかな睡眠がとれますようにと願います。
【参照資料】
*1 Sordo L, Breheny C, Halls V, Cotter A, T?rnqvist-Johnsen C, Caney SMA, Gunn-Moore DA. Prevalence of Disease and Age-Related Behavioural Changes in Cats: Past and Present. Vet Sci. 2020 Jul 6;7(3):85. doi: 10.3390⁄vetsci7030085. PMID: 32640581; PMCID: PMC7557453. *2 Parker, M., Lamoureux, S., Challet, E. et al. Daily rhythms in food intake and locomotor activity in a colony of domestic cats. Anim Biotelemetry 7, 25 (2019). *3 E.A. Lucas, M.B. Sterman, The polycyclic sleep-wake cycle in the cat: Effects produced by sensorimotor rhythm conditioning, Experimental Neurology, Volume 42, Issue 2, 1974, Pages 347-368, ISSN 0014-4886, *4 Reidun Ursin, Sleep stage relations within the sleep cycles of the cat, Brain Research, Volume 20, Issue 1, 1970, Pages 91-97, ISSN 0006-8993, *5 PE.A. Lucas, M.B. Sterman, The polycyclic sleep-wake cycle in the cat: Effects produced by sensorimotor rhythm conditioning, Experimental Neurology, Volume 42, Issue 2, 1974, Pages 347-368, ISSN 0014-4886, *6 S.Scott Bowersox, Theodore L Baker, William C Dement, Sleep-wakefulness patterns in the aged cat, Electroencephalography and Clinical Neurophysiology, Volume 58, Issue 3, 1984, Pages 240-252, ISSN 0013-4694, *7 NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター「温度、湿度と睡眠」
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。