シニア猫だからこそ、元気でいて欲しい
健康寿命を延ばすために気をつけたいポイント:④食事(ごはん)編
人間でも猫でも生きていけるのは食べ物を摂取するからこそ。食事は体をつくり、病気を予防もすれば、体を回復もさせ、時には癒しにさえなります。シニア期にはその食事にも変化が出てくるので、愛猫に少しでも健康でいてもらうためには、シニア猫の食事のポイントも抑えておきましょう。
人間でも猫でも生きていけるのは食べ物を摂取するからこそ。食事は体をつくり、病気を予防もすれば、体を回復もさせ、時には癒しにさえなります。シニア期にはその食事にも変化が出てくるので、愛猫に少しでも健康でいてもらうためには、シニア猫の食事のポイントも抑えておきましょう。
猫もシニア期になるといろいろな変化が見られるようになりますが、食事もその一つです。どんな変化が見られるかというと、例えば以下のようなもの。
活動量が低下し、必要とするエネルギー量が少なくなるため、自ずと食事量は減る傾向にあります。また、消化機能も低下することから食欲がわかずに食事量が減ることもあります。
認知症や甲状腺機能亢進症、糖尿病などによって食欲が増すことがあります。
もともと猫は食事にムラが出やすいですが、シニアになるとそれが増す場合があります。嗅覚や味覚の低下によって食欲がわかないこともあるでしょう。また、何らかの病気が隠れている可能性も考えられます。
シニアになると嚥下機能が低下し、食べ物をうまく飲み込めないことがあります。
1~2回程度ごはんを食べずとも、元気があって他に気になるようなところがなければ大丈夫とは思いますが、それが続くようであれば何らかの異常があるのかもしれません。
以上を踏まえて、次にシニア猫に向く食事について考えてみましょう。
体力、筋力、気力、体の機能などあれこれ低下してくるシニア猫では、次のようなことをポイントに食事を考えるといいでしょう。
筋肉は関節を支えて身体を動かすのみならず(骨格筋)、姿勢の維持、体温調整、血液の循環(心筋)などにも関わり、重要な働きを担っています。したがって、特に筋肉量が低下するシニア期では筋肉を維持することが大事となります。
その筋肉をつくるにはタンパク質が必要となるため、良質なタンパク質を与えるようにしましょう。参考までに。「ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則」では、犬猫のペットフードについて、使用量の多い順に原材料名を記載することとしています(*1)。
キャットフードを使用している場合、肉食動物の猫ですから、原材料名の最初または上位に「チキン」「ターキー」「サーモン」など肉・魚肉類が記載されているものがいいでしょう。「ミートミール」のように表記されているものは、実際には何の肉なのかわからないので、避けたほうが無難です。
なお、シニア猫には高タンパク質がいいのか、低タンパク質がいいのかとよく耳にしますが、アメリカ動物病院協会によると、「健康な熟年期の猫およびシニア猫は、タンパク質を制限するべきではない。ドライフードのタンパク質は30%~45%が推奨される」としています(*2)。
ただし、慢性腎臓病がある猫ではこの限りではありません。この病気ではタンパク質が作り出す老廃物をうまく処理できないため、タンパク質の摂取制限が必要になります。
シニア猫は消化機能が低下してくるので、ドライフードであればふやかして与える、茹でた肉や魚なら細かくほぐすなど、消化のよい食べ物を与えるようにしましょう。
また、消化機能の低下から便秘になることもあり、そのようなシニア猫では食物繊維を少し増やした食事で便秘改善を。
シニアになると水を飲む意識が低下する上に、時に関節炎の痛みで水飲み場まで行くことが難しい、移動するのが億劫などの理由も加わって水分摂取量が減る傾向にあります。
体の水分は10%が失われると意識障害を起こし、15%失うと死に至ると言われますし、腎臓疾患がある場合では、水分不足になると症状が悪化することもあります。
それだけ水分は生命にとって大切なものですが、猫はもともと水分を摂る意識が低い動物と言われるので、特に水分摂取量が減るシニア期では積極的に水分を摂らせたいものです。
その一策としてドライフードをふやかす、ウェットタイプのキャットフードを使う、ごはんにスープをかける、水分量の多いおやつを与えるなどして水分量を少しでも増やすようにするといいでしょう。
その他、水飲み場を1~2ヶ所増やすのもいいと思います。
参考までに。アメリカ動物病院協会では、猫の飲水における要素として、「新鮮さ」「味」「(水の)動き」「容器の形」を挙げています(*2)。
シニア猫では関節炎を患っていることが多いので、関節をサポートするグルコサミンやコンドロイチン、オメガ3脂肪酸などは積極的に摂り入れたい成分です。
猫には腎臓疾患が多いことが知られていますが、シニア猫ではそのリスクが高くなるので、塩分やリンは摂り過ぎないようにしたほうがいいでしょう。
一般的に、シニア猫には低カロリー食がすすめられていますが、一概にそうとも言いきれません。
たとえば、7~10歳のシニア期の入り口または手前にいる猫では、運動量が減ったとしても食欲に問題がない場合、それまでと同じ食事では肥満になるリスクがあります。このような猫では低カロリー食が向くでしょう。
しかし、11~12歳以降のシニア猫では食が細くなり、痩せる猫が目立つようになります。もし少量しか食べられないのであれば、逆に少しでも栄養が摂れるよう、カロリーがやや高めの食事のほうが向いています。
または、キャットフードを使用しているのであれば、指定の給餌量より多くして、こまめに食事を与えるのがいいでしょう。
ただし、腎臓疾患や肝臓疾患など持病があって食事コントロールが必要な猫や、愛猫がどのステージにいるのか、どんな食事を与えたらいいのかわからない場合は、かかりつけの動物病院で獣医師にご相談ください。
一日に必要とするエネルギー量の求め方にはいくつかありますが、いずれも目安であって、個体差があることは言うまでもありません。以下はその代表的な例です。愛猫の様子を見ながら適宜調整してください。
① 一日に必要なカロリー/kcal = シニア猫(~11歳程度) 体重kg×60kcal
一日に必要なカロリー/kcal = ハイシニア猫 体重kg×40kcal
② 一日に必要なカロリー(DER)/kcal =
安静時に必要なカロリー(RER)/kcal×活動係数
この場合、DERを求めるには、先にRERを計算する必要があります。安静時に必要なカロリーとは、気温も含めたちょうどよい環境下で運動などはせず、安静に過ごす状態で必要とするカロリーのこと。RERは以下の計算式で求められます。
安静時に必要なカロリー(RER)/kcal = 70×体重kg0.75
または = 体重kg×30+70
活動係数については成長期から高齢期、または病気や高齢などで安静が必要な状態までステージごとに割り当てられた数値で、シニア猫の係数は概ね「1.1」となります。
以上の計算から一日の食事量を求めることもできます。
一日の食事量g = DER÷フード100gあたりのカロリーkcal×100
なお、アメリカ動物病院協会では、「10歳以上のシニア猫の場合は、RERに10~20%、もしくは25%の係数を掛ける必要がある」としています(*2)。
③ 計算するのが面倒だと思う場合、動物病院の中には病院のホームページ内に必要カロリーや食事量を自動計算できるページを設けているところもあるので、そうしたものを利用するのもいいでしょう。
続いて、食事の与え方にもシニア猫ならではの気配りが必要になります。
消化機能が低下してくるシニア猫では、それまで食事が一日1回だったのであれば、一日量を2~3回に分けて与えるなどして消化機能への負担を軽減しましょう。
足腰が弱ったシニア猫、または関節炎によって不具合や痛みが出ている猫では、食器の周囲が滑りやすいとうまく食べられないこともあるので、食器の周囲には滑り止めマットを敷くことをおすすめします。
シニア猫は食べ物を飲み込みづらくなることがあるので、愛猫を観察し、そのような様子が見られた場合には、軟らかい食事にする、食事の水分を増やす、フードをふやかす、小粒のドライフードに変えるなど工夫するといいでしょう。
場合によっては体に痛みや不具合があって、これまでの食器では食べづらくなっていることもあり得ます。そのような猫では食器の形状や傾き、食器を置く高さなど見直す必要も出てきます。
中にはごはんをあまり食べない、または食べなくなるケースもあります。
そのような場合は、好物をトッピングする、ごはんを少し温めて香り立ちをよくする、人肌程度のスープをかける、ドライフードをウェットタイプに切り替える、フードを変える、いくつかのフードをローテーションする、手作り食に替えるなどして様子を見てはいかがでしょうか。
人間でも食べ物の匂いで食欲が刺激されることがあるように、美味しそうな匂いにつられて食べるようになることがあります。たとえば、焼いた魚のような匂いが少し強いものがおすすめです。
または、手やスプーンを使って一口ずつ与えると食べる猫もいるので、試してみてください。なお、シニア猫がごはんを食べない場合、歯周病で歯肉が腫れている、口の中にできものがあるなど、歯や口の中のトラブルが原因になっていることもあります。普段から健康管理の一環として歯や口の中のチェックも怠らないようにしましょう。
その他、何らかの病気が食欲不振の原因になっていることもあるので、気になる場合には動物病院へ行くことをおすすめします。
最後に、食事の与え方の番外編として、知育玩具を使用する方法もあります。
知育玩具の中に食べ物を隠し、それを猫に探させるわけですが、この場合、運動不足やストレス解消の側面が大きくなります。
隠せる食べ物は固形物になる、総体的に食べ物の量は少なめになるなど限られる点はありますが、愛猫の運動不足やストレスが気になっているならば、遊びながらの食事を時々取り入れてみるのもいいのではないでしょうか。
以上、シニア猫の食事について見てきましたが、食事は毎日のこと、栄養が摂れて、愛猫が美味しそうに食べられるごはんと、その方法を見つけて少しでも元気なシニア期をお過ごしください。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室「ペットフード安全法に関するQ&A」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/petfood/qa.html#Q3-10 *2 American Animal Hospital Association (AAHA)「Mature Adult and Senior Cats」
https://www.aaha.org/aaha-guidelines/life-stage-feline-2021/nutrition-and-weight-management/mature-adult-and-senior-cats/ *3 公益社団法人 埼玉県獣医師会「水の飲み過ぎは病気のサインかもしれません!」
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。