シニア猫だからこそ、元気でいて欲しい
健康寿命を延ばすために気をつけたいポイント:⑤病気編
人間同様、猫も加齢するにつれてなりやすい病気があります。愛猫の健康長寿を願うのであれば、病気にならないのが一番ですが、いつなるかわからないのもこれまた病気です。飼い主さんとしてできることは、病気予防と早期発見早期治療。そのためにはシニア猫がなりやすい病気について知っておくことも大事でしょう。
人間同様、猫も加齢するにつれてなりやすい病気があります。愛猫の健康長寿を願うのであれば、病気にならないのが一番ですが、いつなるかわからないのもこれまた病気です。飼い主さんとしてできることは、病気予防と早期発見早期治療。そのためにはシニア猫がなりやすい病気について知っておくことも大事でしょう。
目次
シニア猫での発症が多い慢性腎臓病は、腎臓の機能が慢性的に障害を受ける病気です。
腎臓は血液中の老廃物のろ過や尿の生成、血圧の調整、体の水分量の調整、赤血球数のコントロール、血液中のイオンバランスの調整など重要な働きをしていますが、それがうまく働かなくなることで老廃物が血液中に残存してしまう他、血圧や体内水分量などに異常が生じ、全身症状が出るようになります。
症状に気づいた時にはすでに重症化していることが多く、秘かに進行する病気である点には注意が必要です。進行すると尿毒症を起こし、それがさらに進むと生命の維持が難しくなってしまいます。
慢性腎臓病では主に次のような症状が見られます。
急性腎臓病が慢性化して慢性腎臓病に至る場合や高齢化などが原因による腎機能の低下から慢性腎臓病に至ることがあります。
慢性腎臓病は4つのステージに分けられ、状態に応じた治療が必要になります。
残念ながら完治は望めず、基本的には血液中の老廃物や毒素を体外に出すための薬の他、脱水予防や老廃物排出のための点滴、血圧改善の薬、貧血には輸血や造血剤などが用いられます。
動物病院によっては血液透析や幹細胞療法を行っているところもあります。 併せて、食事療法やサプリメントなどによるケアを行います。
体は首や脚、腰などいろいろな関節で構成されていますが、そうした関節の軟骨および周辺組織がすり減る、引き裂かれるなどして変形してしまい、骨同士が持続的に直接擦り合うことで炎症が起きる関節疾患を変形性関節症と言います。
このうち、背骨が変形したものは変形性脊椎症と呼ばれます。
多くは中年期~高齢期に発症しますが、若年期でも発症することがあります。
ある研究では6歳以上の猫の61%が少なくとも一つの関節に、48%は複数の関節に変形性関節症があり、特に肩、肘、腰、足根関節で多く見られたとしています(*1)。
また、コーネル大学(アメリカ)のコーネル猫健康センター(Cornell Feline Health Center)によると、12歳以上の猫の90%が変形性関節症になっているという健康報告もあるそうです(*2)。
変形性関節症では主に次のような症状・様子が見られますが、初期の段階では症状らしいものが見られないこともあります。
原因としては以下のようなものが考えられますが、スコティッシュ・フォールドやシャムなどではこの病気のリスクがあるとされます。
状態により消炎鎮痛剤系の投与、体重コントロール、サプリメント、理学療法(マッサージ、レーザー療法、針灸、温浴)などが組み合わされますが、重度の場合は手術が必要になることもあります。
甲状腺とは喉の下部に位置する一対の腺組織のことを言います。甲状腺は細胞の新陳代謝に関わるホルモンを分泌していますが、そのホルモンが過剰に分泌されてしまうのが甲状腺機能亢進症です。
犬の場合は甲状腺機能低下症が多いのに対し、猫では逆の甲状腺機能亢進症が多いとされます。通常、中年期~高齢期で発症が見られます。
甲状腺ホルモンは活動性を上げる作用のあるホルモンなので、症状にもそのような様子が見られることがあります。
この病気は主に甲状腺にできた腫瘍や癌、過形成(細胞の増殖)などに起因します。
基本的には甲状腺ホルモンの産生を抑える薬や食事療法で治療を行いますが、状況によっては甲状腺の摘出手術が必要になることもあります。
また、甲状腺機能亢進症では慢性腎臓病や高血圧症、肥大型心筋症などを併発することがあり、その場合は併せてそれらの病気の治療も必要になります。
心筋とは心臓を動かす筋肉のことを指します。その心筋に異常が生じ、心臓の働きを悪くするのが心筋症です。
心筋症には「肥大型」「拡張型」「拘束型」の3つの型があり、猫で多く見られるのは「肥大型心筋症」になります。特に、メインクーンやラグドールなどでは遺伝的にリスクが高いとされています。
初期の段階では症状らしいものが見られませんが、進行するにつれて以下のような症状が見られるようになります。
最悪の場合、心臓の中の血液が固まり、血栓となって全身へ回ってしまい、血管の細い個所で詰まってしまうことから麻痺を起こしたり、突然死に至ったりすることもあります。
はっきりとした原因は解明できていませんが、「拡張型心筋症」の場合はタウリン不足が原因と言われます。
治療には状態により血管拡張剤や利尿剤、血栓の予防薬などが用いられます。その他、呼吸困難がある場合は酸素吸入が必要になり、血栓ができている場合は手術によって血栓を取り除くこともあります。
血液中の糖は脳が働くにはもちろんのこと、体のエネルギー源としてとても重要な栄養素です。
通常、血液中の糖の濃度は膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによってコントロールされています。たとえ濃度が上昇した場合であっても余分な糖は中性脂肪やグリコーゲンに変換されて脂肪細胞や筋肉細胞などに取り込まれ、体内が一定の糖濃度になるよう保たれているわけです。
ところが、インスリンがうまく分泌されない、またはうまく働かないことで血液中の糖が高濃度になってしまうことがあり、これを糖尿病と言います。
糖尿病には大きく2つのタイプ型があります。「1型」はインスリンの分泌自体ができないタイプの糖尿病で、「2型」は肥満やストレスなど何らかのきっかけによってインスリンがうまく働かなくなったことで起こる糖尿病ですが、猫では2型が多いと言われます。
猫の糖尿病では進行するにつれ、主に以下のような症状が見られます。
糖尿病で注意が必要なのは糖尿病性ケトアシドーシスや腎臓病、脂肪肝、白内障などの病気を併発する場合があることです。
ケトアシドーシスとは、糖尿病によりエネルギー源の糖が足りなくなることから、代わりに脂肪を分解する過程でケトン体という物質が産生され、体が酸性に傾く状態を言います。ケトアシドーシスが進行すると意識を失うなど生命にかかわる状態になってしまうことがあるので、糖尿病を放置せず、早めに対処することが望まれます。
糖尿病の原因としては以下のようなものが考えられます。
治療は状態によって食事療法や血糖値を下げる薬、インスリン注射などが組み合わされます。
併せて、体重コントロールも重要になります。肥満はインスリンを効きにくくしてしまう上、糖尿病のリスクを約4倍高めると言われるので、日頃から体重管理はしっかりしておきたいものです。
平均的に猫は1日に1~2回程度の排便をしますが(年齢や個体差によります)、便が3日以上出ない場合は便秘と言えるでしょう。
便秘を放置すると、最悪の場合は腸内に便が溜まり、腸が膨れて危険な状態になってしまうこともあります。
猫の便秘の症状には次のようなものがあります。便秘と聞くと便がまったく出ないイメージを抱くかもしれませんが、硬くてごく少量しか出ない場合も便秘と捉えることができます。
シニア猫の便秘の原因としては以下のようなものが考えられます。
治療が必要な便秘では状態によって整腸剤や便を軟らかくする薬、浣腸、便をかき出す処置などが組み合わされます。
併せて、食事・水分の見直しや適度な運動、マッサージ、ストレス回避などセルフケアも重要になります。また、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症、糖尿病などは脱水を起こして、その結果便秘になることがありますし、腸に腫瘍ができたり、毛玉を飲み込んだりすれば腸が詰まることもあります。こうした基礎疾患がある場合は、何よりその病気の治療が優先されます。
シニア猫では歯周病のリスクも高くなります。
前出のコーネル猫健康センターによれば、重度の腎臓病や糖尿病、自己免疫疾患などの全身疾患、そして猫カリシウィルスや猫白血病ウィルスのような感染症によって歯肉炎が起こることがあると言います(*3)。(注:歯周病とは歯肉炎と歯周炎の総称)
歯周病は歯周病菌が血流に乗って全身に回ることで心臓病や腎臓疾患、肝臓疾患など他の病気へ悪影響を与えてしまうことがあるので、シニア猫では特に気をつけたい病気の一つです。
その他、口の中に口内炎や、扁平上皮癌、線維肉腫のような腫瘍・癌ができることもあります。
歯周病を始めとした口の中のトラブルでは、主に次のような症状が見られます。
口の中のトラブルでは主に以下のような原因が考えられます。
歯周病の場合は基本的に歯垢・歯石の除去をし、状態によっては歯周組織の再生や抜歯などが必要になります。
腫瘍・癌の場合は状況によって摘出手術や放射線治療、抗がん剤治療、免疫療法、そしてQOLを維持しつつ痛みの軽減を目的とした緩和療法などの選択肢があります。
シニア猫になるとなるべくストレスをかけたくないという思いから動物病院に行く回数を減らしている飼い主さんもいるかもしれませんが、下の表のような症状や様子が見られた場合には受診することをお勧めします。
元来、猫は我慢強く、体に痛みや苦しさがあっても飼い主さんが気づきにくいことがあります。
しかし、病気はやはり早期発見早期治療が一番です。気づいた時には手遅れとならないよう、日頃から愛猫の体や様子は観察するようにしましょう。
そして少しでも健やかなシニア期をお過ごしください。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 L.I. Slingerland, H.A.W. Hazewinkel, B.P. Meij, Ph. Picavet, G. Voorhout, Cross-sectional study of the prevalence and clinical features of osteoarthritis in 100 cats, The Veterinary Journal, Volume 187, Issue 3, 2011, Pages 304-309, ISSN 1090-0233,
https://doi.org/10.1016/j.tvjl.2009.12.014
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090023309004900
*2 Cornell University College of Veterinary Medicine, Cornell Feline Health Center「Is Your Cat Slowing Down?」
https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/your-cat-slowing-down *3 Cornell University College of Veterinary Medicine, Cornell Feline Health Center「Feline Dental Disease」
https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/feline-dental-disease
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。