暑さも和らぎ過ごしやすい季節になりました。ワンちゃん達にも食欲の秋、運動の秋がやって来て益々活動的になる頃だと思います。 皆さんのお家のワンちゃんは元気に過ごしておられるでしょうか?もう夏バテでもないのになんだか元気が今一つだなぁと感じられることはありませんか?小さなサインを見落さないように、ここでは少し心臓の病気についてお話しようと思います。
心臓は片時も休む事なく全身に血液を送り続けるという大事な働きをしています。生きるために必要な栄養分や水分そして酸素を体の隅々まで届くように送り出すポンプの役割を担っているのです。皆さんもご自分の胸の中でドキドキと心臓が働いている様子を実感できるでしょう。このポンプに不具合が生じると、腎臓に、肝臓に、肺に、脳にと全身いたるところに悪影響が及びます。
心臓の中は左心房、左心室、右心房、右心室という四つの部屋に別れています。左心房と右心房の間は心房中隔、左心室と右心室の間は心室中隔と呼ばれる壁で仕切られています。左心房と左心室の間には僧帽弁、右心房と右心室の間には三尖弁と呼ばれる弁がそれぞれあって、心房から心室へと血液の流れを一方向にするように働いています。(※図1参照)
左心室からは大動脈という太い血管が伸びており、酸素をたくさん含んだきれいな血液を全身へと送り出す出口となっています。全身を巡って一働きした血液は酸素を消費して二酸化炭素を含み、大静脈を通って右心房へと返ってきます。右心房から右心室へ送られた汚れた血液は右心室から伸びる肺動脈を通って肺に送られ、肺で二酸化炭素を酸素と入れ替えてきれいにされ肺静脈を通って左心房へと戻って来ます。そして再び左心室へと送られ、全身に向かって送り出されるというサイクルを繰り返しているのです。
生まれた時から、心臓病をもっている場合を先天性と呼ぶのに対して、生まれた後にかかってしまった病気を後天性と呼びます。
犬で多く発症する後天性の心臓病には、僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症、拡張型心筋症、フィラリア症、心タンポナーデ、不整脈などが挙げられます。このうちフィラリア症はワンちゃんを飼っておられる皆さんならもう充分御存知のように、肺動脈や右心室・右心房に犬糸状虫と呼ばれる寄生虫が寄生することによって起こる病気ですが、きちんと予防薬を飲ませる事により確実に防ぐ事ができる病気です。
これに対して他の病気は、こうすれば絶対にかからないという予防法は残念ながらありません。ただ、比較的よく発生することが解っている病気に対しては、あらかじめそれを知って気をつけておく事で、より早期に発見する事ができるでしょう。そして適切な時期に治療を開始することで病気の進行をゆっくりと遅らせたり、症状を小さく抑えたりすることが可能です。
房室弁(僧帽弁と三尖弁)の閉鎖不全症は犬の心臓病の中で最も多く発生するもので、犬の心臓病全体に対しておよそ75%を占めています。特にマルチーズ、ポメラニアン、シーズー、チワワ、プードル、キャバリアなどの小型犬に多くみられます。年齢と共に房室弁が粘液腫様変性とよばれる変化を起こして弁の役割が充分果たせなくなり、心室から心房へと血液が逆流してしまう病気です。(※図2参照)
粘液腫様変性の60%は僧帽弁だけに起こりますが、30%は僧帽弁と三尖弁の両方に、10%は三尖弁だけに見つかっているとの統計が出ています。血液の逆流が起こった心臓を聴診すると心雑音が聞き取られますが、6~9歳齢で聴診によって病気がみつかることが多いものです。そして16歳以上の犬の75%がこの病気を持ってしまうようになります。
キャバリアは特別にこの病気に懸かる率が高く、より若い頃から発病して、病気の進行も速いという特徴があります。1歳齢という若い時期から見つかる事も少なくありませんし、2~3歳齢のキャバリアの約30%で血液の逆流が見つかったと報告されています。病気が進行すると逆流する血液の量が増し、咳が出始めたり、運動すると疲れやすくなったり、重症になると肺に水が溜まって(肺水腫)呼吸ができなくなってしまったりします。
早期に病気を発見するためには日頃の健康チェックの時にしっかりと聴診を受けることが大切です。