健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

犬の後天性心臓病

(2) 拡張型心筋症

 心筋症には肥大型、拡張型、拘束型などがありますが、このうち拡張型の心筋症が犬で多く発病します。
 拡張型心筋症は原因不明の心筋の異常によって心臓の収縮する力が弱まり、血液を充分に送り出せなくなってしまう病気です。心臓の内腔は風船のように拡張して見えます。(※図3参照)ドーベルマン、ボクサー、グレートデン、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー等の大型犬の雄に多くみられ、雄では雌の2倍以上の発病率が認められています。

 診断される時期は4~10歳齢が多いのですが、症状は重度になるまで見られず、発病していても病気が見つかるまでに長い期間が過ぎていることが多いものです。咳、呼吸の回数が多い、呼吸困難、失神、お腹に水が溜まる(腹水)、足先が冷たい等の症状が現れますが、不整脈が発生して突然死してしまう危険性が高い病気です。

(3) 心タンポナーデ

 心臓の外側にある心嚢膜と呼ばれる膜と心臓の間に、心嚢水と呼ばれる液体が多量に溜まって心臓の動きを損なっている状態を心タンポナーデと呼びます。発生の原因は特発性と呼ばれる炎症を主とするもの、著しい心房拡張によって心房が破裂したもの、心臓に発生した血管肉腫や悪性中皮腫などの腫瘍によるものなどがあります。
 心臓はポンプとしての動きを心嚢水によって邪魔されることにより、全身の血圧は低下して、歯茎や舌が蒼白に見えたり、足先が冷たい、体に力が入らず立ち上がるのも難しくなるといった重篤な症状がみられる事も少なくありません。そのような場合には心嚢水を抜く緊急処置が必要です。脈拍が弱く、胸に耳を当てて心臓の音を聴いてみると心嚢水によって遮られるため音は小さく鈍く感じられます。

(4) 不整脈

 心臓の拍動は右心房にある洞結節と呼ばれる場所から一定のリズムで信号が発せられ、刺激伝導系と呼ばれるルートを伝わって心房から心室へと順に心筋が収縮することでおこります。
 不整脈には心臓の拍動数が必要とされるよりも少ない徐脈性不整脈と多すぎる頻脈性不整脈に大別されますが、その種類は多く複雑で発生の原因も様々です。元気がなくてほとんど動きたがらない、運動すればすぐに座り込む、興奮したら倒れてしまうなどの症状がみられる場合は危険信号です。
 胸に耳を当てて心臓の音を聞いてみると、リズムが不規則でバラバラであったり、飼い主さんの心拍数と比べて半分位しかない、あるいは2~3倍以上もあると感じられたら不整脈の可能性が疑われます。(※図4参照)

4. おわりに

 心臓病は心電図検査、血液検査、胸部レントゲン検査、心エコー図検査などを行って総合的に診断します。大切なワンちゃん達が何となく元気がないかなと感じられたら、またそろそろ高齢期になったかなと思われたら、まず主治医の先生に御相談しましょう。そして病気によっては、大学病院や専門病院などでより詳しい検査を受けてみることも必要となる場合があります。
 お薬を飲む必要がでてきたら、それは生涯続けなければいけない場合がほとんどです。運動を制限したり、興奮しないよう注意したり、食事制限が必要なこともあります。ワンちゃん達がより快適な生活をより長く続けられるように、飼い主さんと獣医師が力を合わせて個々に応じたより適切な方法を選択していきましょう。

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