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上山 琴美さん

茨城県守谷市在住。愛犬はデコポン。過去に愛犬を亡くした経験から、捨て犬の保護活動に携わる。現在は、保護犬を介した子どもや若者たちの自立支援教育プログラムを広めるべく活動中。

NPO法人キドックス代表理事 http://kidogs.org/
社会福祉士/キャリアコンサルタント/JKC愛犬飼育管理士

写真:浜田一男

人が人らしく自分の人生を生きることができる。犬が、その犬らしく生きることができる。どちらか一方が幸せになるのではなく、両者が光に向かって新たなスタート地点に立つ─。
引きこもりやニートを支援する青少年自立支援・ドッグプログラムは、幼いころから犬と暮らし、犬が大好きだったひとりの若い女性の想いから始まりました。
今回は、このプログラムを立ち上げた上山琴美さんに、その想いと夢についてお話を伺いました。

捨て犬たちと目指す明日
人も犬も変わることができる「変わりたい」そう思った瞬間から─。

はじまりは一冊の本だった

▲ 上山さんとデコポンちゃん

上山さんが、このプログラムを始めたきっかけは、ある一冊の本との出会いでした。「その本は、アメリカの少年院のドッグ・トレーニングプログラムを描いたもので、捨て犬のトレーニングを通して少年院の子どもたちを更生に導くというものでした。犬が好きで犬の能力をよく知っていた私にとって、犬を介在させた更生プログラムは、文句のつけようがない素晴らしい取り組みに思えました。」

上山さんが最も共感できたのは、犬を更生プログラムの道具としてではなく、捨て犬たちも、プログラムを通して新しい飼い主のもとへ旅立ち、幸せになれるという点でした。その取り組みに深く感銘を受けた上山さんは、社会人になったのを機に、同じようなプログラムを日本で立ち上げたいと、同少年院を視察するために、アメリカへと向かいました。

「日本を離れ、アメリカの地でプログラムの担当者と話しているうちに、ふと日本独特の社会問題に気づきました。それは、社会に適応できない引きこもりやニートと呼ばれる若者たちのこと。そういった若者を支援する独自のドッグトレーニングプログラムを、自分の手でつくりたいと思ったのです。」

キドックス・ファームの誕生

その後、上山さんは仲間と一緒に、自身が住む茨城県でNPO法人「キドックス」を設立。引きこもりや、ニートを支援する施設「キドックス・ファーム」を2013年にオープンさせました。ここで行うプログラムは、アメリカのドッグ・プログラムと同じです。近隣の保護シェルターや動物愛護センターから引き取った数匹の犬をプログラムに参加した若者が世話をしたり、トレーニングをします。犬たちはもと捨て犬や野良犬ばかり。

「最初は、犬も若者もぎこちない。犬の排泄物の処理さえできない若者もいました。それでも、時間を共にすることで信頼関係が生まれる。その信頼関係が、自己否定ばかりだった若者に大きな自信と自己肯定感を与えてくれるのです。そして犬たちも、若者が寄り添うことで人間への不信感を徐々に払拭していく。人間との暮らしって楽しいんだな、もう一度信じていいんだなって…。それが犬の目や態度に顕著に表れると、更なる若者たちの自信へと繋がる。アメリカのプログラムと同じように、この取り組みは、どちらか一方が恩恵を受けるのではなく、互いの存在が、素晴らしい結果をもたらしてくれるのです。」

こうして1年から2年、若者とトレーニングを共にした犬たちには、新しい飼い主さんを募集します。譲渡会に自分の担当の犬を連れて参加するのも若者たち自身です。家からほとんど出なかった若者が譲渡会で多くの人と接することは、社会参加への大きな一歩となるはず。上山さんはプログラムに大きな手ごたえを感じて、更なる受け皿を広げることを決意します。

▲ キドックス・ファームでトレーニングの様子

保護犬と出会えるカフェで、より良い社会化を

保護犬の譲渡と自立支援を更に良い形で具現化したのが、2018年4月にオープンしたキドックス・カフェです。ここは通称「保護犬と出会えるカフェ」と呼ばれ、キドックス・ファームで若者がトレーニングしている犬と一般のお客さんが触れ合える場所。店内は半個室になっていて、お客さんはお気に入りの犬がいる部屋に入り、その犬と触れ合うことができます。オープン1カ月後には、多くの人が訪れるようになり、リピーターも増えてきました。

「昔、犬を飼っていて、犬の匂いが懐かしくなってここに来ました。今日で二度目です。これからも通いたい。」「保護犬という存在を多くの人たちに知ってもらう場所。たくさんの人たちに来てほしい。」と、訪れたお客さんからも大好評。どの犬たちも基本的なしつけができているため、吠えることなく友好的で、ゆったりと穏やかな時間を過ごすことができます。みんなに可愛がられ、不特定多数の人に慣れることは、犬にとって社会化を学ぶ大切な機会。同時にカフェは、保護犬と新しい飼い主さんとの出会いの場所ともなります。

「次の目標は、このカフェでプログラムに参加している若者自身が接客に当たり、更なる社会性を身に着けることです。」犬も若者もそれぞれの社会に向かって元気に羽ばたける明日を目指す―。上山さんの思いは確かな形となって前に進み続けています。

▲ キドックス・カフェの外観。多くの人たちと触れ合える場所に

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