今回はペットロスコラム特別編として、飼い主を亡くしたペットが大きな悲しみを抱える「オーナーロス」に注目。北海道札幌市在住の葛西謦子さんに、黒いラブラドール・レトリバーのソニアちゃんに起こった出来事についてお聞きしました。
お話を伺ったのは…
葛西謦子さん
北海道札幌市在住。2003年8月に最愛のご主人の葛西孝二さんを亡くされた。悲しみに暮れる中で、ふとご主人が可愛がっていた愛犬ソニアちゃんの黒い毛色が白くなっていることに気づく。
結婚記念日にやってきた黒ラブのソニア
我が家に黒いラブラドール・レトリバーのソニアがやってきたのは、結婚22年目の記念日のことでした。小さい頃はとてもやんちゃで「どうしてかじるの」「どうして引っ張るの」と育児戦争の毎日に。
そのせいか、主人も「犬は犬らしく」「食事中はハウスに」など厳しい姿勢をとっていましたね。しかし、しつけ教室のイベントに参加してから、ソニアは見事に賢い犬へと成長しました。主人もそんなソニアが可愛くてたまらなかったのでしょう。夕食後は必ず2時間の散歩に出かけていましたし、週末はソニアを連れて食材の買い出しに出かけたり、豊平川での川遊びを楽しんだり。
北海道一周旅行に出かけたこともありました。当時、飲食店を経営していた私たちが1年に3回も旅行に出かけるなんて、今思えば何かに焦っていたようですね。
▲ 北海道・松前にて。ソニアを連れて念願の北海道一周旅行を楽しみました。
ご主人様が旅立ち、雪のように白い毛色へ
ソニアが5歳を迎えた年の11月、主人に肝臓がんが見つかりました。
即日入院しましたが、2月には肺への転移が見つかり、3月末には余命宣告を受けるほど病気が進行。皆の慌ただしい様子に、ソニアも何かを感じていたのでしょう。6月に退院した時は、前のように体当たりで甘えることなく、気遣うようにそっと優しく主人に寄り添っていました。
しかし退院から8日後、主人は意識を失ってしまったのです。
「お父さん!」と私が声をかけると同時に、ソニアは主人の口をしきりになめていました。救急車で運ばれて「脳梗塞」と診断結果が。右半身すべての感覚が麻痺してしまい、言葉も話せない状態になりました。ソニアとは6月に病院の玄関のガラス越しに対面し、気候の良い7月になると病院の外で会えた日もありました。しかし、建物までぐいぐい引っ張って走るソニアは、主人に会うとお尻を向けてしまうのです。
病状が悪化していく中、看護婦さんのご厚意で自宅に帰ってきたのが、ソニアと会った最期になりました。その日ずっと主人とソニアが見つめ合ったのを覚えています。
主人の死を実感できないままに日々は過ぎ、ソニアは少しずつ痩せていきました。
食欲がなかったわけではありませんが、山に行っても泳ぎに行っても元気がなくて。7ヶ月を過ぎた頃には、顔や耳の毛の一部が白くなりはじめました。
「年を取ったのかしら」と思っていましたが、どんどん白くなっていき、主人が他界して2年で真っ白な犬に。健康診断を受けてもいたって健康と診断されて……本当に不思議なことがあるものですね。
▲ 主人が他界した後、ソニアの毛色は少しずつ白くなっていきました。
知ってほしい、ペットの悲しみ「オーナーロス」
「黒い犬が白い犬になった」という話が口づてに広まり、雑誌やテレビ、WEBなどさまざまなメディアに取り上げていただきました。散歩中もいろいろな方に話しかけていただきましたし、ソニアはたくさんのワンちゃんと遊ぶことができて喜んでいたようです。
メディアに登場した獣医師によれば、黒い毛が白くなる現象は年齢やストレスが原因ではないか、とのこと。愛する人の死がペットにとっても非常に悲しいもので、その不安から体に異変をきたすのかもしれません。
▲ すれ違う方々から「ダルメシアンのハーフ?」とよく聞かれました。真っ黒だったソニアは主人が他界して2年で真っ白な犬に…。
そんなソニアも少しずつ元気を取り戻し、主人の3周忌を過ぎた頃から黒い毛が生えはじめ、白くなった皮膚も黒く戻っていきました。娘犬のジュリアとの散歩を楽しみに元気に過ごしていましたが、2013年9月、16歳で主人のもとに旅立ちました。
▲ 泳ぎが得意なソニアは、川にボールを投げると喜んで取りに行きました。
今回、ソニアにあった出来事が、パペットアニメーション『白いソニア』という作品になりました。ペットを失う悲しみ「ペットロス」だけでなく、ペットが飼い主を失う悲しみ「オーナーロス」があることを知っていただけましたら幸いです。
多くのペットたちの幸せにソニアのストーリーが役立ちますよう心から願っています。
パペットアニメーション『白いソニア』
公式ホームページ:https://sonia.dog/
製作:ジェンコ
人形アニメーション制作:セマフォルスタジオ
構成・演出:渕上サトリーノ
音楽:城之内ミサ
ゼネラルプロデューサー:真木太郎