ペットを失った悲しみを癒やすカフェ「ペットロスカフェ」が東京・原宿にオープンしたという話を聞き、ディアペット総責任者・関口真季子さんとスタッフの皆さんに、カフェの内容やペットロスを乗り越える工夫などをお聞きしました。
お話を伺ったのは…
ディアペット総責任者 関口真季子さんとスタッフの皆さん
ペット仏壇・仏具業界でシェアNo.1の「DEAR PET(ディアペット)」が、ペットの思い出を語り合い、失った悲しみを癒やすペットロス専用施設「ペットロスカフェ」をオープン。
ペットロスの話が夫にできない ~ある奥様の場合~
10年間でのべ8万人のペット供養をサポートしてきたDEARPET(ディアペット)。2019年2月にはペットロス専用施設「ペットロスカフェ」をオープンされ、早くもたくさんのお客様が利用されています。
「ペットとの思い出やペットロスの話など、ペットにまつわることでしたらどんなことでもお話しいただけるカフェです。同じ思いをした仲間同⼠、理解し、共感し合うことがペットロスを癒やす⼀助になると考えています」とお話しくださったのは、ディアペット総責任者の関口真季子さん。オープン当初から携わってこられた関口さんですが、中でも印象に残っているのは、19歳の猫を亡くされた60代の奥様のことだそう。
「奥様はお1人で来店されたのですが、店に入るなり泣き崩れてしまいました。そこから数時間は、涙で言葉がつかえながら生前や闘病中の様子についてお話しくださって。奥様が何度かおっしゃっていたのは”主人もペットロスで辛い状況。だから家では話せない”ということ。第3者である私たちだからこそ話せる思いがおありなのだと思うと、いつまでもお話をうかがいたいと感じました。お話しされるうちに少しずつ表情が明るくなっていく様子を拝見できたのもうれしく、”少しでも楽になっていただけるのなら”という使命感がこの時に芽生えたのかもしれません」と優しくほほえむ関口さん。
ペットロスカフェでは「話しかけてもOK」か「1人静かにペットを偲びたい」かを選ぶことが可能です。事前に意思確認をして「話しかけてもOK」の場合のみ、スタッフや他のお客様が話しかけてペットの思い出を語り合うことができます。
「その日、その時間にご一緒するのも何かのご縁だと思います。”同じ思いを共有できてよかった”、”私の話で一緒に泣いてくれた”、”励まし合える人がいてよかった”というお声をいただいています」と話す関口さんご自身も過去にペットロスを体験されています。
仕事中なのに涙があふれてしまう ~関口さんの場合~
「私がペットロスを経験したのは3年前です。エキゾチック・ショートヘアーのわたちゃんは生まれつきの心臓奇形があり、大学病院で手術をすることになりました。しかし、手術が決まったその日、帰宅するとすでに旅立っていたのです。亡きがらを抱えて、どのくらいぼーっとしていたかわかりません。愛おしいわたちゃんの姿が亡くなってしまうのが悲しく、辛く、泣いてばかりいました。何をしていても突然涙が出たり、食欲がなくなったり。外に出るのも嫌でした」と当時を振り返る関口さん。その時に支えとなったのが、ともに働く同僚や先住猫の存在だったそうです。
「どんなに頑張っても悲しみがあふれ出し、仕事中でもふいに涙が出てしまうのです。本来なら冷たい視線を受けるところですが、私の周りには私以上に声をあげて涙を流してくれる同僚がいましたし、帰宅すればお世話をしなければ死んでしまう存在がいました。理解してもらえる環境だったこと、どんなに辛くても毎日の生活を動かさねばならないことがペットロスから抜け出す力になったのかもしれません」と関口さん。愛するペットを失った悲しみや辛さはなかなか理解されにくく、悲しみをオープンにすれば”ただがペットなのに”とか”ペットに依存している”という見方をされてしまう可能性もあります。
「ペットロスは人に言いにくいものです。理解されずに心無い言葉を受けて辛い思いをされた方も多いのではないかと思います。ご家族の中でも温度差があったり、ペットを飼っていてもわからないことがあったり。しかし、辛い気持ちを1人で抱え込み、無理に解決しようとしてはいけません。今、自分が感じることを、しっかり感じ切って欲しいと思います。私たちは、同じ思いをした仲間としてあなたを絶対に否定したりしません」。ペットの死に近い仕事をしている関口さんですが、何回経験してもペットロスになるそうです。だからこそお客様がペットロスになるのは当たり前、と関口さんは語ってくださいました。
ペットの死が家族の絆を強めた ~母娘の場合~
あるファミリーのエピソードをお話しくださったのが小野奈緒美さんです。「私が印象に残っているのは、ある母娘のお客様のことです。お母様が愛情を注いでいらっしゃったペットはトイ・プードルちゃん。半年前までとても元気で、病気やケガとは無縁だったそうですが、急に体調を崩して亡くなってしまったとのことでした。突然訪れた悲しみを前に、なかなか立ち直れなかったというお母様。そんなお母様を心配した娘さんがペットロスカフェについて調べて、はるばる遠くから来店くださったそうです。悲しみの中ではありますが、母娘の絆が深まっていく姿にふれて心があたたかくなりました」と小野さん。
そんな小野さんがペットロスを経験されたのは2年前。2017年5月25日に、愛犬あいちゃんを亡くされています。「ペットロスの期間がどれくらいだったのかはわかりません。2年経った今でも思い出すと涙があふれますし、私にとってかけがえのない存在ですね。だからこそ、お客様には”ここでは泣いても大丈夫です”とお伝えしています。泣くことを我慢したり、後悔して謝ったりという方も少なくありません。しかし、ここではどうか思うようにお話しされて思い切り泣いて、少しでも楽になっていただきたいと願っています」とご自身の経験を踏まえてお話しくださいました。
「ありがとう」と感謝の気持ちで送り出す ~盛さんの場合~
ペットロスカフェには、”1人で悲しみを抱え込んできた”というお客様が来店されることも少なくないそうです。「”誰にも言えなかった気持ちが話せてすっきりした”、”前向きに考えられるようになった”とおっしゃっていただき、皆様、来店時よりも少し明るい表情でお帰りになります。その方、その子それぞれの生き方やストーリーはどれも深くしみ入るものばかり。皆様お辛い思いの中、心から深く愛されていることを強く感じます」とお話しくださったのは盛裕子さん。盛さんはかつてフラットコーテット・レトリーバーのジーニーくんと暮らしていました。
「子どもの頃から”犬を飼いたい”と強く願っていたのですが、犬にとって理想的な環境ではなかったので諦めていました。しかし、40歳が見えてきた時、”犬を飼えずに人生が終わってしまうのか!?どうにかやりくりして育てよう!”と決意。ジーニーと出会いました」。念願の愛犬を迎えて、大切に大切に13歳10か月のその日を迎えるまで育ててこられた盛さん。亡くなる半年前には右足をひきずるようになって、ジーニーくんに骨肉腫が発覚したそうです。年齢に配慮して断脚はせず、そのまま生活することに。獣医さんが驚くほど進行は遅かったものの、亡くなる3か月前からは台車を改造したバギーカーでお散歩していたという盛さん。
「台車での散歩によって近所の人から声をかけられることが増えて、死後も続くお友だちをたくさん作ってくれました。ペットロスがなかったわけではありませんが、それ以上にジーニーと過ごした時間はよい思い出であり「ありがとう」の気持ちが強いです。”長生きしてくれてありがとう。素敵な思い出作ってくれてありがとう。あなたがいなかったら経験できなかった数え切れないほどの経験、学び、喜び・・・・・・”。そう思うことで、悲しみは薄れていきました」。
ご自身の経験から、盛さんは「悲しかったら思いっきり悲しんで泣いて構わない」とおっしゃいます。「その子がくれたもの、残したものを思い出してください。それはきっと素敵なかけがえのないもののはずです」とメッセージをくださいました。
食べることも笑うこともできなくて ~横溝さんの場合~
ペットロスへのアドバイスを求めると「周囲が何を言おうと気にする必要も、気を遣う必要もありません。ご自身の気持ちのまま、悲しい時、泣きたい時は泣いてください、悲しんでください」とお話しくださったのが横溝真奈美さん。最愛のペットを亡くした時には2か月ほど食事を取れなかったそうです。
「私は6年前に、三毛猫の女の子キョンを亡くしました。キョンは結婚を機に迎えた子で子どものように愛情をかけてきましたが、18歳で乳がんに。手術を試みたものの回復が難しく、そのまま病院で旅立ってしまいました。キョンは私が初めて飼ったペットでしたから、想像以上にショックが大きく、約2か月間は食べることも笑うこともろくにできない状態に。そして、その後の2年間はキョンが使っていたものを片付けることができず、写真を見ることもできないというほどペットロスに苦しみました。 当時はチワワ×マルチーズの女の子はなも一緒に暮らしていましたが、昨年8月、はなも闘病の末、肺水腫による腎不全悪化で天使に。失ってしまった辛さと寂しさから抜け出せず、1週間ほど寝られない夜が続きました。今でも喪失感は残っていますし、寂しくて仕方ありません」。
ペットロスを癒やすのは時間だと実感されている横溝さん。ペットロスで辛い思いをされている方に向けて「ペットを亡くし、辛い気持ち、悲しい気持ちになることは当たり前だと思います。悲しい時は悲しんでください。そしていつかその子との楽しかった時を思い出し、この子に会えてよかった、うちの子になってくれてありがとうを笑顔を取り戻せる日が来ると思います」とお話しくださいました。現在は2匹との思い出を共有する愛犬が、横溝さんの笑顔を支えているそうです。
輝かしい日々を思い出して笑顔のあしたへ
ディアペット総責任者の関口真季子さんは「泣いてもいい、後悔してもいいと思います。悲しいと感じるぶんだけその子を愛していたということだから」とおっしゃいます。大切なのは、「死んでしまった」その瞬間だけにとらわれて、一緒に暮らしてくれた奇跡のような時間を闇に葬らないこと、だそう。
「生前の輝かしい日々を思い出して笑顔で過ごすことが、お空のあの子の願いです。私たちは悲しみの心に寄り添い、ただただお話をうかがいます。誰にも言えなかったこと、人前で流せなかった涙が解放されることで、心のどこかに引っかかっていたものが外れることも。私たちは医療従事者でも、カウンセラーでもありません。だからこそ近しい存在としてあなたのことを心で抱きしめ、一緒に歩いていけるのではないかと信じています。どうかお1人で悩まないでください。もし、どうしても食事ができなかったり、日常生活ができない状態が長く続いたりするようであれば、きちんと医療機関を受診してください。あなたの命を守ることもまたお空のあの子のためなのです」。
ペットロスカフェではペット仏具を手作りできる体験会も開催されています。これは、好きな絵柄のシールを陶器に貼り、焼き付けてオリジナルの仏具を作るイベントとのこと。
「参加くださったお客様からは、”作業に集中することで悲しい気持ちを紛らわすことができた”、”あの子のために作ってあげられてうれしい”というお声をいただいています」と関口さん。スタッフや他のお客様との出会いも悲しみを癒やす一助になっているようです。
ペットロスは愛情の証。思いを共有できる場所ができれば、心が軽くなるかもしれません。スタッフの方それぞれのお話に、心を優しく包み込むカフェの様子を拝見できました。
『ディアペット東京本店 ペットロスカフェ』
住所:東京都渋谷区神宮前2-18-7
TEL:03-6434-0878
営業時間:11~19時、カフェのラストオーダーは17時半
定休日:なし
このコラムについて
『 あなたはどう向き合う? ペットロス 』
かけがえのない存在を失った時、私たちはどうしたらいいのでしょうか。気持ちの変化やその時の心境を、さまざまな方の声を通して、一緒に考えていこうというコラムです。