災害の規模によっては必要となる応急仮設住宅。犬猫の飼い主さんが被災した場合、どのような過ごし方が考えられるのでしょうか。そこで今回は災害時の飼育者の住まいのカタチについて調査・分析した金巻先生にお話を伺いました。
いざという時に困らないために。
自分の地域の自治体の方針を知って、どのように過ごせるか考え始めましょう。
応急仮設住宅とは行政が建設して一時的に供与する簡易住宅のこと。基本的に2年以内の住居となります。仮住まいのため居住スペースは小さく、隣接する家との間隔は近くなります。ペットの飼育可否や暮らし方などの方針は自治体ごとに変わります。地域性や災害の種類・規模によっても望まれる形が違います。
2016年の熊本地震では東日本大震災の経験を活かして予算や建材を見直し、過ごしやすくなりましたが※、においや騒音などの課題は残りました。
しかし、前述のように地域によって方針が変わるのでみなさんの地域が熊本地震の時と同じ過ごし方になるかはわかりません。なので、地域の防災課へ方針を問い合せたり、一緒に考えることは大切です。
同行避難は飼い主の義務です。子供や高齢者、身障者といった家族との避難方法を考えることと同じように、犬猫がいる家庭として、平常時からできることを始めてみませんか?
※東日本大震災の初期に建った応急仮設住宅は寒さや防音への悩みが多く、居住後の追加工事が増加したため、予算などが見直されました。
ポイントになる地域性って?
●地域コミュニティの結びつきの強さ
ご近所さんと仲良くしていると、避難所や仮設住宅でも助け合えます。
●屋外飼育が多いか、屋内飼育が多いのか
中・大型犬の多い地域では室外に。平時から室内飼育をされている地域は、
人との狭小空間の共有に対し、比較的ストレスが少なくてすみます。
●都市部か、自然の多い地域か
都市部の住宅密集地で暮らしている犬は、よその家や犬との隣接環境に
比較的慣れています。
知っておきたいこと 1
応急仮設団地内の方針は状況によって変化することも。
福島県の中・大型犬が多いある地域の団地では避難期間が長かったこともあり、暮らしやすいように方針が調整されました。
熊本地震のある地域では…
小型犬が多かったので、部屋の奥が居場所になりました。
玄関よりも安心できたので警戒吠えの悩みも減少しました。
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『屋内のみの飼育』を原則とし、玄関の内側周辺で過ごすことに。「大型犬は玄関内やポーチ内に居るしかなくてお互いにつらい」という意見が挙がりました。
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『屋内外可能型』に移行。自治会の許可を得て玄関の外側に犬小屋を設置し、中・大型犬は外で、小型犬や猫は室内で過ごすように。
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『トラックや見知らぬ人に犬が怯えて吠える問題が増えたため、ポーチ(風除室)へ移動しました。※風除室とは…雪や大雨対策のために玄関先を囲う設備のこと。
知っておきたいこと 2
無事に避難できた後は「犬猫と同伴入室しない」という選択もあります。
避難所では下記のような流れも見られました。小型犬が多く、避難所だけでなく応急仮設住宅においても地域の飼い主さん同士の関係性ができているなら共同で使える動物専用ハウスがあると理想的です。
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多くの人が近接して過ごす避難所内で犬猫も同居。次第に周囲からの苦情が増加。当初は一緒に過ごせることを喜んでいた飼い主さん自身も「鳴き声」や「におい」による遠慮が出るように。
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家屋の片づけや行政の手続きなどで移動が必要に。犬猫だけを避難所に置いて動けないため、預かり施設への要望が増加。
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近くに寄付されたコンテナを動物専用ハウスとして設置。犬猫はケージ内で過ごし、飼い主さんとのお散歩もできます。
一緒に住めて嬉しいのは最初の1ヵ月だけかもしれません。
他の家庭の音(鳴き声)やにおいほど、人間は敏感になります。そういった問題を考えると、犬猫と狭い場所で過ごすよりも、別棟のペット専用ハウスを利用する方が長期的に考えると理想的です。都会なら下記の分類のタイプ2とタイプ4の併用となると良いですね。
知っておきたいこと 3
犬猫を連れた飼い主さんと、そうでない人の住居区画は分ける方が過ごしやすいと考えられます。
慣れない避難生活では暮らし始めてみないとわからないことがたくさんあります。状況が似ている飼い主さん同士の住宅が近い方が暮らしの情報を交換できます。散歩時に通る道などで遠慮することも減ります。
避難所や仮設住宅…どんな時でもうちの子が安心できるようにクレート(ケージやキャリー)に慣れておくことが大切です。
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避難時は、避難所や仮設住宅、ペット専用ハウスや被災動物保護施設といった様々な場所で暮らす必要があります。そんな時のストレスを減らすためには、普段から犬猫にクレートに慣れてもらっておくことが大切です。暗くて静かな場所を数ヵ所選んでクレートを置くと入ってくれることも。自分のにおいが付いた布を置いたり、おやつをあげたり…楽しい旅行でも使うのもおすすめです。
そうしておけば、発災直後、地震に驚いた犬猫が安心スペースであるキャリーの中に逃げてくれる可能性を高められます。避難場所が決まるまでの待ち時間をキャリーで落ち着いて待つこともできます。
万が一に備えて犬猫と離れる覚悟を持っておくことも大切です。予想外の時も落ち着いて過ごせるように、クレートにも慣れさせておきましょう。
我が家の犬猫がご近所さん達に愛してもらえていると、さらに安心です。
ご近所さんに日頃からうちの子をかわいがってもらえていると、「あの子はずっと飼われている家族だし、よく知っている子だから」と、同行避難への理解が得やすくなります。地域活動にも参加するなどして関係を築いておいたり、地域の避難訓練時に犬猫を連れた人がどんな避難ができるかを一緒に考えることも大切です。是非、実践してみてください。
こんなグッズが役立ちます
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迷子札やマイクロチップは一緒に装着してもっと安心に。
避難時には犬猫がストレスで落ち着かなくなって逃げてしまい、生き別れになる場合も多いです。マイクロチップはもちろん、マイクロチップの存在を知らない人にも「飼い主がいる動物」だとわかるように迷子札を着けておくと見つかりやすくなります。
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3段ケージで猫も過ごしやすく。
応急仮設住宅に置けば隠れられる小さな空間として役立ちます。置き場所は狭くて暗い場所がおすすめです。
さらに、犬猫自身のにおいが付いた布やタオルを掛けると、自分自身のにおいに包まれて過ごせるので安心度が高まります。
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車内にも熱中症対策グッズや備蓄品を。
犬猫だけで車で過ごすことも想定して熱中症対策や備蓄品を準備していると安心です。
お話くださった先生
金巻とも子先生
一級建築士・家庭動物住環境研究家。
福島県と熊本県の応急仮設住宅の事例を論文として発表。