VOL.2 愛媛県動物愛護センター 編
「殺処分」と言う現実に向き合ってもらい、その原因と課題を県民一人ひとりに考えてもらえる施設に―。
松山市内から車で30分ほどの豊かな自然の中に位置する「愛媛県動物愛護センター」。
標高350メートルの山間部にあるこの場所は、2002年12月にオープンしました。
10630平米の広い敷地内には、動物愛護を啓発する愛護棟と、野犬や不要になって持ち込まれた犬・猫を収容・殺処分する管理棟、処分した犬猫の遺体を焼却する焼却炉があります。
気候温暖な四国では、野犬が繁殖しやすく、捕獲・収容される犬たちも、全国的に多く、殺処分は止む終えない業務。その事実を隠さず公開することで、「捨てられる命、ゼロ」に向け、センター職員さんは様々な取り組みを行っています。
他では見られない「命と真摯に向き合う」センター職員さんたちの活動を、ご紹介します。
目次
・「愛媛県動物愛護センター」のここがポイント
「殺処分がなぜあるのか」を県民に伝えることで「捨てられる命ゼロ」を目指す
・「愛媛県動物愛護センター」の守りたい小さな命
熱心な啓発活動や譲渡会による殺処分数の減少
・「愛媛県動物愛護センター」の繋ぎたい小さな命
毎月第2土曜日に新しい飼い主さんを見つける「譲渡会」
「愛媛県動物愛護センター」のここがポイント
「殺処分がなぜあるのか」を県民に伝えることで「捨てられる命ゼロ」を目指す
全国での犬・猫の殺処分数がダントツに多かった愛媛県。
センターオープンの2002年頃からは、動物愛護が世の中に広まり、殺処分数の多かった愛媛県動物愛護センターには、全国の愛犬・愛猫家から「殺処分反対」の苦情が寄せられるようになりました。
当初は野犬や持ち込まれた犬・猫を収容・処分する管理棟を一般の人には公開していませんでしたが、ある職員さんが「管理棟を公開して現状を見てもらい、殺処分の原因は何かを県民自身に考えてもらい、判断を仰いではどうだろう。管理棟を公開することで、マスコミが取材し、正しい報道をしてくれれば、より広く県民が殺処分の原因を考えるきっかけとなる」と提案。
当時、管理棟をマスコミに公開しているセンターは他になかったため、公開後には多くのメディアが取材に訪れ、殺処分を待つ犬たちの前では、涙を流すレポーターが続出したと言います。
その結果、マスコミはセンターへの殺処分批判ではなく、飼い主の身勝手さが原因と考え、終生飼育や不幸な命を増やさない不妊・去勢手術の徹底を強く訴えたのです。
以来、県民が参加するセンター主催のセミナーや勉強会、譲渡会でも「殺処分業務」のことを隠さず、きっちりと伝えることに―。
この取り組みで、センターへの苦情は減っていきました。
当センターでは、現在も一般の方の管理棟見学を受入れており、獣医学部の学生さん、大学の卒業論文作成のために訪れる学生さん、高校生などが正しい理解を得るためにここを訪れています。希望者は電話で連絡をしたのち、「管理棟区域見学申し込み書」に見学目的や人数等必要事項を記入し、許可を得てから職員さんの案内で見学できることになっています。但し、カメラ、ビデオ等撮影機械の持ち込みはご遠慮願っています。
「愛媛県動物愛護センター」の守りたい小さな命
管理棟公開で県民の理解が進み、職員さんたちの熱心な啓発活動や譲渡会などが功を奏して、この15年間で、殺処分数は約3分の1以下に減り、犬に関しては約8分の1以下となりました。
2017年度(最新データ)では犬・猫合わせて2327頭(松山市分除く)が処分されており、その7割以上が猫の殺処分で、猫のうちの7割が子ねこです。
そこで当センターが近年力を入れ始めたのが「地域猫事業」です。
愛媛県では地域猫活動のガイドラインを作成し、県が主催する地域猫セミナーを年三回三カ所(東予、中予、南予)で開催することにしました。
「猫、特に子猫の処分数を減らすことが、殺処分ゼロへの重要な課題で、地域猫活動の普及は必須です。また地域猫活動は、猫が好きな方、猫を飼っている方だけが対象ではなく、その活動に取り組む地域住民すべての問題なので、県民の皆様に広くご理解をいただくことが重要だと思っています。そのためには猫に興味のない方、飼っていない方、猫が嫌いな方にも知っていただく方法を考えなくてはなりません」とセンター所長の山本真司さん。
2018年度、中予地区では「とべ動物園」のステージを借りて来園者を対象に、東予地区は岡山理科大学今治キャンパス獣医学部内にて学園祭の際に来園する市民・保護者を対象に、セミナーを実施しました。(南予地区は豪雨災害のため中止)
また地域猫活動に関しては、愛媛県獣医師会が取り組んでいる「野良猫(地域猫)対策支援事業」へ助成する形で地域猫活動を支えるボランティアさんを金銭的にもサポートしています。
まだまだ一般の人たちには馴染みの薄い地域猫活動。
しかしながら、地域猫活動は猫がいる地域住民すべての人の理解と協力が必要です。
今後も同センターは、動物園や大学とタッグを組み、広く啓発活動を続け、猫の殺処分数を減らす取り組みに全力で取り組んでいきます。
「愛媛県動物愛護センター」の繋ぎたい小さな命
愛媛県動物愛護センターでは、保護した犬・猫たちの命をつなぐため、毎月第2土曜日に新しい飼い主さんを見つける「譲渡会」を行っています。
ふれあい動物舎・愛護棟ホールで見ることができる譲渡犬・猫は健康診断を受けた健康な犬・猫たちばかり。
譲渡用に選ばれた犬は、譲渡会に出すまでの約1,2か月間、職員さんやボランティアさんたちに世話をしてもらいます。特に意識しているのは、譲渡する子犬たちの社会化です。
社会化とは、他の犬や人間と上手にお付き合いできるよう学ぶトレーニングです。
センターに持ち込まれる犬の多くは、社会化ができていないケースが多いため、一度捨てられた命が、また捨てられることがないよう、できる限りコミュニケーションをとるようにしています。また、子犬や子ねこだけでなく、成犬・成猫の譲渡は、性格が確立されていて、体の大きさがわかっているので、相性を見やすいとしてここでも広く譲渡を推進しています。
当センターが譲渡の上で最も大切にしているのは「譲渡はペットの斡旋ではない」ということ。譲り受けた飼い主さんに地域の模範的な飼い主さんとして、動物愛護の精神と適正飼育の普及を図るインタプリター(仲介役)になってもらうことを譲渡の最も大きな目的としています。
譲渡会の当日参加は受け付けておらず、事前に譲渡前講習会参加申込書をはがきで送って申し込みをしなくてはならないなど、衝動的な譲渡希望者をなくすための徹底ぶりがうかがえます。参加申し込み書がついているパンフレットでは譲渡前講習会に参加する前に、以下のことを譲渡希望者に確認するよう呼びかけています。
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① 家族全員が動物を飼うことに同意していますか
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② 終生飼えますか
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③ お住まいは動物を飼うことに適していますか
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④ 転勤・引っ越しなどの心配はありませんか
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⑤ 繁殖制限の必要性を理解できますか
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⑥ 経済的な余裕はありますか
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⑦ ご近所に迷惑かけずに飼えますか
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⑧ 法律・条例などの決まりを守れますか
そのいずれか一つでも「×」であれば、「飼育は難しい」という結果に。
丁寧にイラスト入りで作成されたカラーパンフレットには「飼育を推奨」する文言はなく、「飼えるようになるまで飼わない」「飼いたいと思っても飼えないのであれば、飼わないことも動物愛護」と書かれ、「不幸な命は二度とつくらない」と強く願う職員さんたちの気持ちが伝わってきます。
このような職員さんたちの努力が実を結び、数年前からは「センターの譲渡犬は、とてもいい」「職員さんがとても親切に相談に乗ってくれる」「センターのしつけ方教室に参加してよかった」など、口コミで譲渡会やしつけ方教室に訪れる人も増えたといいます。
当センターでは2017年度、犬186頭(うち子犬124頭)、猫96頭(うち子ねこ56頭)の計282頭が譲渡され、家族と共に幸せに暮らしています。
譲渡前講習会参加申込書に必要事項を記入の上、申し込みます。
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譲渡前講習会に参加します。
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講習会を受けた後に、譲渡会に参加します。
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譲渡誓約書に署名します。
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譲渡終了です。
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不妊・去勢手術終了報告ハガキを後日提出します。
「愛媛県動物愛護センター」のボランティアさん
当センターでは、たくさんのボランティアさんが職員さんと力を合わせて、小さな命を救う取り組みを行っています。
特に注目すべきは「仲介者譲渡」という取り組みです。
基本、センターから犬猫を譲渡するのは県内在住20歳以上の方に限られますが、この「仲介者譲渡」は、センターに登録しているボランティアさん経由で、県外の希望者さんへの譲渡を可能にしました。
登録している仲介ボランティアさんが当センターから犬を譲り受けて、譲渡先と直接連絡を取り、飼育場所や終生飼育が可能かどうか等を確認し、最終飼育者に譲渡します。そして、新たな飼い主さんに譲渡されればセンターに報告書を提出して無事譲渡完了となる仕組みです。
しかしながら「仲介者譲渡」は、殺処分を懸念したボランティアさんが、多くの頭数を引き受けようとする傾向もあるため、当センターでは一人の仲介ボランティアさんに委ねる頭数を制限しています。これはボランティアさんの多頭飼育崩壊を防ぐことにも役立ちます。
その他、譲渡犬のシャンプーボランティア、お散歩ボランティア、各種イベントのお手伝いなど50名のボランティアさんが犬・猫のために、ここでお手伝いしています。
また、ジュニアボランティアとして10歳から15歳まで15名の子どもたちも登録。主に譲渡用の子犬のお散歩を担います。
ジュニアボランティアの目的は小さな命への責任を育み、命を大切に思う心を養うこと。
当センターでは、子どもたちに向けた啓発活動にも大きな力を入れています。
「愛媛県動物愛護センター」の所長、山本真司さんに聞きました
平成30年4月よりセンター所長を務める山本さん。
山本さんは、今後のセンターの課題についてこう語ってくれました。
「全国的にも犬の殺処分数はここ10年で飛躍的に減っています。しかし猫に関しては、減ってきてはいるもののまだまだ課題が多いと感じます。猫にも犬のように登録制度の導入を検討することも必要でしょう。何より今、一番の問題は飼い主のいない猫から生まれる子ねこです。子猫が生まれなければ飼い主のいない猫の増加を防げます。殺処分も確実に減らすことができる。
そこで取り組み始めたのが地域猫事業ですが・・・、飼い主を持たず屋外での生活は、猫にとってベストとは言えないはず。すべての猫が、飼い主の元で天寿を全うできる動物愛護を今後は目指していかなければと思っています」
▲ 愛媛県動物愛護センター所長を務める山本さん。
地域猫事業は、殺処分を減少に導くことができても、猫の福祉という面では疑問が残る問題。全国で始まっている地域猫事業ですが飼い主のいない猫にとって「ベターな策」ではあっても「ベストな策」ではないということなのです。
では本当に犬猫たちにとって「ベスト」とは何なのでしょうか。
「命あるものを預かっている、という飼い主さんの意識です。犬・猫の命は飼い主さんのものではありません。飼い主さんは、その命を消えるまで大切に預かることが責任だと伝えていきたいですね。そういった意味で、猫にとっても路上で暮らす地域猫ではなく飼い主と一緒に家族として家で暮らせることがベストだと言えるのです」と山本さん。
殺処分ゼロの前に、捨てられる命をゼロにする―。
命を預かる責任とは何か―、を飼い主一人、ひとりが真剣に考え、
飼育をすれば、捨てられる命は激減するのではないでしょうか。
愛媛県動物愛護センター
住所:愛媛県松山市東川町乙44-7
電話:089-977-9200
開館時間:午前8時30分から午後5時まで
休館日:毎週月曜日
(月曜日が休日の場合は、次の休日でない日)
年末・年始(12月29日から1月3日)
URL :愛媛県動物愛護センター