VOL.3 栃木県動物愛護指導センター 編
ペットの幸せは、飼い主さん次第。
譲渡事業を通して模範的な飼い主を育成することにより、
動物愛護の精神および正しい犬や猫の飼い方の普及啓発を行っている施設。
宇都宮市今宮にある「栃木県動物愛護指導センター」は、1994年、動物とのふれあいを通して動物愛護精神の普及啓発を行い、人と動物の共生する地域社会の形成を目指すことを目的に設置されました。
同センターへはJR宇都宮駅からバスで25分ほど。
総合運動公園や赤十字血液センターなどの公的施設が並ぶエリアに位置しています。
同センターは一般県民向け施設としてオープンした「愛護館」を拠点とし、愛護事業の一環として「子犬の譲渡会」や「動物ふれあい教室」を実施しています。
月に1回開催される「子犬の譲渡会」に参加する子犬たちは、県内で収容された野良犬の子犬たち。
栃木県では山間部を中心にまだ野良犬が生息している地域があり、野良犬の子犬が継続的に収容される状況にあるのです。
子犬は同センターに収容された後、職員やボランティアさんにより健康管理やシャンプーを施され、ふれあいドームなどで来館者とふれあい、時には「ふれあい教室」で子供たちともふれあいます。
その後、譲渡会に参加し、新しい飼い主さんに譲渡されます。
このような「子犬の譲渡会」をはじめとした譲渡事業の目的は、命をつなぐだけでなく、模範的な飼い主さんを育成すること。
今回は、動物愛護精神と正しい動物の飼い方の普及啓発を推進するため、動物愛護推進員さんやボランティアさんとも協力しながら譲渡事業やさまざまな業務に取り組んでいる「栃木県動物愛護指導センター」をご紹介します。
目次
・「栃木県動物愛護指導センター」のここがポイント
ペットに関する問題の解決のために、模範的な飼い主さんを増やしたい
・「栃木県動物愛護指導センター」の守りたい小さな命
毎月1回のペースで「子犬の譲渡会」を開催
「栃木県動物愛護指導センター」のここがポイント
ペットに関する問題の解決のために、模範的な飼い主さんを増やしたい
栃木県では、2008年に策定した「栃木県動物愛護管理推進計画」に基づき、「適正飼養の推進」をはじめ、「譲渡機会の拡大」「普及啓発の推進」「災害対策の充実」の4つを重点に置き、各事業に取り組んでいます。
中でも力を入れているのが、模範的な飼い主さんを増やすための「適正飼養の推進」。
犬や猫の正しい飼い方を知ってもらうため、チラシなどを作成し、マイクロチップ装着を含めた所有明示の実施や、ペットが迷子になった場合にはすぐに同センターに連絡をすることなどを積極的に呼びかけています。
犬や猫の適正飼養を推進するため、同センターが作成したキャッチコピーが「犬の2K4S」と「猫の4S」。
これらは飼養頭数のコントロールや終生飼養などのキーワードの頭文字をとっていて、適正飼養のポイントを分かりやすく表現しています。
栃木県動物愛護指導センターが掲げる「犬の2K4S」
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K1
狂犬病予防注射
- 犬を飼い始めたら、お住まいの市町に登録を行い、適切な時期に狂犬病予防注射を受けさせましょう。
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K2
けい留義務
- 犬は柵の中で飼養する、鎖につなぐなど「けい留」して飼いましょう。
散歩のときも必ずリードを装着しましょう。
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S1
終生飼養
- 犬の生態や習性を正しく理解し、最後まで愛情をもって飼いましょう。
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S2
所有者明示
- 迷子になった時のあらかじめの対策として、鑑札や注射済票、マイクロチップなどを装着しましょう。
鑑札と注射済票の装着は狂犬病予防法で義務付けられています。
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S3
飼養頭数のコントロール
- 不幸な命を増やさないために不妊去勢手術を適切に行いましょう。
早めに手術を行うことでかかりにくくなる病気もあります。
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S4
しつけ
- ただかわいがるだけが愛情ではありません。
周辺に迷惑をかけたりすることがないよう、きちんとしつけを行いましょう。
栃木県動物愛護指導センターが掲げる「猫の4S」
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S1
飼養頭数のコントロール
- 猫は繁殖力が強く、1頭のメス猫から1年間に20頭以上に増えることがあります。
不幸な命を増やさないために不妊去勢手術を適切に行いましょう。
早めに手術を行うことでかかりにくくなる病気もあります。
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S2
終生飼養
- 猫の生態や習性を正しく理解し、最後まで愛情をもって飼いましょう。
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S3
所有者明示
- 迷子になった時の対策として、迷子札やマイクロチップなどを装着しましょう。
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S4
室内飼養
- 猫は十分な食べ物があれば必ずしも広い空間を必要とせず、環境を整えることによって室内のみで飼養することができます。
交通事故や感染症の危険性、迷子や近隣トラブルの回避にもつながります。
同センターには県内の犬や猫に関する苦情相談が数多く寄せられます。
2018年度に受付けた苦情件数は1万件以上にものぼり、それらの多くは飼い主さんが正しい飼い方をすることで解決に向かうと考えられます。
人と動物が共存して生活できる豊かな地域社会を築くためには、動物を飼っている人にもそうではない人にも、動物が好きな人にも苦手な人にも、適正飼養について理解してもらうことが必要です。
殺処分や苦情などペットを取り巻く問題はさまざまですが、動物を適正に飼養できる模範的な飼い主さんを1人でも多く増やすことが問題解決につながると同センターは考えているのです。
「栃木県動物愛護指導センター」の守りたい小さな命
栃木県では年間を通して子犬が継続的に収容されるため、毎月1回のペースで「子犬の譲渡会」を開催し、新しい飼い主さんになることを希望する県民の方に子犬の譲渡を行っています。
収容される子犬はそのほとんどが野良犬の子犬で、しっぽを振りながら人間に歩み寄ってくる子犬ばかりではありません。
収容前は人目を避けながら生きてきたと思わされるような警戒心の強い子犬もいます。
同センターでは、このような子犬も譲渡会に参加できるように、更には、新しい飼い主さんが安心して一緒に暮らせるように、子犬の社会性を高めるトレーニングを1~2か月に渡って行います。
この過程には、来館者と接することや「動物ふれあい教室」に参加することも含まれており、人とのふれあいを体感することで子犬の社会化が一層進むこととなります。
また、子犬と人が接することは、子犬にとって有意義なだけでなく、人間側、特に子供たちにとっても命の大切さを知る貴重な機会となるのです。
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▲ 動物ふれあい教室の様子。
「子犬の譲渡会」に参加できるのは県内に在住する成人の方で、「犬譲渡事前講習会」を受講していることが必須です。
また、同センターの子犬の譲渡の特徴として、譲渡を受けた飼い主さんに、譲渡会の約2週間後に行われる「子犬のしつけ方教室(パピートレーニングクラス・レベル1)」の受講することを義務づけています。
この教室では子犬の社会化や基本的なしつけについて、叱らずに“ほめる”ことをベースとし、アイコンタクトやおすわり、ふせのほか、物や音に慣れる練習などを実演しながら伝えています。
子犬のうちからしっかりとした社会化やしつけを行うことが、犬と飼い主さんの良い関係を築き、犬も人も幸せに暮らせる社会に結び付くのです。
▲ 譲渡会では子犬一頭ずつの性格を説明するほか、しつけ方教室までに新しい飼い主の元で行ってもらうしつけの宿題も実演します。
事前講習会・譲渡会を申込みます。
(電話・FAX・来所)
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犬譲渡事前講習会を受講します。
(受講証は3年間有効)
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子犬の譲渡会に参加します。
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譲渡申込書・誓約書を提出して
譲渡手続完了です。
※63歳以上の方は、若い世代の方による「飼養継続同意書」も必要
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パピートレーニングクラス・レベル1を受講します。(必須)
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パピートレーニングクラス・レベル2、ドッグクラスなどを愛犬と一緒にできます。(受講は任意)
職員さんの願いはみな同じ。
子犬たちが飼い主さんと信頼関係を築き、繋げた命すべてが幸せになってほしいー。
2018年度には、「子犬の譲渡会」を通じて163頭の子犬が新しい家庭に迎えられ、幸せに暮らしています。
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▲ 今まで譲渡された子犬達の紹介
「栃木県動物愛護指導センター」の繋ぎたい命
行政機関に収容された犬は、探している飼い主さんから連絡が無く、新しい飼い主さんも決まらなかった場合、殺処分の可能性が出てきてしまいます。
同センターは収容された犬の命を1頭でも多くつなげるため、成犬の譲渡にも力を入れています。
▲ 2015年に完成した「ドッグルーム」
2015年には同センター愛護館に「ドッグルーム」が完成し、家庭犬として適している成犬の積極的な譲渡を行っています。
ドッグルームでは、成犬の良さをわかりやすく展示するとともに、飼い主さんを募集している成犬も展示飼養し、実際にふれあうことができます。
“飼い主さんのライフスタイルに合った性格の犬を迎えることができる”ことは成犬を飼うことのメリットのひとつとして挙げられており、希望者は成犬と敷地内を散歩しながらじっくりとマッチングすることも可能です。
成犬と子犬の違い(栃木県動物愛護指導センター作成)
成犬 | 子犬 | |
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大きさ | 成長しているため、大きさはおおむね変わりません。 | 同センターから譲渡する子犬は野良犬の子どもであるため、中型犬以上になると思われますが、正確には分かりません。 |
性格 | ある程度知ることができるため、飼い主さんに合った性格かどうか判断しやすいです。 | その時点での性格の傾向は知ることができますが、成長後の性格は、飼養環境などにより大きく変化します。 |
飼い主との相性 | マッチングにより判断できます。 | 犬の性格や成長ステージに合わせた地道なしつけが必要です。 |
先天性の病気 | 子犬よりも発現しているケースが多いものの、不明な点もあります。 | 不明な部分もあるというのが、正直なところです。 |
飼い主の年齢 | 飼い主の年齢に応じ、無理なく飼うことのできる犬を選択できます。 | 通常、犬は15年程度は生きるので、この期間を責任を持って飼うことが必要です。 |
子犬に加え、成犬譲渡の良さを多くの人に知ってもらうことで、確実に殺処分数は減っていきます。
職員さんたちが成犬譲渡に積極的に取り組む姿勢からも、1頭でも多くの動物の命をつなげたいという気持ちが伝わってきます。
命の大切さを伝える“架け橋”
同センターの譲渡事業には、ボランティアとして協力している方々もいます。
その協力団体のひとつが、犬の譲渡を受けた飼い主さんを中心に組織された「譲渡犬等飼い主の集いの会(DMSO:Dog and Man Social Organization)」。
隔月で開催している「シャンプーボランティア」で譲渡会参加予定の子犬たちのシャンプーを行うほか、動物愛護フェスティバルをはじめとする普及啓発イベントにボランティアスタッフとしても参加し、模範的な飼い主さん仲間を増やすお手伝いをしています。
▲ シャンプーボランティアの様子
▲ 10年近くボランティアを継続している平澤則子さん
同センターで10年近くボランティアを継続している平澤則子さんもそのひとり。
初めて飼った愛犬とは、同センターの子犬の譲渡会で出会いました。
愛犬が14歳で天国に旅立ったのを機に、子犬の譲渡会やしつけ方教室のお手伝いに参加するようになったそうです。
譲渡会は平日開催されるにもかかわらず、平澤さんが有給休暇を取得してまでボランティアに参加している理由は、亡くなった愛犬への特別な思いを今も強く抱いているからです。
「いつか自分が天国に行って、亡くなった愛犬に会った時、“お母さんは犬たちのためにたくさん、たくさんがんばったんだよ!”と報告したい。そんな思いでボランティアに毎回参加しています。
捨てられたり、野良犬が産んだ子犬だった子たちが、いい飼い主さんに出会って、必ず幸せになってほしい。
犬との暮らしがどれほど幸せで喜びが多いものかを、みなさんに知ってほしい。それを伝えるために、お手伝いしています」と平澤さん。
天国の愛犬との絆が新しい命を次々と繋いでいるのです。
譲渡犬からたくさんの幸せをもらったDMSO会員さん。
幸せのバトンを次の譲渡犬たちに繋ぐため、職員さんとともに譲渡事業に力を注いでいます。
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▲ 譲渡会
「栃木県動物愛護指導センター」の職員さんに聞きました!
同センターに勤務するのは栃木県庁の職員の皆さん。
配属されて仕事に携わっているうちに、動物愛護に対する気持や考え方に変化もあるようです。
同センター勤務4年目の阿部さんは、センターに配属される前は、正直なところ、殺処分や苦情のイメージがあり、あまり良い印象を抱けなかったようですが、実際に働いてみると明るい話題も多く、やりがいのある仕事と思えるようになったそうです。
犬や猫がそれぞれ新しい家庭に迎えられ、幸せそうにしている様子を教えてもらったときが本当に嬉しいと言います。
「譲渡が決まったり、その後の幸せなお話を聞いたりするのは嬉しいですが、本来はこのセンターに収容される犬や猫がいなくなり、新しい飼い主さんを募集する必要がなくなることが一番です。そのためには、現在動物を飼っている方に正しい飼い方を実践していただくことはもちろん、これから動物を飼おうと考えている方にも、動物の命を預かることがどういうことが、飼う前に家族全員でしっかりと考えていただくことが必要だと思います。」
また、勤務1年目の倉橋さんは、多くの県民から動物愛護に対する強い思いを受け取り、同センターがそれをつないで行くことが大切であると感じています。
「業務の中で人の意識を変えることは簡単ではないと実感していますが、譲渡を希望される方々とお話をしていると、「殺処分になる命を少しでも助けたい、そのために微力ではあるが何か出来ることをしたい」とおっしゃってくださる方がたくさんいらっしゃいます。
当センターは行政と県民の方が心を合わせて、動物と人とが共に幸せになる社会を作っていくことができるところだと感じています。」
同センターの業務は多岐に渡りますが、人と動物の共生する地域社会を目指し、職員の皆さんは日々奮闘しています。
「栃木県動物愛護指導センター」の所長さんに聞きました!
最後に、同センターの所長を務める増山さんにお話を伺いました。
『当センターは動物愛護精神の普及啓発と犬・猫の苦情相談対応の一元化を目的として設置され、25年が経過しました。
当時の犬・猫の収容数から比べると、近年は収容数、殺処分数ともに大幅に減少しています。
野良犬の捕獲により再生産する集団を小さくしてきたこと、飼い主の適正飼養の水準が向上したことなどが大きな理由と考えられます。
一方で、定期的に子犬譲渡会を開催できるわけですから、収容と殺処分を減らす道半ばです。
引き続き、所有明示の推進や不妊去勢手術の促進など「適正飼養の推進」と成犬や猫の「譲渡機会の拡大」を重点に取り組んでいく所存です。』
▲ 左から倉橋さん、増山所長、阿部さん。3人とも獣医師として勤務されています。
栃木県動物愛護指導センター
住所:栃木県宇都宮市今宮4-7-8
電話:028-684-5458
愛護館開館時間:午前10時から午後4時まで
愛護館休館日:月曜日(祝日は除く)、祝日の翌日、年末年始
事務所対応時間:平日午前8時30分~午後5時15分まで
URL :栃木県動物愛護指導センター