VOL.4 茨城県動物指導センター 編
「捨てられる命」をゼロにすることから「殺処分ゼロ」を達成したい!
捨て犬・ねこ問題は、私たち人間の問題。
官民一体となって、動物愛護と福祉の啓発活動に、大きな力を入れる施設。
JR笠間駅から車で5キロほどの静かな緑の中に位置する「茨城県動物指導センター」。
昭和54年に開設された広さ、774.2平米の施設は決して新しいとはいえませんが、収容動物を管理している動物棟は実に清潔に手入れされ、犬たちの部屋もオス部屋、メス部屋(咬む犬や、喧嘩をする犬などは個室)ときちんと区分され、犬たちの安全と安心が保たれています。
野犬の捕獲数が多いとされながら、収容されている多くの犬たちは首輪を装着したまま。
まだまだ迷子の犬や捨てられてしまったと思われる犬が多いようです。
そんな背景をうけて、当センターは「ここに動物が収容されなくなる日」を切実に願い、啓発活動に大きな力をいれています。
「どうすれば、捨てられる命がゼロになるのか――」
県民一人ひとりに考えてもらうための、当センターが取り組む活動をご紹介します。
目次
・「茨城県動物指導センター」のここがポイント
殺処分を減らして県民が犬や猫と幸せに暮らす社会に向けて殺処分ゼロプロジェクトを立ち上げ
・「茨城県動物指導センター」の守りたい、犬たちの命
毎月1回のペースで「子犬の譲渡会」を開催
「茨城県動物指導センター」のここがポイント
殺処分を減らして県民が犬や猫と幸せに暮らす社会に向けて
殺処分ゼロプロジェクトを立ち上げ
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▲ センター内にある犬の慰霊碑
平成28年度まで全国で、犬収容頭数及び、殺処分頭数が2位、3位と多かった茨城県。収容犬は捕獲された野良犬も多いですが、首輪がついている飼い犬も目立っていました。これらの背景を受けて茨城県は、動物愛護の啓発「茨城県犬猫殺処分ゼロを目指す条例」を制定し、殺処分を減らして県民が犬や猫と幸せに暮らす社会の現実に向けて行動を開始すると宣言。その条例を踏まえて「犬猫殺処分ゼロを目指すプロジェクト」を立ち上げました。
このプロジェクトは「殺処分ゼロを目指すための環境整備事業」と「譲渡犬猫サポート事業」の二本柱から成り立っています。そのひとつ、環境整備事業には今から私たちが参加できそうな取り組みが紹介されています。 (令和元年度の事業の公募は終了。来年度以降事業が継続できるかは未定です。また、事業に応募できるのは茨城県内在住であり茨城県内で事業に取り組む方のみとなります)
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▲ センターが発行している啓蒙チラシ
例えば、犬猫殺処分ゼロ推進活動支援事業では殺処分頭数の減少につながる取り組みを公募。審査会でそのアイデアが選定された場合には、その取り組みに対し、補助金が支払われます。
これは以前からあったNPO法人やボランティア活動を支援するための補助金制度をペット版に当てはめたユニークな取り組みで、県民からアイデアを募ることで県民自ら殺処分問題の解決を考え、発信し、広める効果を狙ったものです。
これまで選定されたアイデアは様々。
補助金の使途は適正飼養飼育を訴えるポスターの作成や、メッセージカード、映画上映会、高校生による啓発アニメーション動画の作成・配布、県内小学校における「命の授業」などがあります。
「どんなに受け皿(収容された犬・猫を譲渡する)を拡大しても、蛇口(捨てられる命)を閉めなければ、こぼれおちる命はなくなりません。我々職員だけでは限界がある。そういった意味で県民主体で自ら啓発活動に参加してくださるのは、大いに意義があることだと思います。結果は今すぐでなくても、長い目できっと収容される犬猫の数も減ってくるでしょう。」と、当センターの職員さん。また、職員さん自らも自分たちにしか担えない啓発活動に力を注いでいます。
▲ 平成29年度に行われたペット同行避難訓練の様子
その中のひとつが、親子参加型の施設見学会です。
見学会では、職員さんが捕獲、保護で管理収容されている動物棟に親子を案内し、茨城県の現状を説明して「ここに動物が入って来なくなるためにはどうすればいいか。」をそれぞれ考えてもらう機会をつくっています。
最初は、不安そうに行き場のない犬たちを見ている親子も、職員さんの話を聞き、現状を知ることで何が問題で犬たちはここにいなければならないのかに気づきます。
「最初はかわいそうとか、どうしてこんなにたくさんの犬が捨てられるのかと思って、びっくりしていましたが、その原因をつくっているのは私たち人間なんだということがはっきりと理解できました。」と見学に来たお母さん。
小学生の子どもは「捨てる人がいるからここに犬がいる。ひとりひとりがちゃんとかわいがれば、ここに入ってくる犬はゼロになる。」と自分たち人間が変わればこの動物棟に入る犬はいなくなることに自ら気づいてくれます。
そのためには、現状を知り「蛇口」を閉めることの大切さにみんなが気づくことが大切です。
蛇口をひねるのは人間の手。その手を「開く(命を捨てる)」方に使うのか、「閉める(命を護る)」方に使うのか、それを決めるのは私たち一人、一人の心です。
私たちは、どちらの心を持って生きた方が幸せでしょうか?
私たちの心次第で、ここに収容される命は激減するはず――
センターの職員さんたちは、日々、そのことを県民たちに投げかけています。
「茨城県動物指導センター」の守りたい、犬たちの命
自然の多い北関東では、野良犬や野良犬の子犬の捕獲数も多く、子犬の収容頭数は全体の4割(年間630頭)にも上ります。
子犬の収容数の多い動物愛護センターのほとんどはセンター主催で、子犬の譲渡会をおこなっていますが、当センターでは子犬の直接譲渡会は行っていません。譲渡会に出せばかわいい子犬は新しい飼い主さんを見つけやすいのも事実。しかし、かわいいからという理由だけで、命を預かる事はできません。
▲ 保護された動物棟の犬たち
▲ 保護された動物棟の犬たち
「子犬の世話は本当に大変です。安易な譲渡は再び安易な放棄につながる。子犬には基本的なしつけ、社会化など、多くの時間と知識が必要となるため一般譲渡は行わず、すべて当センターに登録している動物愛護ボランティアさんを仲介して、新しい飼い主さんを探していただいています。」と、当センター職員さん。
かわいいからと子犬を飼い始めても、世話ができず放棄する飼い主さんは後を絶ちません。その結果が、この動物棟に収容されている犬たちです。収容室では首輪をつけている犬も多く、飼育されていた形跡が見られます。
「まずは、ここに入ってくる犬をゼロにすることが一番の目標。そのためには、確実に最後まで大切に愛情を持って可愛がってくださる飼い主さんのもとへ譲渡することが大切です。
一時預かりをしているボランティアさんたちは新たな飼い主希望者さんの飼育環境の確認や面接をより個別に丁寧に行ってから譲渡するので、間違いのない譲渡先を見極めることができます。また、センターから早い段階で引き出してもらえることで子犬はより早く家庭環境になれることができ、社会化訓練もできます。センターでは一般家庭のような飼育環境は与えられないので、一時預かりボランティアさん経由の仲介譲渡は、子犬たちにとってもベストな方法と言えます。」
しかしながら、一時預かりはボランティアさんにとっても多くの負担がかかります。
そこで、当センターでは「犬猫殺処分ゼロを目指すプロジェクト」の二本柱のひとつ、
「譲渡犬猫サポート事業」で飼育費を一部補助することで、ボランティアさんの負担を軽くする支援もしています。
できることをできるところがやり、小さな命を救い、小さな命を繋ぐ―ー
現在、子犬はもちろんほとんどの成犬の譲渡もほぼボランティアさんによる仲介譲渡でボランティアさんと連携した活動は、確実に殺処分ゼロにむけて成果を上げています。
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▲保護犬舎に隣接するドッグラン
「茨城県動物指導センター」の守りたい、猫たちの命
当センターのもうひとつの大きな特徴として注目すべきが、猫の殺処分数です。
どこの動物愛護センターも、子ねこの収容数は全体の収容数の6割以上。
授乳が必要な幼齢の子ねこが多いため、命を繋げることは困難とされてきました。しかし、平成30年度の当センターでの猫の殺処分数は収容頭数1,515に対し、ゼロ(収容中の死亡などは除く)という結果。そこには、センター職員さんたちの命を繋ぐための大奮闘があったのです。
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▲ 子猫に授乳するセンター職員さん
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▲ 保護された子猫たち
子犬は登録ボランティアさんにお願いする代わり、幼齢の子ねこはセンター内で職員さんがシフトで面倒を見ることに――
「授乳が必要な幼齢の子ねこは、一般の方では面倒を見ることが難しいのです。
数時間ごとに授乳しなくてはならないため、お仕事をしている方には無理ですし、授乳にも知識や経験が必要なため、高い確率で命を繋ぐためには我々スタッフが自らお世話をするのが一番と考えました。」
しかし、春から秋には多くの幼齢猫が収容されるため職員さんたちは大忙し。センター長さん自らが授乳に参加することもしばしばです。
「今がお世話の限界・・・。猫が増えると、我々の手ではもうどうすることもできません。命を護るためにはこれ以上、収容される猫が増えないことが大前提となります。」と職員さんからは不安の声も。
県民の方を対象に幼齢子ねこの授乳をしてくれるミルクボランティアさんも募集しましたが、誰でもできる活動ではないだけに数もなかなか増えません。
それでも、猫の殺処分ゼロが達成できたのは、職員さんたちの日々の努力と命を護りたいという願い以外の何物でもないのです。
また、茨城県では地域猫活動推進事業を立ち上げ、不妊去勢手術(TNR)の手術代予算として年間1,320万円、約700頭分の助成金を確保。市町村と協力して飼い主のいない猫の対策も積極的に行っています。
茨城県のチェックポイント
小さな命を護りたい
当センターは、官民が上手に協力してできることをできる人が手を挙げ、命を護るシステムを作っています。
現在、当センターの登録ボランティアは68団体(うち個人登録22)で、そのうち35団体は県外で首都圏の団体が主です。
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▲ 掲示板では新しい家族となった犬たちを紹介
- 東京など都心部ではミックス犬がほとんどいないことから、茨城県のセンターに収容された「茨城犬」は都心部では人気です。
当センターでは、臨機応変にさまざまなニーズとマッチングさせることで命を守り抜く活動に積極的に取り組んでいます。
目指すは、「捨てられる命ゼロ」--
捨てられる命がなくなれば、殺処分は必要ありません。
そのためには、やはり県民一人ひとりの意識を変えることが一番の近道です。
当センターが啓発活動に力を入れるのには、そんな願いが込められているのです。
「茨城県動物指導センター」のボランティアさん
茨城県動物愛護推進員の一期生として、平成13年から推進員を務めているのは飯塚みどりさん。
茨城県が最も力を入れている動物愛護と福祉の啓発活動を主に活動しています。
飯塚さんはこれまでに「犬猫殺処分ゼロ推進活動支援事業」にも三度公募。審査で選定され、補助金を使って啓発ツールを作成。啓発活動を自身で積極的に行っています。
これまでに写真展パネル、啓発ポスターやメッセージカードなどを作り、譲渡会で配布、掲示しています。また、写真展は大型スーパーや図書館などで展示。小学校などでもポスターの掲示を呼びかけて子どもたちへの啓発にも力を入れています。
「これらの活動が、捨てられる命や殺処分される命のことを考えるきっかけになってくれればと思っています。パネル展は写真をいくつか展示するので、そこにいなくてもパネルを見れば何が問題で、私たちにできることは何かということがわかる仕組みです。」と飯塚さん。
同時に動物絵本の読み聞かせなどを、子ども病院、学校などでボランティアで行い幅広い啓発に力を注いでいます。
▲ 茨城県動物愛護推進員の飯塚みどりさん
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▲ 補助金で制作された啓発のメッセージカード
「茨城県動物指導センター」のセンター長、飯田明広さんに聞きました
▲ センター長の飯田明広さん
「殺処分ゼロと声を上げても、これ以上収容頭数が増えると対応がしきれなくなります。
事実、当センターでは幼齢ねこの命を繋ぐため職員10名ほどが交代で子猫の世話を行っていますが、これが業務の大きな負担になっています。昨年は何とかシフトをやりくりして猫の殺処分ゼロ(病気・衰弱・負傷などで死亡等を除く)を達成しましたが、これ以上は無理です。入ってくる収容頭数を減らすことしか、殺処分ゼロへの道はありません。」とセンター長の飯田さん。
しかも、ミルクやりは本来の業務ではないはず。命を救い、つなげたいと思う職員さんの思いが、他の業務の妨げになり負担を大きくしているのが現状です。
それらの負担を減らすには、やはり収容数を減らすこと。捨てられる命をなくすための啓発活動が重要だと飯田さんは強く訴えます。
「啓発は今日明日効果が出るものではありませんが、その成果は実を結ぶはず。
そう信じて、限られた受け皿の中で、我々職員は、目の前の小さな命を可能な限り繋いでいます。」