VOL.5 アニマル ハーモニー大阪
大阪府動物愛護管理センター 編
スローガンは、「ともに」ーー。
真の「共生」の意味を住民たちに伝え「人と動物との共生」が実現できる社会を目指す施設。
大阪府南阪奈道路「羽曳野インター」近くに位置する「アニマル ハーモニー大阪(大阪府動物愛護管理センター)」は、人と動物が共生できる社会の実現をめざす大阪府の拠点施設として2017年8月1日にオープン。
広さ9500平米の敷地内には、屋根の付いた収容犬専用の運動場やきれいに手入れされた芝生の広場(多目的広場)が併設され、延べ2500平米の二階建ての館内は、まるで図書館のようです。
収容された動物も一階は犬、二階は猫などと住み分けされていて、見学やイベント、譲渡の際の動線もばっちり。訪れる人はもちろん、動物の福祉にも考慮した作りとなっています。
その通り、当施設では「ともに」をモットーに、「ふれる」「まなぶ」「つなぐ」「まもる」を動物愛護と動物福祉の啓発にかかげています。
「人と動物の共生」という言葉が、当たり前のように、取り上げられる昨今ですが、言葉だけが先走り、その意味を深く考える人はまだまだ多くありません。
共に暮らすことは、自分(人)も相手(犬・猫)も、共に幸せになるということ。
真の「ともに」を、追及し続けるアニマル ハーモニー大阪の職員さんの活動をご紹介します。
目次
・「アニマル ハーモニー大阪」のここがポイント
10年後を見据えて、やるべきことを、しっかりとやるだけ
・「アニマル ハーモニー大阪」の守りたい小さな命
社会全体で殺処分ゼロをめざし、動物の返還と譲渡率の向上への取り組み
・「アニマル ハーモニー大阪」の繋ぎたい小さな命
インターネットを活用した人と動物を“つなぐ”マッチング事業
「アニマル ハーモニー大阪」のここがポイント
10年後を見据えて、やるべきことを、しっかりとやるだけ
2017年、新しい施設へと生まれ変わったアニマル ハーモニー大阪には多くの関係者が視察に訪れ、マスメディアに取り上げられることも多く、注目の的です。
周囲も「新しい施設でどんな新しい取り組みを行うのか」と心機一転、つい新しい事業に話題が集中しがちです。 しかし、当施設では、今までやってきたこと、そして今やるべきことを確実にこなすことが本当の意味での「共生」に繋がると確信し、地道な個別指導と啓発に最も力を注いでいます。
例えば、当施設の2018年度の犬の捕獲数は68頭でうち半数以上の35頭が返還。
返還されたということは、飼い主が放棄したのではなく、飼い犬が迷子になって保護されたケースであることを意味しています。飼い主のところへ戻れたのは大変喜ばしいことですが、逆を考えれば庭で繋いでいた犬のリードが切れて逃げた、リードに繋がないで離し飼いをされている犬が放浪していたなど飼養、飼育が適正ではないことを示唆しているのです。
「まずは、飼い主さんに、正しい犬の飼い方の基本を伝えること。一見小さなことのように思えますが、それこそが共生への第一歩」と所長の村山裕紀さん。
▲ お話を伺った所長の村山裕紀さん
ノーリードでの放し飼いは条例違反なので、もちろん指導の対象となりますが、他にも小さな子どもが大型犬を一人で散歩させているなど、事故やトラブルにつながると予想される場合も、きちんと相手の理解が得られるよう丁寧に個別指導を行います。
「犬猫との共生とは、犬や猫を飼っている人だけのことではなく、犬や猫が嫌いな人との共生でもあるのです。犬猫のトラブルで嫌な思いをする人をどう減らしていくのかは重要な課題。そのためには犬猫だけではなく地域活動全体を助成することも、我々の大きな役割です。」
犬猫に関するトラブルが減れば、犬猫が苦手な人も、やがて、温かい目で動物たちを見守ってくれるはずです。
まずは、今、目の前の課題を一つずつ解決していくことーー。
小さな課題がひとつ解決し、それが10となり100となり、その日々の積み重ねが本当の10年後、20年後の共生へとつながるのです。
「アニマル ハーモニー大阪」の守りたい小さな命
アニマルハーモニー大阪では、社会全体で殺処分がゼロとなることをめざすため、動物の返還と譲渡率の向上に積極的に取り組んでいます。
この10年間で、犬猫の殺処分数は、犬が95%減。猫も90%以上減りました。
収容頭数そのものが減ったことも大きな要因ですが、収容頭数が減れば、管理もしやすく譲渡への道は大きく開かれます。
▲ 常に清潔に保たれている収容室や診察室
2018年度、犬は収容頭数(返還された犬を除く)の約7割が譲渡。取り扱いが難しい犬に関してもセンターに登録している保護ボランティア団体で引き取ってもらい、そこである程度の時間をかけ慣らしてから譲渡してもらいます。
当施設では、収容動物を譲渡する方向に大きく舵を切っていますが、治療ができない、回復の見込みがない、激しい苦痛を伴っている場合などは、殺処分とします。命とは、息をしていればいいということではなく、この先に希望があること。
生き延びることで著しくQOL(クオリティー・オブ・ライフ)(※1)が下がると判断した場合の止む終えない処置として殺処分が残されています。
また、捕獲された野犬などで、専門のドッグトレーナーが訓練しても、人と暮らすことはできないと判断された犬なども殺処分対象となります。
殺処分ゼロに向けて「どんな犬でも譲渡する」と宣言することは簡単です。しかし、そのような犬を譲り受けた人はどうでしょうか。
飼育困難になるのがわかっている犬を他人に譲渡することは、飼育放棄や事故、様々なトラブルなど殺処分以上に大きな問題を生み出します。
形ばかりの「殺処分ゼロ」にとらわれていては、本来の「共生」は遠ざかってしまいます。
命を守ることは、その命を幸せにすること―ー。その命を幸せにすることで、人も幸せを感じることこそが真の「共生」です。
命のチャレンジに失敗は許されません。
言葉だけの「殺処分ゼロ」ではなく、真の共生を達成することで、結果的に殺処分がゼロとなる。そんな社会をめざし、職員さんたちは日々奮闘しています。
※1 QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは、生活の質を意味する言葉で、保護されている犬・猫たちが安全で清潔な場所で、栄養のある食事ときれいな水を与えられ、ストレスをためずに心穏やかに過ごすことを意味します。
「アニマル ハーモニー大阪」の繋ぎたい小さな命
アニマル ハーモニー大阪では、保護した犬・猫たちの命をできるだけ多くつなぐため収容動物の譲渡を積極的に行っています。当施設では譲渡会などは設けず、すべて個別で対応。
施設の閉庁日は年末年始のみで、仕事休みの土日でも気軽に足を運ぶことができます。
譲渡前には飼養する場所の確認をするため、職員による家庭訪問などがあり、その他、希望者は譲渡前講習会を受けることなどが必要となります。
以前は、65歳以上の希望者には譲渡は行っておりませんでしたが、2017年度からは年齢に関わらず、万一飼えなくなった場合の継続飼養の方法を含め最後まで飼うことができることを条件に高齢者への譲渡も行うこととしました。
犬と猫のフロアは別々になっていて、犬フロアでは、譲渡対象の犬のお部屋を一部公開し、譲渡犬の普段の様子をガラス越しに見れるよう工夫され、雨天用の運動場と芝生が敷かれた広々とした広場は、譲渡犬たちの運動不足の解消に役立っています。
▲ 新たな家族を待つ犬たち
▲ のびのび走り回れる雨天用運動場
猫フロアでは、運動不足にならないよう猫の室内飼育体験室に猫を交代で放し、キャットタワーがある自宅リビングのような雰囲気の中で、自由に遊ばせています。
すべての収容動物には個別のカルテが作成され、日々の健康状態が細かく記載。
職員さん同士の申し送りも毎日行われ、動物たちの管理に余念がありません。
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▲ 室内飼育体験室のキャットウォークで過ごす猫たち
また一階ロビー横の啓発展示コーナーには、譲渡されたペットたちのその後の幸せな暮らしぶりの写真が数多く展示されて、見ているだけで笑顔になります。
「“センターに収容されている動物は、殺処分される”というイメージを払しょくしたい。
そのために、譲渡にも力を入れているし、譲渡する際にはペットと譲渡希望者さんとのマッチングを大切にしています。二度とここに戻ってこないよう、今度こそ間違いなく幸せになれるよう、我々も必死です。」
そんな職員さんの思いを後押ししてくれるのが、施設の取り組みに賛同する人の「応援したい」という気持ちを反映した「大阪府動物愛護管理基金」です。
▲ 一階ロビー横の啓発展示コーナー
その基金を活用した事業のひとつが人と動物を“つなぐ”マッチング事業。
ペットを飼育できなくなった飼い主自らが新しい飼い主探しをするツール「インターネットマッチングサイト(府民同士の譲渡)」を作成して、命を繋ぐ窓口を広く提供しています。
そのほかにも「専門家のしつけによる譲渡推進事業」、「手厚い管理が必要な収容動物を救う事業」など当施設では「人と動物が共生できる社会実現に向けた取り組み」を行っています。
中でも忘れてはならないのが猫、特に子猫に対する対策です。
昨今、日本の動物愛護センターに収容される数の8割が猫で、そのまた8割が子猫と、実に子猫の収容率は全体の約64%にも上ります。
そのため、施設に収容される子猫問題は、日本全国どこの動物愛護センターでも最も大きな課題となっています。
▲ 子猫育成サポート事業
そこで、当施設では離乳期の子猫を譲渡するまでの6週間(猫が12週齢頃まで)預かってお世話をしてくれる「子猫育成サポート事業」を展開。子猫育成サポーターを募集して現在では17名が登録ボランティアとして、命をつなぐ役割を担っています。
サポーターをするには「事前講習会に参加する」「子猫を安全に送迎できること」「猫用のケージが自宅に設置できる」などの条件があり、当施設職員による事前のお宅訪問もあります。
サポーターが預かる猫は原則一頭ずつ。一頭の面倒が終われば、次の一頭と、複数の猫の世話を一度にサポーターに依頼することはありません。
このルールはサポーターが猫を大切に思うあまり、許容範囲以上の頭数を預かることを防ぐためです。猫が好きなサポーターはなるべく多くの命を救いたいと思うはず。しかし、その思いが先走って、人の生活が成り立たなくなっては「ともに」とは言えません。
ここではどんな取り組みにも「人と動物のともに」を念頭にルール作りをしています。
そのためには、サポーターを広く募集し、人数を増やすことが一番です。
子猫育成サポーターは今後も募集を増やす予定で、多くの人が新たに参加を希望しています。現在のサポーターもほとんどが継続を希望し、命を救う取り組みは府民の間で確実に広がっています。
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▲ サポーターさんにお預け中の子猫の様子
また当施設では、日本全国の多くの動物愛護センターが取り組んでいる「所有者がいない動物を減らす事業」にも力を注いでいます。ただ他と少し異なるのは「地域猫対策」そのものにかかわるのではなく、地域猫対策に取り組む地域の自治会等へのサポートを中心に行っていることです。
一般的に地域猫プロジェクトというのは、その地域の実情にあった仕組み作りが必要。その仕組みは地域ごとに微妙に異なるものです。そこにマニュアル化された方法を取り入れてもうまくいきません。共生とは、そこに住む人と動物とが互いに認め合った存在として幸せに暮らせることです。そのためには猫が好きな人、猫が嫌いな人その地域に住む人全体で、話し合い、相互理解を得て共生の仕組みを作っていかなくてはなりません。
その地域の仕組みはその地域の人たちがつくるもの。このため、府では、不妊去勢手術の支援の他、アドバイザーの派遣をする等、飼い主のいない猫の対策をサポートしていきます。地域の問題も地域の中の人たちで解決に導くことが必須と考えています。
「アニマル ハーモニー大阪」の所長、村山裕紀さんに聞きました
▲ アニマル ハーモニー
大阪所長の村山裕紀さん
最近、娘さんにセンターの猫を譲渡した村山さん。
村山さんは、今後の施設の課題についてこう語ってくれました。
「言いたいことはただ、ひとつです。“ちゃんと飼ってくれ!”それだけです。以前、老犬が捨てられており、ここに収容されて三日後に亡くなりました。
あと少し、世話をしてくれれば、その子は飼い主に看取られて天国に行くことができた……。最後まで飼ってくれれば……ただそれだけです。飼い主さんはこの子の命をどう思っていたのでしょうか……。
命を最後まで預かるという意識を育てるためには、子どもたちの教育にも力をいれなければなりません。
そのため学校への出前授業として「ともにクラス(動物なかよし教室)」などを行っています。モデル犬も同行し、子どもたちに犬の心臓の音をスピーカーを通して聞いてもらうんです。“犬も人間も一緒でしょう?こうして、みんな命がある。生きているんだ”って。こうした取り組みが、10年後に繋がり、本当の意味での人とペットの共生が実現するのだと思います。」
アニマル ハーモニー大阪のきれいに手入れされた敷地には、たわわに実をつけたオリーブの木が植えられていました。
職員さんたちが願いを込めて、植樹した木だと言います。
オリーブの花言葉は「平和」。
平和とは、希望であり、幸せに日々が過ごせるということーー。
様々な事情でここに来た動物たちが、セカンドチャンスを手に入れて幸せになれるという職員さんたちの思いがオリーブの木には込められているといいます。
こんな言葉があります。
“ 動物が幸せな社会は、きまって 人も幸せな社会なのです ”
人と動物が真の共生をなせることはまさに平和な世の中だということではないでしょうか。
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▲ 人と動物の共生を願って植樹したオリーブの木
大阪府動物愛護管理センター
(愛称:アニマル ハーモニー大阪)
住所:大阪府羽曳野市尺度53番地の4
電話:072-958-8212
Email : dobutsuaigokanri-c@sbox.pref.osaka.lg.jp
開館時間:午前9時から午後5時45分まで
(土・日・祝日は午前9時から午後5時30分まで)
休館日:年末年始のみ
URL :大阪府動物愛護管理センター