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動物愛護センターに行ってきました!

VOL.11 東京都動物愛護相談センター 編

人と動物との調和のとれた共生社会の実現を目指して!
都民、事業者、ボランティア・関係団体、区市町村、都が
それぞれの役割を果たしながら、互いに連携・協力して取組を進める

緑豊かな盧花恒春園を間近に望む、東京都動物愛護相談センター。
東京都は、平成30年度に犬・猫の殺処分ゼロを達成し、当センターは犬猫の引き取り、収容数とも全国と比較して大幅に少ない施設として知られています。

大切なのは、動物愛護の普及啓発と、当センターのみならず、都民、区市町村の窓口、関係者との連携。
縦割り業務ではなく、共に両手を繋ぎ、動物たちの命を繋ぐ、東京都動物愛護相談センターの取り組みをご紹介します。

東京都動物愛護相談センター
東京都動物愛護相談センター
動物愛護センターってどんなところ?

大都会で知られる首都、東京-。
令和元年度の犬の登録頭数は全国の615万頭に対し、東京都は51万頭。
実に全国の犬登録頭数の8%余りが都内で飼育されています。

それに対し、犬の引き取り・収容数は全国平均の11分の1以下という驚くべき少なさ。(平成28年度の全国の人口10万人当たりの引き取り・収容頭数は33頭。東京都の人口10万人当たりの引き取り・収容頭数は2.9頭)

この数字から東京都の犬の適正飼養・飼育の徹底ぶりがうかがえます。
平成28年に都が公表した「都民ファーストでつくる「新しい東京」~2020年に向けた実行プラン」では、平成31年度までに動物の殺処分をゼロとすることを目標に掲げ、引取数の減少や譲渡の拡大のための取組を推進した結果、目標より一年早い平成30年度に初めて殺処分ゼロを達成することができました。

殺処分ゼロを達成するためには、都民や多くの関係者の理解を得ながら、引取数の減少や適正な飼養管理、譲渡の促進に向けた総合的な取組を進めることが必要不可欠ですが、最も大切なのは収容される動物をいかに減らしていくかだと当センター所長の田島秀朗さんは言います。

今では、6割以上の飼い主がペットショップ等で犬を購入しています。このため、適正飼養の啓発(購入時の十分な説明)ができるペットショップを増やす事も大切です。

当センターでは、都独自の取組として、飼い主への適正飼養・終生飼養に係る普及啓発を推進するため、「飼う前に必ず確認すべき10のこと」(※1)を作成し、犬猫等販売事業者の方に対し、販売の際、相手方に行わなければならない説明事項に加え、本書面も交付して説明するよう働きかけています。

センター内にある動物慰霊碑

▲センター内にある動物慰霊碑

そのため「ペットは家族の一員」という意識が飼い始める時から都民に根付くことも大きなポイント。飼われているのは小型・中型犬が多く、「集合住宅が多い」という住宅事情もあり、室内飼育も9割に及んでいます。
収容される頭数が少なければ、収容後のケアも十分でき、譲渡への道はうんと広がります。結果、殺処分ゼロを継続することができるのです。

また、当センターは、災害時など有事にも備えています。
昨今では、新型コロナウィルス感染症により入院・宿泊療養が必要となった飼い主さんのペットについて、家族や友人等の預かり先が見つからない場合、当センターにおいて緊急的にペットの一時預かりを実施しています。

※1 同センター啓蒙活動「飼う前に必ず確認すべき10のこと」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/douso/dt_gyou/hannbai.files/10nokoto.pdf

東京都では、長年にわたる動物の適正飼養・終生飼養の普及啓発等により、犬の捕獲収容頭数の減少をはじめ、一定の成果が見られる一方、未だ猫に関する課題は多いとのことです。

都内では、猫の推定総数117万頭のうち、92万頭が屋内飼育。(平成29年度調べ)
「猫の完全室内飼育は、以前に比べてかなり定着してきましたが、問題となっているのは、推定15万頭の屋外飼育猫と、推定10万頭の飼い主のいない猫です」

これに対し東京都は、「飼い主のいない猫であっても、命あるもの。傷つけたり、苦しめたりすることがあってはならない。一方で、これらの猫によって、地域の生活環境が悪化しないよう猫の問題を地域の問題として住民が地域の実情に応じたルールを作り、合意と協力のもとに主体的に取り組むことが重要」と「飼い主のいない猫対策(地域猫)」の取り組みを積極的に開始しました。

地域猫活動ってなに?

具体的には、自治会等から地元の区市町村担当部署への相談等を契機として、不妊去勢手術や飼養管理等を行う取組に対して、区市町村からの申請に基づき、都から医療保健政策区市町村包括補助事業「飼い主のいない猫対策」により支援しており、令和元年度には44区市町村が実施しています。

「飼い主のいない猫対策は、猫が好きな人だけの問題ではなく、猫が嫌いな人も含め、そこに住む住民すべての理解があって、初めて解決できる問題。動物愛護の視点だけではなく環境問題としても考え、周囲に理解を求めていくことが大切です。そのため東京都では一般都民向けリーフレット(※2)やボランティアの活動用のガイドブックを作成・配布して、地域活動の啓発支援を行っています」

▲※2 都民向けリーフレット「猫の飼い方」

また当センターでは、平成29年度から、センターに収容された離乳前子猫を引き取って世話をするミルクボランティアの登録も開始。
現在40名を超える方々が登録し、小さな命のリレーを積極的に行うことで、殺処分ゼロの継続に繋げています。

そもそも、日本にいる猫は野生動物ではありません。飼われていた猫が不妊手術などをしないまま捨てられたり、自由に家と外を出入りして、繁殖したりした結果です。
ならば、その責任は人間にあるはず―。
「その命に対する責任を、地域で暮らすみんなで取りましょう!」というのが、「飼い主のいない猫対策」の本来の主旨だということを忘れてはなりません。

ミルクボランティア
ミルクボランティアってなに?

収容犬も収容猫も全国とくらべてダントツ少ない東京都。
ペットショップから犬猫を迎える飼い主さんが主流の中、昨今では保護犬・猫を家族として迎えることがトレンドになりつつあります。
しかし、収容数が少ない東京都のセンターで譲渡できる犬猫の数は多くありません。

そこでこのところ散見されるのが地方から「もと野犬」など「人慣れしていない犬」を譲り受け、逸走させてしまう、というケースです。
もと野犬は、ペットショップやブリーダーなどから迎えた子犬とは全く異なります。

警戒心が強く、地方の山間部で勝手気ままに生きてきただけに、大都会の住宅事情にもなじめず、人慣れも容易ではありません。もちろんこれらの諸事情を理解して迎えるなら何も問題はないのですが、「かわいそうだから」「保護犬ブームだから」「ミックス犬が欲しいから」と、安易な気持ちで迎えてしまうと、大変なことに。

「こういった犬が、飼い主にも、大都会の生活環境にも馴染めず、隙を見て逸走するケースが発生しています。犬に罪はないのですが、野犬は警戒心が強いので、保護するのも難しい。都会は人が多いので、咬傷事故につながるおそれがあり、また、交通量も多いので、犬が事故に遭遇する危険も高まる」とのことです。
世の中が「殺処分ゼロ」を掲げ、多くの命を譲渡に繋げることは素晴らしいことですが、個々の犬の事情を考え、それに見合った譲渡を推進することも「命を預かる責任」なのです。

また人口密度が高い都内では、散歩中やスーパーの入り口などで係留している飼い犬による咬傷事故をどう防ぐかも課題だと言います。
「人が密集していると飼い犬と他人との接触も多くなります。子どもが散歩中の犬を触ろうとして手を出して咬まれるケースなど、咬傷事故は、都内で年間300件以上報告されています。そのため、東京都では学校や児童館で出前授業を行い「犬との正しい接し方」を学ぶ、動物教室を低学年対象に行っています」

過去の調査によると、咬傷被害者の約二割が10歳未満の子供だったとのこと。
動物愛護を学ぶ前に、まずは「自分達と異なる動物とどう接すれば仲良くなれるのか」―。これは最も大切で初歩的な命の出前授業と言えるでしょう。

▲同センターが配布している啓蒙チラシ

日本全国で共通の課題となっている「多頭飼育崩壊」は、東京都でも大きな問題となっています。
適正飼養・飼育とは言えない飼育崩壊状態にいる犬・猫たちを救うのは簡単ではありません。なぜなら現在の日本で、そのような犬や猫は飼い主の「所有物」として扱われるからです。

「適正飼養がなされていないという理由で、罰金等を課すことができたとしても、所有物である犬猫を飼い主の同意なしで保護することはできません。ケースに応じて動物愛護管理部局と保健福祉や生活衛生部局等が連携して、飼い主さんと人間関係を構築していく中で、犬や猫を手放すよう説得するしか方法はありません」
例えば40匹猫を飼っている人がいたら、すべてを手放すよう説得するのではなく、不妊去勢手術の実施を条件に1,2頭手元に置くよう時間をかけて話し合い、合意形成を図ることもあるそうです。

多頭飼育崩壊ってなに?

ペットの多頭飼育問題の発生を予防するためには、早期に探知し、関係機関が連携して対応することが重要なため、都では地域で困難な状況にある人への相談や支援のつなぎ役を担う民生委員に対し、支部長会などを通じて、動物の不適正飼養を探知した場合、動物愛護管理部局等へ速やかに情報提供するよう協力を求めています。

多頭飼育の問題は「人対動物」ではなく「人対人」の問題。その問題に関わるすべての専門家が事情をよく理解し、協力して問題を解決するしか道はないのです。

当センターで所長を務める田島秀朗さん。
田島さんは、日々動物愛護業務と向き合う中で、一番伝えたいことは「無責任な飼い主をゼロ」にすることだと話してくださいました。

「動物とかかわりをもつ、動物を飼うということは、その命に対する厳粛な責任を負うということです。その覚悟なしに安易に動物を飼わないでほしい。
不適正飼養といっても、本来犬や猫に罪はありません。彼らは生きたいように生きようとしているだけです。しかし、動物が「家族の一員」としてだけではなく、「社会の一員」として地域の中に受け入れられるためには、飼い主が動物をその終生にわたり適正に飼養する責務を果たすことが重要です。そうすれば、動物との暮らしは、私たち人間にとって素晴らしいものとなり、何物にも代えがたい心の財産になるはずです」

▲所長の田島秀朗さん

▲所長の田島秀朗さん

また、田島さんは言葉を持たない「動物たち」と「わたしたち、人」との関わりをわかりやすく説明してくださいました。

「ことばを介した人間同士の意思疎通と異なり、人と動物との間には、どうしても取り除くことのできないフィルターがあるのではないでしょうか。この子はきっとこう思っているに違いないと飼い主が考えても、それはあくまでフィルターを通した飼い主の想像に過ぎません。
つい人は、動物の都合ではなく、人にとって都合のいい答えを導きがちです。そうならないために、フィルターを通して感じた動物からの“シグナル”を自分の都合のよいように解釈するのではなく、真に動物の立場に立ち、その動物の福祉に十分配慮した解釈をしてほしいのです」

例えば、散歩に行きたがらない犬を見て、「この子は散歩嫌いな犬」と解釈するのか「何かが原因で散歩に行きたくない」と解釈するのかで互いの信頼関係は変わります。
散歩が嫌いなのではなく、真夏の炎天下に飼い主が散歩に連れ出そうとしていないか―?体調が悪いのに、それを見抜けず散歩に連れ出そうとしていないか―?外出によるトラウマがあるのではないか―?
相手の立場を考えれば必ず思い当たる原因があり、必ず正しい答えが導けるはずです。

動物との暮らしは素晴らしい。
そのことをもう一度見つめ直してお互いのQOLを高めてほしいと田島さんは語ってくれました。

東京都動物愛護相談センター

住所:〒156-0056 東京都世田谷区八幡山2丁目9番11号

電話:03-3302-3507

URL :東京都動物愛護相談センター 東京都福祉保健局 (tokyo.lg.jp)

東京都動物愛護相談センター

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)

児童文学作家・特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会理事
主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
その数230カ所を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)
「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。

Q.動物愛護センターって、どんなところ?

A.動物愛護センターは全国の各都道府県ににある行政施設で、動物に関する以下のお仕事をしています。

●動物保護や捕獲のお仕事

様々な事情で家庭で飼えなくなった犬や猫の引き取りや、迷子犬を保護して収容します。また狂犬病予防法に基づき野犬の捕獲収容などをしています。

●動物愛護のお仕事

人と動物が仲良く暮らすための情報提供やアドバイス、イベント、啓発などを行っています。
その他、引き取った犬や猫に新しい飼い主さんを探す譲渡活動を行っています。

●動物管理のお仕事

引き取った犬・猫や捕獲した野犬等の中で譲渡できない犬・猫の殺処分を行っているところもあります。

 
●動物取扱対策のお仕事

動物が適正飼養・飼育されているか(虐待などがないか、給餌は適正にされているか、飼育環境に問題はないか、など)を確認し、問題があれば指導を行います。
また動物を飼養・飼育している施設の管理状況の指導も行います。

●その他

各都道府県の動物愛護センターは災害時には動物救援本部として被災したペットの保護等、救援センターの役割も果たします。

Q.地域猫活動ってなに?

A.地域猫とは、住まいの地域にいる「飼い主のいない猫」を地域で面倒をみる取り組みのことをいいます。

給餌やトイレの世話だけではなく、これ以上繁殖をしないようTNR(保護して、不妊手術をして、また元の場所に戻す)を行います。
猫の保護や手術のための動物病院までの運搬は、主に地域のボランティアさんが行います。手術をした猫はその印として耳の先をカット。(オスは右耳、メスは左耳)

手術のあとはボランティアさんが猫を病院から運搬して元いた場所に戻します。その後は、給餌やトイレの掃除などを行い、地域の猫として一代限りの命を見守る取り組みです。

Q.ミルクボランティアってなに?

A.生まれたばかりの赤ちゃん猫を離乳まで預かってお世話をする授乳専門のボランティアさんのことです。

生まれたばかりの赤ちゃんねこは、一日数回にわけてミルクを与えなくてはならず、知識も必要で、日中家にいることや、留守がないことなどの条件があるため、やりたいと思っても誰もができるボランティアさんではありません。

子ねこは、授乳期が終われば、次の預かりボランティアさんにバトンタッチしたり、保護された動物愛護センターに戻して、譲渡先を見つけます。
現在、全国の動物愛護センターで殺処分される猫の多くが子ねこであるため、子ねこが救われれば、殺処分数も激減することになります。

Q.多頭飼育崩壊とは?

A.多頭飼育崩壊(たとうしいくほうかい)とは、ペットの動物を多数飼育した飼い主が、無秩序な飼い方で、不妊去勢をせず、異常繁殖の末、飼育不可能となる現象 。

英語ではアニマルホーディング(Animal Hoarding)といい、過剰多頭飼育者のことをアニマルホーダー(Animal Hoarder)という 。

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