VOL.19 名古屋市動物愛護センター編
未来に向けての目標は「収容される犬猫ゼロ」!
飼い主さんに寄り添った飼育支援と、幅広い受け皿で、殺処分ゼロへ大きく舵を切る!
昭和60年9月、動物愛護と適正飼育の普及啓発を目的とした「愛護館」を有する施設として開所した名古屋市動物愛護センター。
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▲名古屋市動物愛護センター愛護館
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▲犬舎外観と広場
以来30年以上、他の自治体と同じように管理棟では、多くの犬猫が殺処分されてきましたが、動物福祉の向上とともに、平成28年度に犬の殺処分ゼロを達成。令和元年度には、猫の理由なき殺処分ゼロを達成して現在も継続中です。(*重篤な病や治療の見込みのない動物は除く)
さらに、令和2年3月に、殺処分機を撤去し、その空きスペースを動物たちの飼育スペースとして拡大して、命を繋ぐ保護部屋として活用しています。
同センターのすごいところは、飼い主さんのサポート体制や収容動物への支援が万全なこと。
同センターが、「人とペットとの共生」に向けて奮闘する、具体的な取り組みについてご紹介します。
目次
・名古屋市動物愛護センターが込めた「成猫譲渡」への思い
新たな猫施設「にゃごラーレ」で、さらなる成猫譲渡の推進を目指す!
名古屋市動物愛護センターのここがポイント
JR名古屋駅から車で10数キロ、猫洞通りに面した自然豊かな平和公園内に位置する名古屋市動物愛護センター。
四方を緑に囲まれた8,592㎡の敷地に建つ愛護館では、開所当時から、動物愛護の拠点として、愛護教室や啓発活動に大きな力を注いできました。
その結果、この15年で犬猫の収容頭数は犬が10分の1以下、猫が5分の1以下。令和3年度には猫の収容頭数が初めて1,000頭以下となり、殺処分ゼロに向けて前進を続けています。
令和4年度にセンターに収容された犬猫の数は、犬62頭、猫が938頭。目立つのは、飼い主がいない猫が生んだ幼齢猫の収容で、猫の収容数の約半数と圧倒的な数を占めています。
▲犬舎の犬
これらの課題を解決するために欠かせないことの一つが、飼い主のいない猫をこれ以上増やさないための「地域猫活動」をはじめとする「野良猫対策事業」、ふたつ目が、動物愛護と動物福祉の視点から、収容された子猫をはじめとする「譲渡事業」、そして、最も大切なのは、これから犬や猫を飼いたいと思っている人や、飼い主さんが、優良な飼い主さんとなるための「動物愛護啓発事業」です。
また名古屋市の「人とペットの共生」への取り組みは、ペットが好きな人に対してだけではありません。
犬猫に迷惑を感じている市民の割合は3割を超えているという調査※1をもとに問題点を洗い出し、誰もが快適に暮らせるよう常に改善に努めています。
※1 「名古屋市人とペットの共生推進プラン」
https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000126488.html
名古屋市動物愛護センターの課題解決への取り組み
現在、名古屋市動物愛護センターで課題のひとつになっているのは、他の自治体同様、多くの幼齢猫の収容です。
同センターにおける令和4年度の幼齢猫の収容数は、460頭。
他の多くの自治体では、幼齢猫のセンター収容と同時に動物愛護センターが、ミルクボランティアさんに連絡し、手分けして手のかかる幼齢猫の保護をお願いしますが、同センターでは、収容された幼齢猫すべてを、職員さんが一丸となって面倒を見ます。
猫は体調を崩しやすいため、きめ細やかな体調管理が必要です。職員さんらが1日数回ミルクを与えることも含め、すべて世話をして健康状態を観察するのです。
中にはへその緒がついたままの子猫など、母猫がいなければ助けることが難しい子猫たちもいますが、どんなに厳しい状態でも、世話をあきらめることはありません。
▲猫とふれあう昜田係長
こうして無事、成長した子猫の多くが、同センターの譲渡ボランティアさんに譲渡され、生後2か月頃まで育てられます。その後、譲渡会などで新しい飼い主さんを探し、譲渡します。
ほとんどの子猫は、飼い主のいない猫から生まれた子猫なので、「TNR活動」や「地域猫活動」が根付き、野良猫そのものが減って行けば、今後は徐々に幼齢猫の収容が減っていくことでしょう。
また、同センターで現在解決すべき一番の課題となっているのが、「成猫の譲渡」です。
成猫の多くは、多頭飼育崩壊や様々な事情を抱えて引き取り依頼を受け収容された猫たち。人馴れしていない猫も多く、譲渡も一筋縄ではいきません。
当然、長期収容となる猫も多く、成猫譲渡の推進は、同センターが担う大きな役割となっています。
名古屋市動物愛護センターが込めた「成猫譲渡」への思い
新たな猫施設「にゃごラーレ」で、さらなる成猫譲渡の推進を目指す!
同センターにおける引き取り成猫の数は292頭(令和4年度)。
この数字には昨今、社会問題ともいえる多頭飼育崩壊の猫も含まれています。
多頭飼育崩壊の猫たちは、飼育されていたにも関わらず、社会化ができていない猫が多く、譲渡までの道のりは極めて困難です。
そうなると、センター内にいる日数が長くなるため、収容スペースの拡大は必須です。
これらの問題を受けて、名古屋市では、平成30年6月に発生した多頭飼育崩壊の44頭の猫の引き取りをきっかけに「人とペットの共生推進プラン」を策定し、プランの中に犬猫の収容スペースの拡大を掲げました。
こうして同センター敷地内に令和4年6月に新たに設置したのが、猫の飼育施設「にゃごラーレ」です。
「にゃごラーレ」は、イタリア語で猫が鳴く「Miagolare(ミャゴラーレ)」と、「なごや」を掛け合わせ命名。同施設には飼育室が7部屋あり、最大収容数は160頭です。
最も注目すべき点は、施設内の馴化部屋です。これは、人馴れしていない猫を職員さんたちが徐々に馴らして「人のことが好きな猫」にするためのトレーニングをする場所。
トレーニングと言っても、躾をするわけではなく、職員さんからおやつをもらったり、声をかけてもらったりすることで「人は怖くないよ!人と一緒にいると楽しいよ!」とわかってもらうための「社会化トレーニング」なのです。
多頭飼育の家からここにやってきた猫のタカミちゃんは、収容当時、職員さんを見ただけで、シャーシャー言いながら猫パンチを繰り出していましたが、馴化部屋に移って、トレーニングを続けた結果、驚くほど穏やかな猫になったと言います。
タカミちゃんが、新しい飼い主さんと暮らせる日もそう遠くはないでしょう。
▲猫施設「にゃごラーレ」の猫(タカミ)
その馴化トレーニングも、職員総出で行います。
猫たちの健康状態や変化もその都度、きめ細かく記録され、翌日への引継ぎにも余念がありません。
「子猫の多くが譲渡ボランティア経由で、譲渡会等で譲渡されるので、我々センターで、最も力を入れているのは成猫の譲渡です。センターからの成猫の譲渡を増やすことが今一番の課題です。センターでの成猫の譲渡会は年5回開催していますが、それ以外でも愛護館がオープンしている時には、いつでも譲渡に対応できるよう体制を整えています」
そう語ってくれたのは、センター職員で獣医師の昜田景子さん。
猫たちが新しい家族のもとへいくため大切なのは、「人のことが好きな猫」になるための「馴化」です。馴化トレーニングには、時間が必要です。
収容時間が長期にわたるため、猫の飼養施設の確保は、命のバトンを継ぐためには、欠かせないと言えるでしょう。
「にゃごラーレ」は、そんな職員さんたち、そして、それを心から応援してくれる市民の皆さんの「命をつなぐ」思いが込められた施設なのです。
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▲猫施設「にゃごラーレ」の室内
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▲猫施設「にゃごラーレ」の猫
名古屋市動物愛護センター・ふるさと納税制度の活用で「殺処分ゼロ」への思いを繋ぐ!
名古屋市動物愛護センターでは、様々な問題行動や病気・高齢などが理由で、譲渡に至らず、センター内で寿命を全うする犬たちがいます。
中には数年に渡りセンターで暮らす犬もいますが、そのすべての命と真摯に向き合い、散歩を含む日ごろのお世話や病気の治療等をセンター内で行っています。
犬たちがいる犬舎は、冷暖房も完備して、明るく、掃除も驚くほど行き届いていて匂いも全くありません。
1頭当たりのスペースも広々としていて、日当たりも良く「犬たちが快適に過ごせるように」という職員さんたちの思いがひしひしと伝わってきます。
収容されて数年経つダイゴくんは、温かな日ざしの中で、職員さんにブラッシングをしてもらいながら、気持ちよさそうに目を細めています。
▲施設の外でスタッフにブラッシングされるダイゴ
ここにいる犬たちの中には、問題行動や高齢などが理由で、センター内で寿命を終えることもしばしばです。
令和4年度には、4年4か月もの間、センターで飼育していたハイウェイくんは推定14歳4か月で、もう1頭のジェッツくんは5年2か月をセンターで過ごし、亡くなりました。
ジェッツくんは攻撃性がひどく、飼い主さんが持ち込んだ犬です。その後、職員さんの懸命なトレーニングで触ることすら不可能だったジェッツくんは、シャンプーやトリミンングができるまで穏やかになりましたが、譲渡には至らず、最期はセンターの職員さんたちに看取られ天国に旅立っていったのです。
この2頭のように、問題行動があっても、殺処分という手段をとらず、数年もの間、終生飼養を続けるためには、どうしても費用がかかります。その費用に充てられているのが「ふるさと納税制度」を活用した「目指せ殺処分ゼロ!犬猫サポート寄附金」※2の一部です。
令和4年度の寄附の総額は77,823,144円となりました。
寄附金は、同センター「犬猫の飼育代や治療費」の他、「野良猫の避妊去勢手術」「譲渡ボランティアさんへの支援」「譲渡会の開催」「動物愛護センターの犬猫の避妊去勢手術代」「譲渡犬猫の飼い主支援」「動物愛護の普及啓発」に活用され、寄附をした支援者からも温かなお手紙が続々届きます。
そのすべてに、「ひとつでも多くの命を繋ぎたい」「不幸な命がゼロになってほしい」という切なる願いが込められています。
同センターの職員さんが、どれだけ忙しくても、成猫の馴化に力を注ぎ、問題行動のある犬たちにも愛情を持って接することができるのは、支援者からの願いを一身に背負い、職員さんたちへのエールという支えがあってのことなのです。
※2 名古屋市「目指せ殺処分ゼロ!犬猫サポート寄附金」
https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000081451.html
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▲愛護センターの卒業ねこ掲示板
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▲犬舎の岳(ガク)お散歩ルールの掲示板
名古屋市動物愛護センターの職員さんに聞きました!
名古屋市動物愛護センター・愛護企画係長で獣医師の昜田景子さん。
昜田さんは、愛護館で譲渡、譲渡動物の飼養管理・治療などを担っている職員さんです。
同センターは、13名の獣医師含め、約40名体制で業務に当たっています。
「今、一番、力を入れているのはセンターにいる成猫の譲渡ですね。令和4年度には11件の多頭飼育崩壊があり、約200頭の猫を収容しました。多頭飼育崩壊等で収容された成猫は、警戒心が強く、怖がりな性格の猫や攻撃的な性格の猫も多いため、譲渡できるまでに時間がかかります。また、多頭飼育崩壊が起きる背景には、飼主さんが問題をかかえている場合もあり、人間の福祉関係部署とも連携していく必要があります。
犬猫の適正飼養の徹底のためには同時に啓発活動にも力を入れなくてはなりません。我々が目指しているのは、収容される犬猫がいなくなる日がくることです」
▲係長 昜田景子さん
「殺処分ゼロ」のために、愛護センターに協力していただけるボランティアさんを増やしたり、飼養施設を拡大するなど受け皿を広げることはもちろん大切です。
しかし、受け皿をどれだけ広げても、根本的な問題は解決できません。
昜田さんが言うように、「動物愛護センターに収容される犬猫がゼロ」になることこそが、名古屋市が掲げている真の「人とペットの共生」と言えるのではないでしょうか―?
昜田さんたち職員さんは、その日を目指して一丸となり、今日も犬猫たちのために業務に励んでいます。
ペットに係る市民の問題をさらに幅広く手厚くサポートしています!
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ペット飼い主への支援
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地域猫活動の推進
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適正飼養・動物愛護の
普及啓発 -
保護犬猫の譲渡会
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ペット飼い主への支援
- 飼い続けることができない
- ペットのことで近所から苦情があった
- 子ネコが生まれてしまったので飼い主を探したい
このような飼い主からの相談に応じて、アドバイスや、飼い主探しの手伝い、また悩みや相談に応じて「ペットパートナーシップ制度」※3に登録している市内のペット事業者を紹介するなどサービスを行っています。
ペットパートナーシップ制度は、飼い主さんが困りごとや悩みを解決するためのサービスを提供。ペットシッター、ペットホテル、しつけ、老犬老猫ホーム、不動産、弁護士などの事業団体や個人が、パートナーシップ事業所として登録しています。 -
地域猫活動の推進
これから地域猫活動を開始したいと思っている人たちへの活動グループづくりや地域の合意形成に関する助言、自治会等での説明、 地域猫の無料避妊去勢手術券の交付、猫の保護器の貸し出しなど必要に応じた支援を行います。
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適正飼養・動物愛護の普及啓発
希望する学校や施設等に出向いて「いのちの教室」「動物とのふれあい教室」や高齢者を対象とした「終生飼育普及教室」また「ペットの防災教室」等を開催します。
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保護犬猫の譲渡会
名古屋市動物愛護センターに登録している70(個人・団体)のボランティアさんが保護している犬猫の譲渡会を定期的に開催し、飼い主さん探しのお手伝いをします。
名古屋市人とペットの共生サポートセンター
https://dog-cat-support.nagoya/
※3 なごやペットパートナーシップ制度
https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000159844.html
名古屋市動物愛護センター
住所:〒464-0022 名古屋市千種区平和公園二丁目106番地
電話:052-762-0380
URL :https://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/15-7-2-0-0-0-0-0-0-0.html
取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)
児童文学作家/特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会理事/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事
主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
その数230カ所を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。
公式HP:今西乃子ホームページ
YouTube:キラキラ未来チャンネル