役に立ったらシェア!

動物医療グリーフケアから学ぶ猫とのハッピーライフのヒント

第2回

人とペットの生活に生まれる「グリーフ」

動物医療グリーフケアアドバイザー 獣医師 阿部 美奈子先生

お話し

動物医療グリーフケアアドバイザー
獣医師 阿部 美奈子先生

ペットや飼い主さんの「心」を 元気にする獣医師として「動物医療グリーフケア」を実践しています。現在はマレーシアに滞在しながら毎月、日本と往復し全国の動物病院での診療及び各種セミナー活動に力を注いでいます。

1.愛するがゆえに生まれる「グリーフ」

人にとって「グリーフ・悲嘆」は、とても自然なこと。自分にとって大切な対象を喪失、または喪失するかもしれないと感じたときに誰にでも現れる、心と体の自然な反応です。
「大切」な対象は人によって違います。
例えば、夫や妻、子ども、両親や兄弟のような家族、親友や仲間、恋人のような「人」。犬や猫などの「ペット」。食べる、動く、寝る、トイレの自由も生きていく上でとても大切な行動であり「尊厳」です。
家、学校、会社、故郷のような「場所」。自然や安全社会などの「環境」。さらには手紙、お守り、ぬいぐるみ、貯金など目に見える「モノ」。仕事、趣味、ペットの世話、活動、地位、成 績、プライド、目的、自信、期待、信頼など目に見えない「気持ちや役割」 。また電気や水も重要ですね。
それから「自分自身」や自分はこうあるべきという「自己理想像」も否定されたり傷つけられた場合、強いグリーフを体験します。

このように考えると、私たちの身の回りは「大切な対象」であふれており、ペットと出会い笑顔で続けてきた「当たり前の日常」そのものが「大切な宝物」だと気づくことが出来ます。それゆえに、ペットが自分にとって大切であればあるほど、ペットがいつもと違う表情や行動を見せたとき「当たり前の日常の喪失」が起こるために、ペットライフに大きなグリーフが生まれるのです。グリーフは愛するがゆえに生まれる自然な反応なのです。

出会いは「必然」の「奇跡」

2.ペットが感じる「グリーフ」

ペットもグリーフを感じるのでしょうか?もちろん感じます。
ここでは愛犬の目から景色を眺めてみましょう。愛犬にとってオンリーワンの名前、食べる、動く、寝る、トイレなどが安全に守られていることは、愛犬がペットとして生きていく上での尊厳と考えます。
愛犬にとって名前やニックネームを呼ぶ聞きなれた「声」、自分に向けられる「笑顔」、食事、散歩、ブラッシング、見送りや出迎えなど「習慣や生活リズム」、おもちゃで遊んだり一緒にテレビを見る人との「リラックスする時間」「安眠できる居場所」などがそばにある「当たり前の日常」は大切な宝物です。
この住み慣れた「お家=ホーム」は愛犬が生きる上で一番大切な「安全基地=テリトリー」なのです。

愛犬は人との間で毎日繰り返されてきたコミュニケーションを言葉の意味ではなく言葉の響き、人の声のトーン、話し方などの表情からメッセージを受け取ってきました。それゆえにそばにいる人がグリーフを抱え、その日常に変化が起きた時、愛犬はいつもとは違う違和感から不安や恐怖、緊張感を高めてしまうのです。
動物医療グリーフケアではこれらの心情を「愛犬のグリーフ」と考えています。

ペットが感じる「グリーフ」

3.ペットの幸せは人の幸せで成り立っている

人はペットが自分にとって大切な存在だからこそ、当たり前の幸せな日常を失ってしまう未来を想像するだけで、不安や恐怖を感じます。これを「予期グリーフ」と言います。
病気が治らないのではないか、いつかこのコがいなくなったらどうしよう…などこの先の喪失を想像して怖くなります。このように予期によって生まれるグリーフは人だけのものでペットにはありません。
ペットはどんなときも自分の「生」に誠実、困難があっても受け入れながらまっすぐに生きていきます。これは人には真似できない才能ですね!

たとえば眼球摘出により視力を失うことになっても、痛みがない生活にさえなれば、自分のペースで適応していきます。視力以外の優れた感覚、耳で音を聞き分け、匂いで場所を確認し、足裏のパッドからたくさんの情報を得ることで、これまでのように歩けるようになるのです。人から見るとまるで見えているかと錯覚するくらい、素晴らしい能力を持っています。
もし人がペットを見て「かわいそうに…」「この先どうなるのだろう」と不安になり「目が見えないなんて不運すぎる」とグリーフを抱えて沈んだ声でペットに話しかけるとどうでしょうか。
いつもの大好きな家族が悲しい声をしている。明るく呼びかけてくれた名前も「大丈夫??」に変わってしまった。
「危ない!」「だめだめ、そっちに行くのは」と注意されて、自由に動くこともできない。ペットの毎日は今まで送ってきた「当たり前の日常」では無くなります。
しかも、ペットにはなぜそうなってしまったのか理由がわからないために、いつもと違う声のトーンや話し方から、ドキッとして緊張を高めてしまい「ペットのグリーフ」が生まれます。

ハッピーライフは動物医療グリーフケアとともに。うちのコに出会えた幸せに感謝。

人にグリーフが起こった時、ペットの当たり前の日常が脅かされ、それが「ペットのグリーフ」につながります。人とペットにとって宝物である「当たり前の日常」「安全なホーム」を守っていくことがハッピーライフを続けるヒントです。日常の中で起こる様々なグリーフを上手く受け止め、どんなときもペットの心を元気にする方法を、次回以降詳しくお伝えします。

4.出会いStory 亡くなったコから出会いのプレゼント

友だちの付き添いで行った保護シェルター。犬を飼うつもりのまったくなかった平川さん(仮名)でしたが出会いが訪れます。
痩せ細り毛玉がいっぱい、犬種もわからないグレー色の小型犬が目の前にいました。廃業したブリーダーから保護されたそのコは、平川さんを見てゆっくり尻尾を振ったのです。
その姿にこのコを守りたい…と強く感じ、気づくと抱き上げていました。帰り道、サロンで毛玉を取りカットしてもらうと可愛いシュナウザーに。

亡くなったコから出会いのプレゼント

実は大学生のころ、ペットロスを体験した平川さんは犬を飼うことができなかったのです。ラブと名付けたこのコはシェルターで緊張していた姿とは違い、ずっと前からいたかのようにリラックス。亡くなったコと同じように後を付いてくる姿に驚きながら、自然と声を出して笑っていました。こんなふうに声を出して笑うのは久しぶり。
ラブちゃんと出会ってからは体調も良くなり、時々必要だった睡眠剤も要らなくなったのです。
きっと亡くなった先住犬が大好きな平川さんのもとにラブちゃんを連れてきてくれたのですね。

プロフィール