ペットのグリーフケアができるのは家族
目次
1.ペットのグリーフケアができるのは家族
ペットは出会った時から知っている家族の表情が変化する時、その理由が分からないゆえに「どうしたのかな?」「なんだかドキドキする」「不安になってきた」という気持ちが強くなります。このように「安全感・当たり前の日常」が喪失することでペットのグリーフが生まれてしまうのです。
ペットとの当たり前の日常に変化が起こったことで生まれるグリーフに対しどのように受け止め、向き合うことが必要なのか。どんな時でもペットの生活を安全に守っていくために、身近に存在するペットのグリーフについて具体的にお話ししながら、その対処方法について説明していきます。
グリーフを抱えた変化
グリーフを抱えた際の変化をみてみましょう。
ペットも人と同じようにグリーフを感じることで表情や行動、体調に変化が現れます。
グリーフは愛犬が深刻な病気になってから生まれるようなイメージをお持ちの方も多いと思います。しかし、愛犬が健康な頃から身近な日常生活の中にもグリーフは生まれています。
まずはどのようなことが愛犬にとってグリーフになるのか考えてみましょう。
愛犬にとって「当たり前の日常は宝物」という視点がとても大切になります。
愛犬のお気に入りや喜ぶこと、得意なことはどんなことでしょうか。ホッとして、リラックスしているのはどんな時でしょうか。
「人、同居のペット、近所の友だち、食事やおやつ、遊び、散歩、ドライブ、ふれあい、トイレ」など喜んだりリラックスできる時間があるでしょう。大好きな人に名前を呼ばれ褒めてもらえると、とってもうれしくてホッとしますね。
このような愛犬にとってうれしいことが減ったり無くなってしまった時に「宝物の喪失」が起こるのです。愛犬の目から景色を眺めるイメージで想像してみましょう。
2.例えば「大好きな人がいなくなる・一緒に生活した仲間がいなくなる」といったグリーフの原因には
以下のような「人の日常の変化」が考えられます。
- ・お母さんが新しく仕事や趣味を始める
- ・子供の部活や合宿、塾など
- ・子供の進学、就職、結婚などで家を離れる
- ・旅行
- ・おじいちゃんやおばあちゃんがデイケアサービスに行く
- ・家族の病気、通院、入院 家族との死別
- ・愛犬自身または同居ペットの病気、通院、入院 トリミング 仲間との死別
など人にとっては当たり前の出来事でも、愛犬にとっては理由が分らない変化が日常には溢れています。
この変化が愛犬にとっては「大好きな人がいなくなる・一緒に生活した仲間がいなくなる」といったグリーフになります。
このような場合に、愛犬のグリーフをケアするにはどのような方法があるでしょうか?
- ・愛犬のそばに大好きな人の匂いや感触のある衣類やタオル、ブランケットなどを置く
- ・大好きな部屋はそのまま保ち、好きな時に出入りできるようにドアを開けておく
- ・家にいる家族が愛犬の名前を呼びながら笑顔でいっぱい褒める
- ・電話やオンラインなどで顔を見せたり声を聞かせる
- ・愛犬の好きな食べ物を食事やご褒美で与える(消化の良い食材)
- ・トイレを失敗した場合でもグリーフに共感して決して怒らない
- ・仲間と一緒に使っていたベッドやタオル、クッションなどのアイテムを愛犬のそばに置く
- ・可能であれば通院には2頭一緒に連れていく
- ・治療や入院環境に家から愛犬がホッとできるアイテムを持参する
- ・面会する時は名前を呼び笑顔で褒める
- ・リラックスできるように好きな場所を撫でたり自分の膝に乗せる、抱っこする
- など愛犬の好き=宝物を大切にする視点で考えるといろいろ思い付きます。
3.愛犬が、病気や体調の制限から「散歩に行かない」生活になったら・・・?
人の目線では「散歩」という行動がなくなるだけだと思うかもしれません。
しかし「散歩に行かない生活」で愛犬が失うものは「散歩」という行動だけではないのです。
愛犬が失うもの
- ・散歩に出るときの興奮、喜び
- ・大好きな人とのアイコンタクト、コミュニケーション
- ・室内とは違ういつもの見慣れた外の景色 日光浴 風を感じる 地面や草の感触や匂い
- ・トイレの場所、情報収集、刺激
- ・体の筋肉を保つ エクササイズ
- ・お友だち(犬)や人との交流
- ・モチベーションや自信の向上
など日常の楽しみ=宝物が奪われてしまいます。そしてこのことが「当たり前の日常の喪失=グリーフ」につながるのです。
このような場合には、どうすればグリーフをケアできるでしょうか?
例えば病気で散歩を制限されたとしても愛犬がいつものように散歩を待っている時には「○○ちゃん、散歩に行こう!」といつものように声をかけ、短い散歩をするのもひとつです。
痛みで動きたくない気持ちの時は、散歩に行きたいという表情は見せません。痛みがなく調子が良い状態であれば、愛犬の歩調に合わせながらアイコンタクトや途中で抱っこをしたり、バギーに乗せていつものコースを歩くのも良いですね。
お気に入りの場所に着いたら地面や草むらに降ろしてあげましょう。匂いを嗅ぎ風を感じ、トイレをして愛犬が自由に行動する姿を見ながら「○○ちゃん、気持ちいいね」「○○ちゃん、おしっこできたね、えらいね」と笑顔で褒めたり、「お家に帰ったら美味しいごはんを食べようね」と声をかけることで、愛犬はいつもの日常を続けることができます。
このように愛犬の目から想像してみると様々なグリーフが見えてきます。愛犬のためにと思ったことでも、愛犬の目線に立ってみると、当たり前の日常の中にたくさんあった宝物を失っていることに気付くでしょう。
愛犬にとって大事な宝物をできるだけ守っていくために、いろいろなアイデアを考えることができるのは個性を一番よく知っている家族です。愛犬はグリーフケアをしてもらうことで、どんな時も自信を失わず勇気とともにハッピーライフを続けることができるでしょう。
次回ではペットが病気になった時に、飼い主とペットたちの心を守るグリーフケアをお伝えしていきます。
お話し
動物医療グリーフケアアドバイザー
獣医師 阿部 美奈子先生