役に立ったらシェア！
病気になったときこそ守ろう「ペットの安全基地」
１．グリーフを知ることで守る「自分とわが子」
皆様、こんにちは。マレーシア在住、獣医師の阿部美奈子です。
第５回ではペットが病気になったとき、自分自身のグリーフへどのように向き合うか、そして家族にしかできない我が子へのグリーフケアがあることをお伝えしていきます。
ペットとの必然の出会いによって始まったハッピーライフ。
飼い主の日常にはペットを見ながら、思わず吹き出したり、ホッとしたり、可愛いと感じたり…苦笑いも含め色々な笑顔が増えていきます。
どんなときも自分の側にいてくれるペットが最大の味方となり、飼い主の人生のＱＯＬ（クオリティー オブ ライフ）に大きな影響力を持っていると言っても過言ではありません。
このハッピーライフが永遠に続いてほしいと誰もが願うのですが、ペットの平均寿命は人の5分の１であり、エンディングは避けられません。頭では十分にわかっていても心が簡単に受け入れてくれない状態になるのは、自然なグリーフです。
「動物医療グリーフケア」を知っていると色々な場面で自分自身の心、また愛する我が子を守ることができるようになります。
我が子に病気を宣告されたときに、自分自身に現れるグリーフを自然な心の反応だと理解することが出来ます。そして、日ごろからグリーフをありのままに話せて気持ちが楽になる人を見つけておくことで心が守られ、我が子へのグリーフケアをしていく勇気に変わるのです。
「幸福感とグリーフ」は対局の心情のように感じると思います。しかし、幸福感が大きければ大きいほど強いグリーフが生まれてくると考えると、グリーフはハッピーライフであることの証と受け止められます。
グリーフを知っていると、自分自身を不安や恐怖でマイナス思考に引っ張られることから守ることが出来ます。
「この子に出会えて良かった、幸運だった」と出会いの奇跡に感謝し、ポジティブな気持ちに支えられながら病気のわが子とのハッピーライフを続け、ハッピーエンディングを目指していくことができるでしょう。
２．人のグリーフがペットのグリーフにつながる
ペットが病気になったとき、飼い主である私たちのグリーフがどのようにペットのグリーフへと影響を及ぼしていくのか「心情の変化」を見てみましょう。
ペットが病気になったら…
-
うちの子の様子がいつもと違いおかしい。ちょっとした異変を感じる。そんな時に「不安・疑問・悲しみ」のグリーフが現れるのはとても自然なことです。
-
そして、それが「治らない病気」と分かったときや、深夜に異変を感じた。初めての経験。いきなり重篤な症状が現れたなど、私たちのグリーフは状況によってもその大きさは様々に変化します。
-
わが子が病気になったとき、一番深く関わるのは動物病院ですが、ここで自分自身のグリーフを理解してもらえないことや、ショックで思考困難な状況が「新たなグリーフ」を生み出してしまうことがあります。「治らないかもしれない恐怖、不信感」「対応への不満、気持ちの温度差」「理解されないことへの怒り」「何で？と思う自責・他責」このような飼い主の気持ちは、表情や行動へも現れてきます。
-
この飼い主の極限状態のグリーフによる変化を、ペットは敏感に感じ取り「ペットのグリーフ」が発生してしまうのです。
３．病気になったときに愛犬に生まれるグリーフ
体調に異変があると愛犬はいつもと違う体の違和感からグリーフは避けられません。
体だけではなく目から見て感じる飼い主の表情や行動の変化、つまり心の違和感からグリーフはさらに加算されていきます。
愛犬に強いグリーフが生まれる要因は「心と体」が襲われる「さまざまな痛み」なのです。 このほかにも脳の異常、ホルモンの分泌異常や腫瘍、肝臓、腎臓等内臓の異常など病気がもたらす体の変化によって愛犬の心にグリーフが生まれ、戸惑い、パニックになったり、不安や恐怖を高め、自信を失ってしまうことも少なくありません。
体の痛みによるグリーフ～愛犬が見せる表情や動き
| 原因となる箇所 | 愛犬の表情や動き（例） |
|---|---|
| 口、胃腸、すい臓など、腹部の内臓 | 食べられない、食べ方が違う、食欲の低下、よだれ、吐き気、下痢、口の開閉を嫌がる、口やお腹を触ることに抵抗する、呼吸が早い、ふせの姿勢が増える、動けない、横になれない、眠れない など |
| 首、背中、腰、 四肢の関節 |
動かない、立てない、立ったり座ったり姿勢の変化を嫌う、横になれない、眠ることができない、トイレを失敗する、呼吸が速い、人から体を触られたり抱っこされることへの抵抗、小刻みな体の震え、散歩を嫌がる、食欲の低下、ごはんが上手く食べられない、悲鳴をあげる など |
| 心臓、肺、気管など、胸部の内臓 | 呼吸数の変化、開口呼吸、いつものように歩けない、倒れる、体がだるそう、貧血でふらふらする、食欲にムラがでる、食べない、眠れない様子、横になったり仰向けにはなれない、伏せの姿勢を好む など |
環境の変化によるグリーフ～愛犬の目から見える景色
- ・自分を見る飼い主の表情の変化
- ・自分に話しかけられる声や話し方の変化
- ・いつもの名前の響きがなくなる
- ・自分のテリトリーを離れる
- ・同居仲間との別れ
- ・家から病院までの緊張感が高まる車内
- ・動物病院での待ち時間、診察、検査、治療などの医療現場
- ・動物病院のスタッフの声、表情や行動
- ・エリザベスカラー、点滴セット、入院ケージ
- ・お家でいつも見てきた日常の変化
（食事、トイレ、ベッド、好きな居場所など） - ・投薬、強制給餌やその際に見える景色
- ・家族の悲痛な声で会話する姿
- ・気持ちを追い詰められた飼い主の行動 など
心の違和感から生まれるグリーフ～愛犬との心の温度差
病気の理屈をなにも知らない愛犬は、病気になってからも〇〇ちゃんとしてまっすぐに生きています。
病気や治療などの情報を持つ飼い主や医療従事者は「病気」が話題の中心となり、気付かない間に愛犬に「病気ちゃん＝病気になったかわいそうな子」のレッテルを貼ってしまいます。そして、病気のわが子を看る飼い主の苦悩も大きく、そのグリーフは自然に声や顔などの表情や行動に現れてしまいます。
出会ってから飼い主のそばで「言葉を越えた交流」をしてきた愛犬。言葉の意味はわからないために、飼い主のグリーフを抱えた声や表情、行動がどうしていつもと違うのか、理由がわからないために危機感となり愛犬の緊張や警戒心の高まりにつながってしまうのです。
飼い主から「愛されている」というメッセージを受け取れないことは愛犬にとってグリーフです。
次回は、飼い主さんのグリーフケアの取組みレポートをお伝えしていきます。
お話し
動物医療グリーフケアアドバイザー
獣医師 阿部 美奈子先生