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シニア犬・シニア猫と暮らす

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.13

  • チャコちゃん・ひなたちゃん
  • vol13

    チャコちゃん(ミックス)

    推定2007年 12月生まれ 16歳(女の子)

    ひなたちゃん(ミックス)

    推定2010年 2月生まれ 14歳(女の子) 

    ボーダー

    帰ってきてくれて、ありがとう!
    愛情を込めて譲渡した保護犬が、
    時を経て十数年ぶりに帰ってきた―!
    長い保護ボランティア活動を経て、
    真摯に向き合った「命を預かる真の責任」とは・・・

一匹の捨て犬との出会いから始まった、保護犬ボランティア活動

片岡幸弘さん(61)と純子さん(57)ご夫妻が犬との暮らしをスタートさせたのは30年近く前のことー。神社で捨てられた一匹の白い子犬と出会ったことがきっかけでした。
寒い冬のある日、子犬を見つけたふたりはそのまま放っておくことができず、すぐ家族として迎え入れることに。パフィーと名付けられた子犬は、子どものいなかった二人の生活に大きな光を与えてくれました。

  • 純子さんはその後、パフィーのような捨てられた犬を一頭でも救いたいと、動物愛護センターに収容された犬を一時的に預かり、世話をしながら新しい飼い主さん探しをする保護ボランティア活動を開始。これまでに70頭近くの命を救い、譲渡してきたと言います。
    「保護ボランティア活動を始めてからしばらくした頃、近所に住みついていた野良犬を保護しようという話になりました。野良生活にすっかり慣れた犬だったので、捕獲は簡単ではなかった・・・。推定1歳くらいの成犬で人に対しての警戒心がかなり強かったため、譲渡せず、うちの子にしようと主人とも話し合っていました」

  • 保護犬活動時の片岡夫婦2008.11月撮影(手前茶ちび子、左パフィー)

    ▲保護犬活動時の片岡夫婦2008.11月撮影(手前茶ちび子、左パフィー)

純子さんたちの捕獲作戦は無事成功!チビ子と命名されたその犬は、先住犬のパフィーともとても仲良しで、その後も、片岡家の一員としてパフィーと共に、動物愛護センターから次々やって来る保護犬たちの面倒を実によく見てくれたと言います。

  • 生後三か月ほどでセンターからやってきたチャコも数多い保護犬の中の一頭でした。チャコは犬が大好きで、パフィーやチビ子はもちろん他の保護犬たちや、ドッグランで出会う犬たちともとても上手に遊べる犬。人間も大好きで、保護して3か月後に新しい家族が見つかり、元気に巣立っていきました。

    それからも片岡家は大忙し!次々にやってくる保護犬の世話に追われながら、動物愛護センター出身のうり坊とクロの二頭が新しく家族に加わりました。

  • テーブルのモノを漁るチャコ

    ▲テーブルのモノを漁るチャコ

それからしばらくしたある日、自宅近くのコンビニエンスストアで野犬の子犬いることを知った純子さんは、三匹の子犬の保護に乗り出します。
無事、純子さんに保護された三匹は「ふわり」「ひなた」「花菜」命名され、飼い主さんを募集したところ、二か月ほどで飼い主さんが決定。そのうちのひなたと花菜、二匹を同時に迎えてくれたのは、チャコの飼い主さんでした。

「とてもいい飼い主さんご夫婦で、チャコをお譲りしてからすでに三年が過ぎ、何の問題も見当たらなかったので、安心して譲渡したんです」

ところがしばらくして、花菜は純子さんの家に戻ってくることに・・・。
「突然、家庭の事情が変わったらしく、チャコ、ひなた、花菜、三頭の面倒はとても見られそうにないので、花菜を返したいとのことでした。ひなたとチャコはとても仲がいいので、花菜が戻ってくることになったんです」

  • その後、片岡夫妻は、花菜の里親募集は行わず、自分たちの家族として迎えることを決意。片岡家の愛犬はパフィー、チビ子、うり坊、クロ、花菜の総勢5頭となったのです。

    夫婦が毎日5頭の犬を散歩させる姿は、近所でも有名になるほど。そこに保護犬たちが入れ替わり立ち代わりやってくるので、毎日が大忙しです。

    そんな中、14歳になったパフィーが病気で他界したことをきっかけに、純子さんは保護活動を中止することにしました。今後は、猛スピードで年をとっていく愛犬たちとの生活を大事にしたいと考えたからです。

  • ▲散歩する片岡夫婦と犬たち(チャコはいつでも飼い主さんの顔を見ている)

    ▲散歩する片岡夫婦と犬たち(チャコはいつでも飼い主さんの顔を見ている)

その後、チビ子が12歳、うり坊が14歳、クロが13歳、花菜が13歳で他界。
みんな重い病気を患った末のお別れで、片岡夫妻の中には、悲しみだけが残り、いずれも納得できる看取りではありませんでした。

「どの子も病気で亡くなったため、いわゆる老犬介護というものは経験していません・・・。病気での看取りは本当に辛くて、これでよかったのかなと思うことばかり・・・。チビ子を見送った後の残りの三頭は、毎年、順番に病気で亡くなっていったので、毎年誰かを看取る辛い三年間でした・・・」

数十頭の犬の保護活動に追われ、愛犬5頭を病気で亡くした片岡夫妻は、犬との生活から少し離れようと考えました。そして、今後は自分たちの趣味を思う存分楽しもうと決意し、自宅をリフォームして心機一転、新たなライフスタイルをスタートさせたのです。

十数年ぶりの保護犬との再会と、新たな暮らし

  • 新たなライフスタイルに入った片岡夫妻のところに知り合いの保護ボランティアさんから連絡があったのは、最後の5頭目の犬、花菜を見送ってわずか半年もたたない春のこと。

    チャコの飼い主さんが、チャコとひなたを知り合いのトリマーさんに預けたまま、行方がわからなくなった、という話が純子さんの耳に届いたのです。

    「チャコとひなたをトリマーさんに預けたまま三か月間行方がわからず、連絡先に連絡をしても音信不通。トリマーさんにずっと預けっぱなしというわけにもいかず、何とかできないか、という相談でした」

    チャコを譲渡してすでに16年、花菜と姉妹のひなたも譲渡してから14年が過ぎていました。
    「まさか保護して譲渡した犬が10数年経って、戻って来るとは想像もできなかった。・・・驚いたことは事実です」

  • チャコ、後ろにひなた

    ▲チャコ、後ろにひなた

犬や猫の保護ボランティアさんが、保護した犬猫を譲渡する時には譲渡先とのマッチングを確認するため、トライアル(お試し期間)を設けていることがほとんどです。しかし、正式譲渡が成立すれば、その後は譲渡先の飼い主さんが看取りまで責任を持って世話をするのが当たり前。チャコやひなたのように10数年以上たって「飼い主さんが飼育できなくなった」と、連絡が入ることはまずありえません。

  • 「噂でしかありませんが、チャコの飼い主さんは健康状態が悪く、本人の生活も大変な状況らしいと聞きました。手放したくて手放したわけではない。泣く泣く手放さざるを得なくなったんだと思います。それなら、うちで引き取ろうと、その話を聞いて思いました」

    純子さんは、チャコとひなたを預かっていたトリマーさんと何度も話し合い、引き取ることを決意しました。チャコはひどい皮膚病を患ってガリガリに痩せていましたが、それもすべて承知の上だったと言います。

    「チャコの皮膚の状態がとても悪い、ということは電話で聞いていたのですが、実際迎えに行って会ってみると、想像以上にひどかった・・・。なぜ病院に連れて行かなかったのかとも思いましたが、他人の犬なのでトリマーさんも勝手なことはできませんし、お金もたくさんかかります。なにより、トリマーさんが、無償で三か月も面倒を見てくださったおかげで、チャコもひなたも無事だった・・・。本当に感謝しています」

  • ▲片岡家に来る前のチャコとひなた

    ▲片岡家に来る前のチャコとひなた

  • こうして、最後の愛犬、花菜がいなくなってわずか半年、まるで片岡家に犬がいなくなったのを見計らったように、二頭は帰ってきました。

    十数年ぶりに片岡家に足を踏み入れた二頭は、その家を懐かしむかのように匂いを嗅ぎまわり、用意していたベッドの上に何の躊躇もなく、安心してすぐ丸まって眠り始めたといいます。

    チャコもひなたも、命を救ってもらい、愛情いっぱいに世話をしてくれた夫妻のことを決して忘れてはいなかったのです。

  • ▲仲良しにベッドでくつろぐチャコとひなた

    ▲仲良しにベッドでくつろぐチャコとひなた

その二日後、純子さんがチャコを動物病院に連れて行くと、チャコのひどい脱毛と極度な体重減少は甲状腺機能障害が原因だということがわかりました。
薬の服用と週に一度のシャンプーで改善できそうです。夫婦と一緒に歩く朝晩の散歩もご機嫌で、これまでずっと片岡家で飼われてきた愛犬のよう。二頭ともシニアにしては食欲旺盛で、ご飯もよく食べます。

  • それからわずか二か月で、みるみるチャコの脱毛は改善し、顔周りにもきれいな毛が生えそろってきました。美人なチャコに戻るまであと一息!この家に戻り、チャコは16歳とは思えないほど、回復も早く、元気を取り戻していったのです。

    ひなたは「人見知りがひどく、人前では食事を食べない」と、トリマーさんから聞かされていましたが、片岡家ではそんな様子を微塵もみせません。

    やはり、この家にいたことを覚えているのです。

  • ▲水飲みボールで水を飲むチャコ

    ▲水飲みボールで水を飲むチャコ

「最初、引き取りに行った時、我々があとできることは、シニアになったこの子たちを、きっちり看取ることなのかな、と考えていましたけど、二頭ともすごく元気!我が家の5頭の犬は、みんな15歳を越せなかったので、5頭の時には叶わなかった、のんびりとした老犬との暮らしがチャコとひなたと一緒にできると思っています。老犬介護も経験して納得のいく看取りができれば何よりです。先に天国に行ったみんなが、そのためにチャコとひなたを引き合わせてくれたのかな・・・」

  • 純子さんは、愛しそうに二頭を撫でながらそう言います。

    今回のようなケースが起こった時、保護ボランティアさんは、自分が譲渡した犬を絶対に見捨てるわけにはいかないでしょう。しかし、自分の使命感や責任感だけで、出戻る犬猫を引き受けることができない状況もあります。だからこそ、必ずその命を看取る責任を譲り受ける飼い主さんは、果たさなくてならないのです。

  • ▲純子さんと遊ぶチャコとひなた

    ▲純子さんと遊ぶチャコとひなた

片岡家にわずか半年で、再び訪れた犬との暮らし―。
それは、犬との暮らし当たり前だった、片岡夫妻に対する神様のいたずらのよう。純子さんは毎日、チャコとひなたに、こんな言葉をかけると言います。

“ チャコ、ひなた・・・、良く帰ってきてくれたね!ここに帰ってきてくれてありがとう―。
本当に・・・、おかえりなさい。 “

チャコとひなたは、この言葉の意味をだれよりも噛みしめているはず。
人と犬との縁もまた、人と人以上に、神様が決めた糸でつながっているのです。

片岡夫婦とチャコとひなた

(取材:2024年9月)

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)

児童文学作家/特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会理事/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事

主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
その数230カ所を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。

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