セラピードッグとして新しい道を歩み始めた犬たちは、グループホームや児童養護施設などで暮らしています |
そんなこんなで、日本レスキュー協会の活動は、災害救助犬や介助犬、セラピードッグなどのワーキングドッグを育成する場所から、犬の適性を飼い主にしっかり見てもらう場所へと広がりを見せていきます。そして2003年、セラピードッグメディカルセンターが誕生しました。ここでは、保護したり、保護されてやむなく持ち込まれた犬を中心に、高齢者向けの施設などで受け入れてもらったり、幼稚園などさまざまな施設を訪問するセラピードッグを育成しています。
育成といっても、決まったプログラムを犬に植え付けるのではありません。人に馴染めるか、いろんな格好をしている人にどんな反応をするか、音を怖がらないか、とか、さまざまな角度から適性をチェックします。社会のいろんなことに触れさせている中で、その犬が人社会になじめるかどうか、時間をかけて見ていくのです。もちろん、セラピードッグとして施設などに移っても犬がストレスを感じないように、ということも考慮して。
セラピードッグをはじめとするワーキングドッグについて、日本ではまだまだ考え方が固い気がします。動物愛護センターから引き取られた犬や一般の人に保護された犬は、その事実だけでワーキングドッグに不向きだというレッテルを貼られかねないのもいまだに事実でしょう。だからセラピードッグメディカルセンターでは、じっくり、時間をかけて犬それぞれの適性を見ていくわけです。
セラピードッグとして、訪問セラピーを行う犬たち。そばにいてくれるだけで、お年寄りから子どもまで、なんだか和らいでいますね |
日本レスキュー協会のホームページには、多くの施設にセラピードッグとして引き取られていった犬たちの写真が掲載されています。かれらは新しい生活の場で、どんな役割を持っているのか?
……答えは、「そこにいること」。いるだけで人々を癒す存在だったり、看板犬だったり、多くの人が生活する場所に動物がいる、その事実が大切なのです。
「犬が来たことによって、周りの人が変わっていく」。日本レスキュー協会で、そんな言葉を聞きました。犬がいるから、足元に落ちたものはちゃんと拾おう、とか、急に大きな音を出さないようにしようか、とか。例えば高齢者の施設の場合、犬が来たことで「なにかしてあげなきゃ」と、高齢者が元気になることだってある。
新潟中越沖地震の被災地に訪問し、たくさんの人々に「笑顔」をプレゼント |
また、訪問セラピードッグは、5年前の新潟中越沖地震や兵庫県佐用町を襲った集中豪雨によって、仮設住宅での生活を余儀なくされている人のもとへの訪問も行っています。
写真を見ていると、ふれあっている犬も人も、笑顔であることに気付きませんか?
動物と人は、尊重し合い、癒し合い、お互いに必要としあっている生き物、そんなことをあらためて感じさせてくれます。
つまり、飼い主が手放した犬だから、動物愛護センターに保護された犬だから、それだけで、犬の命は決められないということです。保護された犬が立派にセラピードッグとして、次の生活を始めている、そのことがなによりの証明です。
これからセラピードッグとなる犬たちは、先輩セラピードッグの施設訪問に同行し、見習い |
幼稚園などを訪問し、子どもたちに犬との接し方を教えるのも、大切なことです |
ただ、新しい生き方が見つかるのなら、保護された犬も良かったね、と思ってしまってはいけません。社会には、しつけを覚えられない自分の犬は駄目なんだ、と思ってしまう人もまだまだ多いようです。そうではなく、自分の犬の性格をちゃんと見て、ベターな接し方を考えていきたいものです。ここから、保護され、悲しい運命を辿る犬を減らす道が、始まるのではないでしょうか。
日本レスキュー協会の取り組みは、保護された犬にとっての第3の道と言えるでしょう。これがいつの日か、第2の道へ、なりますように。