猫にかまけて (講談社文庫)
町田 康 著
講談社文庫
定価570円
猫は、気分屋であると言う人もいれば、
実はものすごく人間を観察していて、対処法を心得ている、
だからとても知能の高い生き物だ、
という人もいます。
ミステリアスであり、愛くるしい存在、
それがおそらく猫なのでしょう。
犬でも猫でも、飼っている人にとっては
もはや動物ではなく、人と同じ存在。
だからこそ、その気持ちを想像してみたり、
友人と話すかのように、会話を楽しんだり。
要するに、人生を共有するとても近い存在ということでしょうか。
ただ猫は、その仕草、存在だけで人間を愉しませてくれる。
その点は犬よりもはるかに上なのかも知れません。
パンクロッカーであり、近年は作家としての活動が主と
捉えられている町田 康という人物は、
かなりの猫愛好家で知られています。
そんな彼にとっても猫は
「一緒に暮らしていて、そのうえ彼・彼女から日々、多くのものを得ている」
感覚をもてる存在だそうです。
ペットを飼っているという感覚はない、そう断言しています。
今回ご紹介する「猫にかまけて」は、
そんな作家による、共に暮らす猫との日々が綴られた作品。
最古参のココア、雉虎柄でやんちゃなゲンゾー、ヘッケ、奈奈。
彼女・彼らがまるで“町田さん”と本当に話しかけているように
思えてしまう言葉の数々、
それぞれの性格が垣間見えるほど、
細やかな観察によって紡がれた文章がそこにあります。
以前は猫が苦手だった、と本人はあとがきに書いていますが、
「またまた、ご冗談を」と言ってしまいそうなほど、
文章の合間合間に、猫に対する深い愛、尊敬が見えてきて、
仮に猫を飼っていなくても、猫に興味を持ったことがなくても、
その世界に引き込まれてしまうのではないでしょうか。
ある雨の日に助け、14か月を共に過ごし、看取ったヘッケ、
本作の最後には、ココアとの別れ。
町田 康という人との暮らしの中で起こるそれら悲哀もすべて
ありのままに綴られています。
一見、日記調で淡々と綴られているように感じますが、
ひとつひとつ丁寧に、
出来事や猫たちの気持ちを表していることを、読み進めていくうちに感じることでしょう。
作品はココアの葬儀後で終わります。
悲しい話のはずですが、なぜだか心が温かい、
そんな余韻も感じでください。