ふと読みたくなる、猫の本

猫の神様[ハードカバー]

いつかは看取ることになる そこから始まる物語

猫の神様(講談社文庫)
東良美季 著
講談社文庫
定価 500円

この記事の見出しからお察しいただけると思いますが、
この本は、共に暮らした猫を看取る話です。
しかし、暗くありません。ペットロスの話でもありません。
確かに読み進めている間はずっと、
常に涙腺のふちで涙が膨張して堰を切る寸前のように
感じることでしょう。
それでもこの本に綴られている言葉と看取るまでの毎日は、
愛にあふれているのです。

人とふれあうことが苦手なライターが、
ある梅雨明け前の雨降り朝、ジョギング途中で大きな鉄のゴミ箱の下にいた
2匹の子猫に出会います。
その時は素通りし、しかし気になって仕方がなく、
深夜に自転車で様子を見に行く。
2匹とも小さく、コンビニの海苔巻きくらいの大きさに感じる著者。
目やにがいっぱいの黒い「ぎじゅ太」、生意気だけど賢そうな白い猫「みゃ太」。
彼らを連れ帰ったことから、著者の生活に、心に、
いろいろな変化が生まれていきます。

やがてペット飼育不可だった二間のアパートから、ペット飼育可のマンションへ。
著者の生活は少しずつ、猫とのことを考えた暮らし方になっていく。
毎日の生活が淡々と過ぎていくなかで、猫への思いは
温かくふくらんでいきます。
そして・・・。

10年8か月共に暮らした「ぎじゅ太」が天へ召されたあと、著者が気付いたこと。
-僕は神も仏も信じないけれど、猫の神様ならこの空の何処かにいるかもしれない。何となくそう思った。ぎじゅ太は独り寂しく暮らす僕に、猫の神様が一時期だけ預けてくださったものだった-

それから2年ほどで、今度は「みゃ太」を腕の中で看取ることになり、感じたこと。
-猫と暮らし、彼らを愛したことがある人間にとって、その死は、深く愛したぶんだけ恐ろしいほどに辛く悲しい。でも、彼らが僕たちの胸に傷を残すことは決してない。あのふわふわと柔らかくて温かく、愛しい記憶だけを残してくれる-

「みゃ太」が弱ってからは、人間と猫の共同生活のなかに、
看病や動物病院への通院も加わり、著者の心情は上へ下へ、
日々動いていきます。その変化こそが、もしかしたら
ペットと共に生きていることの一番のリアリティだったのかもしれません。

猫だけでなく、人間とは違う生き物を家族に迎え、
そして暮らしていくということは、
“いつかは看取るということ”
という大きな前提と、共にあります。
そこから始まる生き物との生活は、
間違いなく、慈愛に満ちた、素晴らしいものだと、
温かく教えてくれる一冊です。